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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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デコピン

「ブルブルは無口だけれど、無闇に何でもかんでも噛み付くような性格じゃないよ」


「いや、フェイルーラがいない間のお前の派閥の奴ら、俺様に当たり強いぞ?」


「本当に何をやったんだい?」


 ブルブルだけでなく、派閥の他の面々からも腫れ物扱いなのには、絶対理由がある。


「いや、フェイルーラがいないから、代わりに俺様があれこれ指示出ししないといけないかと頑張ったんだが?」


「…………」


 はい、理由が判明しました。


「何故、君が、私の代わりに私の派閥の面々に指示出しをするんだい? 派閥のボス代行はグーシーだ」


「いや、格を考えろよ? 向こうは騎士貴族で、こっちは将軍家だぞ? 立場は俺様の方が上なんだから、俺様に沿うのが当然だろう?」


 成程成程? これを聞いて、思わず溜息が漏れる。俺ではなくインシグニア嬢の方から。


「ジュウベエ君。この王立魔法学校においては、その肩書は通用しないからね? この王立魔法学校の理念を知っているかい?」


「ああ。さっき、フィルフィンから聞いたからな! 『研鑽』、『平等』、『尊重』だろ? フィルフィンが、自分たちと俺様は平等なのだから、仲良くしよう。と歩み寄ってきたからな!」


 ああ、そうやって。俺が半眼で視線だけフィルフィン君の方へ向けるが、フィルフィン君は元より、周囲のギガントシブリングス家の者たちも堂々としている。まあ、こちらの馬鹿がヘマやっただけ。と心の中で思っているんだろう。


「成程ねえ。で、フィルフィン君たちと一緒にいた時にブルブルに声を掛けて睨まれた。と?」


「良く分かったな!」


 驚かれても困る。


「私でも避けるからね。敵と一緒にいるお山の大将なんて」


「お山の大将……ッ!? 俺様は歴とした日道国将軍家、海神家の者だぞ!」


 怒りに任せて机を叩くジュウベエ君。


「言ったろう? 『敵と一緒にいる』と。グーシーから説明があったはずだ。この魔法学校では、四つの寮が競い合うと。それなのに、敵寮と一緒にいる自寮の、それも派閥のボスを見掛けたら、私なら闘う前から敗けを確信するよ。どれだけこちらの情報が抜かれたか分からない。ジュウベエ君、君、彼らと何を話したんだい?」


「は? 情報を……、抜かれる?」


 ここに来て漸く事態を理解したのか、ジュウベエ君は顔を真っ青にした後、一転して顔を真っ赤にすると、隣りのフィルフィン君へ向き直る。


「お前! この為に俺様に近付いたのか!」


「何の事だい? 妄想も甚だしい。僕たちは同じ学校に通うのだから、友好を深めようと近付いただけだよ」


 しれっとジュウベエ君の怒声を流すフィルフィン君。しかし周りを囲うギガントシブリングス家の面々は、嘲笑を隠そうともしない。これに、耳まで真っ赤にするジュウベエ君。


「ジュウベエ君が本当にヴァストドラゴン寮の寮長だったなら、私なら見限って変寮しているね」


 俺の言葉は痛恨だったらしく、ジュウベエ君は頭を抱えてその場に伏せる。それをしたいのはこちらの方なんだけど? これで更に魔法学校で結果を出すのが難しくなってしまった。


 セガン陛下の計らいで、表面的には手打ちとなったけれど、それを額面通り信じる人間が、この学校にどれだけいるか。マイナスからのスタートが更にマイナスに引かれてしまった。いや、マイナス掛けるマイナスで逆にプラスか? …………馬鹿らしい。こんな事を思っていないとやっていられない。


「まあ、過ぎた時間は元に戻せない。王立魔法学校と言う戦場で常に気を張るのを忘れ、まつりちゃんを連れ歩かなかったジュウベエ君の失態だね」


「まつりちゃんと言うのは、確かジュウベエ君の守護精霊だったね?」


 ジュウベエ君に話したのに、フィルフィン君から返事がきた。どうやらジュウベエ君は自身の事も結構話してしまったらしい。


「あん? そういや、てめえ、「僕と君の仲じゃないか?」とか言って、まつりを出させないようにしていたな?」


 ジュウベエ君の言葉に、本当に頭を抱えたくなってきた。


「泣きたい」


「私もです」


 インシグニア嬢も同感らしい。


「ハッハッハッ! 泣いたって良いんだぜ!? 気持ちは分かる! こんな馬鹿を派閥に入れなきゃならなかったなんて、災難だからなあ!」


 あの身長二メータの少年が、豪快な嘲笑で煽ってくる。これに対して反射的に殺気を飛ばそうとするジュウベエ君の頭にチョップを食らわす。


「フェイルーラ! 面と向かって馬鹿にされたんだぞ!」


「事実なんだから、素直に受け入れるんだね。それに向こうは煽っただけで手を出して来ていない。ここでこれに乗ったら、君はトラブルを起こした。として、初日から停学だってあり得るんだ」


「んな!? 何で俺様が!?」


「文句は私じゃなく、規則に言ってくれ。ここは闘技場じゃなく、勉学の場だ。見返したいなら、勉学で彼より優秀な成績を獲得するんだね」


「出来る訳ねえだろ? こんな馬鹿に!」


 これには、大柄な少年だけでなく、他のギガントシブリングス家の面々も大笑いだ。笑っていないのはフィルフィン君くらいか。隙を見せないな。


「何で、こんな事に」


 ジュウベエ君は嘆いているが、完全に身から出た錆なので、擁護のしようもない。それに、悪いけれど、派閥のボスとしては、更に言及しないとならない。


「ジュウベエ君、私の隣りにいるのは誰でしょう?」


「インシグニアだろ? 名前くらい覚えている」


 うん、不正解。


「インシグニア『嬢』だね。この学校で派閥のボスとして振る舞っていくつもりなら、女性には『嬢』を付け、男性には『君』を付けるのを徹底するべきだ。多分だけど、分館でも、ブルブル相手に呼び捨てしていたんしゃないかい?」


「そんな細かい事気にするのかよ!?」


「細かい事だからこそ、積み重なる度にイライラも積み重なっていくんだよ。そもそも、そこのフィルフィン君にも言われただろう? この学校の理念にある『尊重』だ。呼び捨てにするのは、その理念に反する。呼び捨ては、もっと砕けた関係になってからするべき事だ」


 冷めた目でジュウベエ君を見るが、理解出来ない。とこちらへ目を見張るばかりだ。


「なら、君の国、ニドゥーク流に分かり易く説明しよう。「『さん』を付けろよ、デコ助」って奴だ」


 言いながらジュウベエ君のおでこにデコピンすると、


「あれかあ……」


 と渋面になりながら、天を仰いで納得するジュウベエ君だった。



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