三日連続
不動の黄金姫が動く、か。
「その話って、どこまで広がっているの?」
「一応、俺に打診が来た時点で止めているよ。これが噂に上れば、各寮の動きがどうなる事やら。ただ、アウレア様の派閥の面々は既に知っている。またはもう動こうとしているだろうけれど」
「それは変寮ギリギリまで待って貰うように言っておいて貰える?」
「アウレア様がヴァストドラゴン寮に変寮するのが規定路線なら、早くに触れ回った方が良いんじゃないか?」
「いや、だって『不動』なんでしょ? 今話を聞いただけでも、その『黄金姫』様は、自分に集る連中を良く思っていない事が分かる。触れ回ったら、そう言う連中までこちらに変寮入寮してくるだろうからな」
これには首肯するオブリウス。
「確かにな。アウレア様の美貌に囚われ、恋慕している連中は多い」
これを聞いて口の中が苦くなる。
「そんな連中が、俺の言う事を聞くと思うか?」
「ああ、魔力量が少ないってだけで下に見るだろうな」
それだけならまだ良いが、そのアウレア嬢に良いところを見せようと空回りして、ヴァストドラゴン寮に不利益な行動をしそうなのが何ともなあ。それを矯正しているだけで、五年か過ぎそうだ。時間の無駄以外の何ものでもない。
「インシグニア嬢の意思もあるしな。彼女が、アウレア嬢と同じ寮は嫌だ。と言い出したら、俺はそちらを優先するから」
まあ、グリフォンデン寮以外なら、どの寮でも良さそうだったから、アウレア嬢の入寮を嫌がるとは思わないが。
「分かった。アウレア様にはそのように伝えておく」
「ああ、頼む。もしも正式にアウレア嬢の派閥が変寮するとなったら、補填として、ジェンタール兄上やアドラ姉上、フィアーナの派閥はタイフーンタイクン寮に行かせるよ」
「良いのか?」
これに片眉を上げて驚くオブリウス。サスティニース君など、目をまん丸にしている。まあ、アウレア嬢が移動しなくても、ジュウベエ君とマドカ嬢を受け入れるのだから、移動して貰うけど。
「いられても、俺がトップにいたら活躍しないだろうし。フィアーナの派閥は来年にはグリフォンデン寮に移るだろうけれど」
「ああ、それは容易に想像付くな」
フィアーナはインシグニア嬢を使ってまでグロブス殿下と仲を深めていたのだ。それを掻っ攫われて取り逃す程、ヴァストドラゴン家の女は穏便じゃない。
「しかし、そうなると、益々各寮間で移動が激しくなりそうだな」
「入寮したら、一年間は別の寮に変寮出来ないんだよね?」
「ああ。イジメなど、相応の理由がなければな」
それはイジメをしていた奴を退学にするべきなんじゃないかな? 何でイジメられていた方が別の寮に移らなきゃならないんだ? …………王族がイジメしていたとかだと、行政が動くか? 面倒臭いなあ。
「取り敢えず、そんなところ?」
「こちらからはな」
「そう。なら俺もすぐに支度するから、アウレア嬢のところへ連れていってくれる?」
「はあっ!?」
これに変な声を上げたのはサスティニース君だ。オブリウスは何となく察しているのだろう。これに動揺していない。
「早いな」
「……ああ、いや、その前にインシグニア嬢も連れていこう。グーシー、グリフォンデン領分館に連絡入れておいて」
「了解しました」
「フェイルーラが動くと言う事は、当然、ブルブル嬢も同行するんだよな?」
抜け目ないなあオブリウス。
「当然、俺の補佐をする三人に、インシグニア嬢たちが乗れるくらい大きな車なんだろうな?」
「ジュウベエ君たちを乗せて来たんだぜ?」
そうだった。ジュウベエ君たちはもうタイフーンタイクン家の客人じゃなくなったから、今日からこのヴァストドラゴン領分館で、王立魔法学校入学までを過ごす。それに明日は受験日だから、ジュウベエ君派閥の四人は、うちの対策問題集を使って、今日一日みっちり勉強漬けだ。
「俺様も行くぞ」
そんなの関係ない。とジュウベエ君が声を上げる。それに対して思わず半眼になってしまう自分がいた。
「グーシー、任せた」
「はい」
「おい!」
「別に闘いに行くんじゃないんだよ。話が終われば、すぐに帰ってくる」
ジュウベエ君も半眼になるが、ぶっちゃけいられても邪魔なだけだ。
「ジュウベエ様、将軍家のご子息として、部下を放っておいて、観光気分でフェイルーラ様と同行されても困ります。それとも、ニドゥーク皇国では、ボスは部下の責任を取らないのが通例なのでしょうか?」
珍しくグーシーが冷めた目でジュウベエに釘を刺す。昨日の今日だ。部下にだけ受験対策させて、本人は自由行動など許されない。そこら辺の線引きはしっかりしているからなあ。
「分かったよ。でも俺様は受験免除……」
「部下より頭の悪いボスの下で働くなんて、私には考えられませんね」
グーシーの痛恨の一撃に、ぐうの音も出ないジュウベエ君だった。
✕✕✕✕✕
「済みません。三日連続だなんて、そちらも都合があるでしょうに」
「いえ、フェイルーラ様のお誘いなら、一も二もなく駆け付けます」
グリフォンデン領分館のエントランスにて、インシグニア嬢たちと合流。インシグニア嬢の口元は笑顔だけれど、腹の底で何を思っているやら。……はあ、いや、俺は領婿なんだから、支えるのみだ。馬鹿な勘繰りはやめよう。
「済みません。これからアウレア嬢と会う事になるのですが……」
「あ、はい」
明らかにトーンダウンしたな。苦手なのか? でも昨日のチョコレート店でのマドカ嬢との取り決めから、俺が敗ければタイフーンタイクン寮に行く事は決まっていたんだ。苦手意識はあっても、そこは領主貴族の令嬢、上手くやっていくくらいは出来るとの算段だったのだろう。
俺たちは車の中でアウレア嬢と会うに当たり、打ち合わせをした。隣りでオブリウスがブルブルに愛を語っていて煩かったけど。
✕✕✕✕✕
俺たちが来たのはとあるホテルだ。車のまま乗り付けられ、専用通路を通って、他の誰とも会わずにオブリウスによって設けられた部屋までやってきた。本当に仕事は出来るんだよなあオブリウス。タイフーンタイクン寮の寮長じゃなかったら、うちの寮に招いていたくらいだ。
俺たちが先に部屋に来ていたのだが、数刻するとチャイムが鳴り、サスティニース君が確認してドアを開けると、まず目に入ったのは、ご令嬢方々の頭だった。皆が頭を下げている。何これ?
「インシグニア嬢を持たせるような無礼を働き、申し訳ありません」
成程。ファンとしたら、推しを持たせるなんて以ての外か。
「どうぞ、顔をお上げ下さい」
『…………』
俺がそう促すも、誰も頭を上げない。困ってインシグニア嬢に視線を送ると、
「顔を上げて下さい、アウレア義姉上。それに皆様も」
と俺の意向を察して、インシグニア嬢が声を発する。すると一斉に頭を上げるご令嬢方々。良かった。先に打ち合わせしておいて。これは俺一人で来たら、にべもなく話を聞いても貰えなかっただろう。ここからは打ち合わせ通り、インシグニア嬢を中心に、話を進めて貰おう。




