二日目終了
決闘が終わり、意識がポッドの中に引き戻された。直後、全身を倦怠感と激痛が襲う。声も上げられない激痛で目がかすみ、頭が朦朧とする中、自動でポッドのフタが開く。同時にポッドから倒れ込む俺。
隣りのポッドを使っていたジュウベエ君も同じように倒れ込むが、向こうの方がまだ軽度だったらしく、完全に倒れる前に四つん這いとなった。こっちは腱一つ動かす事も出来なかったので、そのままフリーバトル用の部屋の床に突っ伏した。
「おい! 大丈夫か?」
「……これが大丈夫に見えるかい?」
何とかジュウベエ君の方へ顔を向けると、霞んだ視界に、心配そうにこちらを覗くジュウベエ君がいた。彼も全身汗だくで、肩で息をしている。
「精神だけバトルフィールドに送ったってのに、まさかこんな事になるとはな」
「謂わば一種の催眠状態だったからね。催眠に掛かると、脳が誤認して、身体を動かさなくても、まるで動かしたかのような信号を身体に送るから、水泳後のような倦怠感を起こすし、場合によっては、俺みたいに身体への負荷で動けなくなる事もあるのさ」
「何かそれっぽい事言っているが、鼻血垂らしながら言われても、格好は付いてないぞ」
鼻血出してたのか。脳への負荷で出たのか、今倒れ込んだ時に出たのか、分からんな。
「どうする? 動けるか?」
柄になく俺の心配をしてくれるジュウベエ君。決闘前の不遜な態度はどこへやら、俺が突っ伏したままなのを見過ごせないのか、オロオロしている。まあ、隣りでぶっ倒れている人間がいたら、大概の人はこんな反応になるか。
「取り敢えず、ここでくたばっていても邪魔だから移動したいんだけど、俺、身体が動かないんだよねえ」
「…………はあ」
俺がそんな発言をしたからか、自分も疲れているだろうに、ジュウベエ君は俺を担ぎ上げてくれた。
「おんぶされたのなんて、いつぶりだろう」
「黙っておぶされていろ」
そんな会話をしながら、ジュウベエ君は俺を担ぎながら、自身の重い身体を引き摺りつつ、部屋を後にした。
✕✕✕✕✕
『??』
フリーバトルの部屋から地下二階の控え室に戻ってきた俺たちを迎えたのは、万雷の拍手だった。最初ここに来たばかりの時には、値踏みするような視線を向けてきた決闘者たちが、今は俺たちに拍手を送っている。
「何だこりゃ?」
ジュウベエ君は決闘者たちの余りの掌返しに戸惑っている。
「凄かったぞ!」
「お前ら最高だ!」
「良いもん観させて貰った!」
「あんな痺れる決闘、上位ランカーの闘いでも余り観れない熱戦だった!」
どうやら控え室のモニターで、俺たちの決闘を観ていたようで、決闘者たちは純粋に褒めてくれているのだが、こちらは満身創痍なので、それに応えてあげられる余裕がない。
「……退けよ」
疲労困憊のジュウベエ君は、小さな声でエレベーターまでの道を塞ぐ決闘者たちに、文句を言うが、万雷の拍手に掻き消されて、声が決闘者たちまで届いていない。はあ。仕方ない。
俺がなけなしの竜の武威で威圧すれば、流石にここで決闘しているだけあってか、危機感が機能して、控え室の決闘者たちが左右に割れる。
「お前なあ。俺様の背中でそんな物騒なもの使うなよ。おぶっているだけなのに、更に疲れる」
「ごめんごめん。でもこれで道は出来たよ」
「……ったく」
文句を言いながらも、ジュウベエ君は身体を引き摺りながらエレベーターへ向かうのだった。
✕✕✕✕✕
『フェイルーラ様!』
一階、決闘者用のロビーに戻ってくるとジュウベエ君に背負われて姿を現した俺を心配してか、俺の派閥の面々が近寄ってくる。
グーシーとアーネスシスが俺をジュウベエ君の背中から引き剥がすと、ジュウベエ君もこれで力を使い果たしたのか、ロビーの床で仰向けに倒れる。それに駆け寄るジュウベエ君派閥の少年たちやマドカ嬢。
対する俺の前では、インシグニア嬢が心配そうに俺を見ているが、何と言葉を掛ければ良いのか分からないようで、手をもじもじさせている。俺も分からん。と言うか、疲れ果ててて喋るのも億劫だ。
「おい!」
そんな中、するりと俺を囲む人垣を掻き分け、ブルブルが俺に近付く。その手に魔導拳銃が握られている事に気付いたジュウベエ君が声を上げるが、ブルブルはそんな事気にせず、俺の肝臓辺りに魔導拳銃を押し当てて、引き金を引いた。
『ッ!?』
これにはインシグニア嬢やジュウベエ君、マドカ嬢たちだけでなく、ロビーにいた他の決闘者や受付の女性なども驚愕し目を見開く。
が、ブルブルに撃たれた俺はと言えば、一瞬、肝臓に高熱と激痛が走った後、身体の痛みが抜け、気力が回復していくのを実感していた。三十秒もすれば、身体も決闘前の状態まで元通りとなり、自立し、ピョンピョンとその場で軽く飛び跳ねる俺の姿に、またもロビーの人々が驚愕する。
「……どうなってんだ?」
怪訝な瞳を俺に向けるジュウベエ君。他の面々も説明を求めてるような視線をこちらへ向けている。
「ああ。ブルブルは回復魔法を得意としていてね。魔弾に回復魔法を詰めて撃ち出す事で、遠距離の仲間も回復させる事が出来るんだ。ジュウベエ君もやって貰った方が良いね」
「はあ!?」
これに、意味が分からない。と頓狂な声を上げるジュウベエ君。
「だって、その様子だと、明日は身体動かなくなっているでしょ?」
「いや、だからって、銃で撃たれたくないんだが?」
「大丈夫大丈夫。痛いのは最初の一瞬だけだから」
「最初は痛いんじゃねえか!」
「まあまあ」
などと会話を交わしながら、俺は手をわきかわきさせつつジュウベエ君に近寄ると、動けないジュウベエ君を後ろから羽交い締めにする。
「ブルブル!」
どうにか俺から逃れようとするジュウベエ君だったが、疲労困憊でそれも叶わず、ブルブルは素早くジュウベエ君に近付くと、その肝臓に回復の魔弾を撃ち込んだ。
「うぎゃ!?」
これに慣れていないジュウベエ君が、俺の羽交い締めを解いて、その場でのた打ち回る。
「か、肝臓が……」
「ふふ。無言の臓器と呼ばれる肝臓が、高熱と激痛でその存在感を示すのは、不思議な感覚だろう?」
「…………あ、何か身体から疲れが抜けていく感覚が……」
すっかり身体の疲労が抜けたらしいジュウベエ君が、スッと立ち上がった事に驚くマドカ嬢や派閥の少年たち。まあ、相当酷い状態に見えたからねえ。それが一瞬で回復するのは不思議だろう。
「これって、治療法として大丈夫なのか?」
胡乱な目で俺を見るジュウベエ君。
「色々試したんだけど、肝臓に回復魔法を撃ち込むのが、一番早く回復するんだよねぇ。骨折とか外傷とかは、当然その場所に撃ち込むのが正解なんだけど」
「はあ」
俺を見る胡乱な目は変わらない。
「長期的に見てこれが最適解なのかは、試してみないと分からないけど」
「そんなものの実験台に俺様をするな!」
「…………てへ」
「てへ、じゃねえんだよ!」
✕✕✕✕✕
「じゃあ、ジュウベエ君とマドカ嬢はヴァストドラゴン寮に変寮って事でOKですかね?」
「約束ですからね。仕方ありません」
場所を闘技場からバス内に移し、俺がニドゥーク組に尋ねると、頬に手を当てて、自分としては変寮したくない。との姿勢を見せているマドカ嬢だが、その顔は嬉しさで綻んでいる。余り令嬢がしてはいけない顔だが、突っ込んではいけないのだろう。それだけインシグニア嬢と同じ寮になれるのが嬉しいらしい。
「おう! 俺様もフェイルーラの寮で問題ない!」
ジュウベエ君もそんな返答だ。まあ、問題なのはタイフーンタイクン寮だろう。これだけの戦力が抜けるのは、あちらとしたらダメージが大きいだろう。タイフーンタイクン寮の寮長は乗り込んでくるだろうけど。あいつは、まあ。話が分かる奴だから。
「さ、帰ろうか」
こうして、前日に続いて、何とも濃密な一日が終わりを告げるのだった。




