子供に生まれは選べない
闘技場へ向かうバスの中、闘技場でジュウベエ君と戦う用意をする。と言ってもズボンのポケットから指抜きグローブを取り出すだけだが。ジャケットは上半身の動きを阻害するだろうから、闘技場に着いてから脱ごう。
指抜きグローブの指部分には魔法陣を刻んだリングが、甲の部分には鋲が付いており、これだけで接近戦も可能だが、その真価と言うか、主に使うのは掌に描かれた空間魔法の魔法陣だ。この中に俺の主武器であるガンブレードや魔弾の薬莢などが収められている。
「ああ、そうだ。そっちの武器だけ知っているのもフェアじゃないし、俺の主武器も何か説明しようか?」
振り返る事もなく、ジュウベエ君に尋ねるが、「はっ」と鼻息一つで吹き飛ばされた。
「別に要らん。実戦では相手がどんな武器を使ってくるかなんて分からないんだ。知ったところで対策は変わらん」
それはそうだけれど、それはそれとして、俺の派閥の面々が笑いを漏らすのはどうなんだ?
「どうかしましたか?」
ここまで俺を一段上に敬った行動をしていた面々が、少し苦笑気味にも俺を笑う異常さに、マドカ嬢が首を傾げる。隣りのインシグニア嬢も同感らしく、これに頷いている。
「ああ、フェイルーラ様の武器って、所謂ロマン武器なんですよ。何もそんな武器を選択しなくても。と俺たちも思うんですけどねえ」
状況を察したアーネスシスが、派閥の面々の行動の意味を説明する。
「ロマン武器?」
これに食い付いたのはジュウベエ君だ。これは流石に頭になかったらしい。
「ガンブレードって知っています?」
「ガンブレード? は? フェイルーラはガンブレードを使うのか?」
アーネスシスの説明に、驚きの声を漏らすジュウベエ君。意外だ。ガンブレードなんてマイナー武器をジュウベエ君が知っていたとは。
「あれだろ? アダマンティアの英雄譚に出てくるキャロルスター・アンセムが使っていた武器だろう?」
「へえ、まさかキャロルスター・アンセムの名まで出てくるとは」
「弟は幼少より、世界中の英雄譚を好んで読んできましたから」
俺の驚きに、マドカ嬢が説明を加えてくれた。成程、それならキャロルスター・アンセムの英雄譚も知っているか。
キャロルスター・アンセムは、今より五十年程前に活躍したアダマンティアの英雄だ。そもそも、ガンブレードを考案したのがキャロルスターだと伝わっている。
「俺様も一度だけ、ガンブレードを武器にしていた者から、ガンブレードを触らせて貰った事があるが、何と言うか……、片手銃としては重すぎるし、剣としては柄が銃用に曲がっているしで、帯に短し襷に長し、一挙両得どころか、一挙両損って感じだったぞ? 使っていた奴も、すぐに別の武器に変えたしな」
「そうだねえ。この国でもそんな立ち位置の武器だね」
俺のガンブレードの柄はどちらかと言えば剣用に近いが。
「いや、何でそんな武器使っているんだ?」
「まさかこんな事態になるとは思っていなかったんだよ。私は文官志望だし。戦場に赴く事なんてないだろうから、好きに武器を選んだだけなんだよねえ」
「英雄願望があったのか?」
「男の子なら一度は通る道でしょ?」
これには絶句のようだ。短絡的な武器選択で、落胆させたかな?
「まあ、小癪なお前の事だ。扱えない武器を、延々使い続けるとは思えないな」
「あはは。まあ、何だろうねえ。他の人は絶対に使わない武器だろう? そのせいか何だか研究し甲斐があってね。こうしたら面白いかな? とか、ああしたらもっと性能を引き出せるかな? 何て考えながら幾星霜って感じだね」
これには、俺の派閥の面々も苦笑するしかないようだ。
「は〜ん。まあ、お前相手に警戒すべきはガンブレードと言うよりも、あの竜の武威の方だけどな。あんなもの、どこで身に付けたんだ?」
ジュウベエ君的には、ガンブレードよりも竜の武威の方が気になるらしい。感覚が分からん。
「別に身に付けたくて身に付けたんじゃないんだけどねえ」
「そうなのか?」
意外だったようだ。まあ、ヴァストドラゴン家の内情を知らなければそんな反応になるか。
「うん。チョコレート店でも言ったけれど、この国の貴族は激情家か二枚舌だ。私の父上は前者でね。しかも生まれた時から魔力量が多く、既に竜の武威を身に付けて生まれてきた人だ」
「あれを、生まれた時から?」
信じられない話だろうけれど、我が家の執事長ゴーンドをして、ドラゴンの生まれ変わりや先祖返りなどと評するくらいには強い人だ。そして他者をその視点から強者と弱者に分ける人である。
「父上は、少し気に障る事があっただけで、竜の武威が自然と発動する人なんだ。それでいて、それを悪い事だとも思っていない。竜の武威は自分の当然の権利と思っている人で、だから、そこら辺の騎士貴族よりも少ない魔力量しか持たずに生まれた私は、父上からしたら竜の武威を向けるに値する対象だった訳だよ」
「そんな……」
隣りのインシグニア嬢が両手を口に当てるくらいには、普通はまかり通らない話だ。でも、
「多分、父上は生まれつき竜の武威を持って生まれたから、その制御を完璧に出来なかったんだと私は考えている。出来て当然で、周囲に対して放つのも当然だと考えていただろうから、それを意識的に出したり引っ込めたりは難しかったんだろうねえ。魔力量も桁外れだし」
俺の話のせいで、バス内が少し沈痛な雰囲気になってしまった。まあ、仕方ない。ここまで来たら、このまま突っ走ろう。
「そんな父上が身近にいたからね。父上の竜の武威に晒される中、どうにかこうにか生き残る為には、こちらも竜の武威を身に付ける以外に、生き残る術がなかったのさ。生存戦略って奴だね」
「……辛いです」
隣りのインシグニア嬢が我が事のように同情してくれる。派閥の面々も、これに関しては同情的だ。
「そこまで辛くなかったから。そもそも父上は俺の事を歯牙にも掛けないと言うか、眼中になかったから、父上の視界に入らなければ、どうと言う事もなかったので」
『…………』
余計に雰囲気が重くなっただと!?
「そのような方だと、フェイルーラ君のお母上も、ご苦労なされたのではないですか?」
マドカ嬢が、憐れみの視線を向けながら尋ねてくるんだけど。そっちの方が辛いから。
「いやあ、全然ですよ。私の母上は父上よりも武闘派なので」
「そうなのですか!?」
驚くマドカ嬢に更に苦笑となる派閥の面々。何を苦笑するのかと、ニドゥーク組は困惑している。
「私の母上は、第一周遊旅団の旅団長をしていまして、毎日元気に領内を駆け回っています」
「周遊旅団の旅団長ですか!?」
「姉上、それは何だ?」
「十兵衛……。本当に勉強せずにこの国にきたのね」
後ろを振り返りながら、刺すような視線をジュウベエ君に向けるマドカ嬢。
「いや……、はい。済みません」
広い最後尾のシートで肩身を狭くしているジュウベエ君が見えるようだ。
「周遊旅団と言うのは、領内の警邏を目的として設立された武力組織で、一年の大半を領内各地の巡回に充て、各地の騎士貴族たちと、魔属精霊や賊の討伐などに当たる組織よ」
「ふむ。凄そうだな」
普通に関心しているな。
「そうだね。基本的には騎士貴族家を継げない次男次女以降や一般市民から選ばれた精鋭で構成されているよ」
「その組織の長となると……」
「父上と母上の喧嘩は壮絶だねえ。私的には、父上に竜の武威を向けられるよりも、母上に雷落とされる方が嫌だね」
「マジか……?」
「マジだね」
困惑の声を漏らすジュウベエ君だが、地方の騎士貴族家出身の俺の派閥の面々は、当然母上とも面識がある訳で、それはそれは深く頷いてくれるのだった。実感籠もっているなあ。




