第2話:初クエスト、運命のルーレット
朝のフォレストタウンは、まるでRPGの拠点みたいだ。石畳の道に馬車がガタゴト走り、市場では果物や魚を売るおっちゃんの声が響く。パン屋から漂う香ばしい匂いに、俺の腹がグーっと鳴る。ニートだった俺、佐藤カズヤ、28歳。昨日、異世界に転生して命からがら角ウサギと狼を倒し、なんとかこの町に辿り着いた。冒険者ギルドのFランク冒険者として、今日から本格的にスタートだ。
隣には、アリア。金髪ポニーテールの村娘で、ちょっと使える水魔法の使い手。青い瞳がキラキラしてて、まるでアニメのヒロイン。いや、実際ヒロインだろ、この子。
「カズヤさん、ギルドのクエストボード見てみましょう! 初級クエストなら私も手伝えるよ。」アリアが笑顔で言う。彼女のワンピースが朝陽に映えて、ちょっと眩しい。
「うん、でもさ、俺のスキルがアレだからな……。運ゲーすぎて胃が痛いよ。」
そう、俺のチートスキル「ギャンブル」。戦闘前にルーレットを回して、職業、武器、防具、魔法をランダムで設定。強いのが出れば楽勝、弱いのが出ればピンチ。失敗して瀕死になると再チャンスがあるけど、ぶっちゃけ怖い。昨日は農民とか商人とか、クソ弱い設定で死にそうになったし。幸運ステータス5って、ニートらしい低さだよな。
ギルドの建物はでかい。木と石でできた3階建て、看板には剣と盾のマーク。扉を開けると、カウンターの向こうで受付のお姉さんが書類を整理してる。赤毛のショートカット、眼鏡、キリッとした雰囲気。名前はリナ、昨日登録してくれた人だ。
「おはよう、Fランクのカズヤ君。さっそくクエスト受ける気?」リナがニヤッと笑う。なんか、試されてる感じ?
「う、うす。簡単なやつでいいっす。初級冒険者なんで。」
リナがボードを指す。「ほら、選んで。薬草採取、ゴブリン討伐、荷物護送。Fランク向けならこれくらいかな。」
アリアが目を輝かせる。「薬草採取がいいかな? 森の奥で採れる『癒しのハーブ』、村でも使ってるの。私、場所知ってるよ!」
「よし、じゃそれで。安全そうだし。」俺は安堵。ゴブリンとか怖いしな。ニートに戦闘は荷が重い。
リナが書類を渡す。「はい、クエスト受注。報酬は銅貨10枚。ハーブは10株ね。失敗したらペナルティでギルド清掃だから、気をつけて。」
「清掃!? マジか、ニートの俺にそんな労働は……。」
アリアがクスクス笑う。「カズヤさん、弱気すぎ。運が良ければ楽勝だよ!」
楽勝ねえ……俺の幸運5を舐めんなよ、と思いつつ、ギルドを出る。町の門から森へ向かう道は、馬車の轍が刻まれた土道。鳥のさえずり、風の音。昨日戦った森より開けてて、ちょっと安心。
「カズヤさん、スキルってどんな感じなの? 昨日、狼倒した時、めっちゃカッコよかったよ。」アリアが歩きながら聞く。
「カッコいいか? 商人で秤持たされて死にそうだったけどな。ギャンブルってスキルで、ルーレット回して装備とか決まるの。運が悪いとゴミが出る。」
「へえ、面白そう! どんなの出るか、見せてよ!」
「戦闘しないと発動しないんだよ。まあ、今回は薬草採取だから戦わずに済むだろ。」
と、思ってた。甘かった。森の奥、癒しのハーブが生える湿地帯に着いた瞬間、ガサガサッと茂みが揺れる。飛び出してきたのは、緑の肌に棍棒持ったゴブリン。3匹。目がギラギラ、口から涎。マジでキモい。
「グギャ!」
「うわっ、ゴブリン!? 薬草採取なのに!?」俺は叫ぶ。アリアが手を上げる。「私が水魔法で!」
彼女の水玉がゴブリンに当たるが、ビチャッと濡れるだけ。「あ、ごめん、威力弱くて……。」
「弱すぎだろ、アリア! よし、スキル発動! ギャンブル!」
視界にルーレット出現。カラフルなスロットがガチャガチャ回る。心臓バクバク。頼む、強いの出ろ! 止まる。
【職業:吟遊詩人】
【武器:三味線】
【防具:派手なマント】
【魔法:魅惑の歌】
「吟遊詩人!? 三味線!? 戦えねえよ、これ!」
ゴブリンが棍棒振り上げる。俺は三味線でガードするが、ペチン!と弦が切れる。HPが80/100に減る。「痛え! アリア、逃げろ!」
「カズヤさん、がんばって!」アリアが木の後ろに隠れる。応援じゃねえよ、助けろよ!
ゴブリンの連続攻撃。マントがヒラヒラして邪魔。魅惑の歌を試す。「お、お前ら、聞いてくれ~♪」歌うが、ゴブリンが「グギャ?」とキレて攻撃加速。HP50/100。ヤバい、死ぬ!
「くそ、ニートの運命か!? 瀕死だ、再発動! ギャンブル!」
ルーレット再び。敵に適した設定になるはず。止まる。
【職業:ゴブリンキラー】
【武器:毒塗りの短剣】
【防具:軽量鎖帷子】
【魔法:急所狙い】
体が軽くなる。短剣が手に馴染む。ゴブリンの動きがスローに見える。「よし、今だ!」
一匹の胸に短剣を突き刺す。毒で即死。もう一匹の首を狙い、魔法「急所狙い」で一撃。最後の一匹が逃げるが、投げナイフで仕留める。
【経験値獲得:30×3】
【レベルアップ:レベル4】
【敏捷+3、力+2】
「はあはあ……勝った。マジで死ぬかと思った。」
アリアが飛び出してくる。「カズヤさん、すごい! 吟遊詩人の時、めっちゃ笑ったけど!」
「笑うな! 三味線で戦えって無理ゲーだろ!」
ハーブを10株集め、町に戻る。ギルドでリナに報告。「へえ、ゴブリン3匹倒したの? Fランクのくせにやるじゃん。」
「運が良かっただけっす……。」
報酬の銅貨10枚ゲット。ポケットでジャラジャラ鳴る。アリアが言う。「カズヤさん、次はパーティ組もうよ。二人じゃ危ないし。」
「だな。ギャンブルだけじゃ心臓持たん。」
夕方、ギルドの酒場で飯。スープとパン、焼き魚。アリアと話す。「カズヤさん、なんで冒険者やるの? 転生したなら、のんびり暮らせばいいのに。」
「ニート生活はもう嫌なんだよ。ダラダラしてても、虚しいだけだった。運ゲーだけど、ここでなら何か変えられるかなって。」
アリアが微笑む。「カズヤさん、かっこいいよ。私も強くなりたいな。一緒にがんばろう!」
「へ、ニートがかっこいいって、初めて言われたよ。」
酒場の隅で、怪しい男がこっちを見てる。革ジャンにナイフ、目が鋭い。冒険者っぽい。「おい、新人。お前のスキル、面白そうだな。俺、ロク。盗賊系冒険者。パーティ組まね?」
「え、急に? 怪しくね?」
ロクがニヤリ。「運ゲーのお前と、俺の罠スキル。相性いいぜ。どうだ?」
アリアが頷く。「カズヤさん、人数多い方が安全だよ。」
「まあ、試しにいいか。よろしく、ロク。」
握手を交わす。ロクの手、なんか冷たい。信用していいのか? まあ、ニートに選択肢はねえ。
夜、宿屋のベッドで考える。ギャンブルは怖いけど、逆転の爽快感は悪くない。アリアの笑顔、ロクの胡散臭さ。このパーティ、波乱万丈になりそうだ。
(つづく)