第2話
*
「すみません……」
そう言いたかったのだが、まるでラノベのような状況に直面した瞬間、わたしは無意識に口を開いていた
「明日見学に行きます」
これは昨日の話で、今放課後の私は演劇部へ向かう途中だ。入学前から帰宅部を志望していた性格のせいで、入学から今までまともに学校を見て回っていなかったため、妙な新鮮さを感じている。生徒たちはそれぞれに過ごし、仲間と談笑する者や校庭で騒ぐ者たちの笑い声が桜を震わせそうだ
「青春ってやつか」と心の奥で呟く。こんなことを感慨深く思う年頃じゃないはずなのに、考えれば考えるほど悲しくなってくる
「ここだな」足を止める。部活見学なんて生まれて初めての体験だ。深く息を吸い、心を整えて部室の扉をノックする
「おーおー、そのまま入ってきていいよ」明るい女性の声が扉の向こうから響く
「失礼します。見学に――」
部室に入りかけた言葉を遮られる
「雪村遊之くんだよね?昨日楓から今日見学に来るって聞いたわ。入部してくれたら本当に助かるんだけど!あたしは流素鈴真、二年生で演劇部部長よ。そうそう、これ記入して」
彼女が書類を探し始める間に、私は部室を観察する。シンプルな造りの部室。本棚には様々な書籍が並び、移動式の衣装掛けに色とりどりの衣装がぶら下がり、コスプレイベント会場のようだ。部長の彼女はオレンジがかった腰まで届く長髪で、整った顔立ちの美人だった
「あったあった!ほら、雪村くん」
差し出された用紙を見て目を丸くする
「これって……入部届では?」未経験ながらその書式は認識している
「何言ってるの、これは入室記録用紙よ。たまたま入部届に似てるだけだってば。ははは……はは……」
白々しい説明に冷や汗が流れる
「部長、気持ちはわかりますが雪村さんを困らせたらダメですよ」
八重楓の声。救世主の登場だ
振り返ると彼女の横にマスク姿の人物が立っている。八重より半頭分背が低い。そのマスク姿に覚えがある
「毎朝早くに水を買いに来てた人ですね。朝倉詩織、一年生」だらりとした声
女生徒だったのか。薄暗がりでマスク姿だったためずっと男子だと思い込んでいた。心の中で謝罪する
「苦しかった……風邪でマスク必須だったんだけど、もう外せるかな」彼女がマスクを外す
陰キャ仲間かと思いきや、その可憐な顔立ちに期待を裏切られる
「あ、僕は雪村遊之です」
「お知り合いだったの?」八重が驚く
「ね?これが現在の部員全員よ」流素部長が得意げに腰に手を当てる
その瞬間、部室の鉄製ロッカーが激しく揺れ、縛られた男性が転がり出てきた。手は縛られ、口には布が詰められている
思わず青くなる私とは対照的に、部員たちは慣れた様子だ
「弟の鈴素流知、二年生よ」流素部長は笑顔で弟の口から布を引き抜く
「ゲホゲホ……姉貴、血の繋がった弟なのに何で縛るんだよ」
「さて、早速部活の説明を――」
「おい聞いてるか――ぐふっ!」再び布を詰められる流知
「本当に姉弟なのか?」と疑わずにはいられない
「部活の内容は名前の通り演劇がメイン。他の部活と協力しながら衣装や小道具を調達してるの。ね、面白そうでしょ?今すぐ入部届に判子押しちゃおう!」
再び差し出される入部届に苦笑する
「あの……部費は?」と切り出す
「部費なしが伝統なの。先輩から引き継いだスタイルよ。ちょうど私も部費払う余裕ないし」
ここで部員不足の真相を悟る
「もしかして、廃部寸前では?五人は必要ですよね」
流素部長の表情が凍りつく
「は、はは……そんなことないわよ!先代部長が押し付けてきて、私も人が集まらなくて……はは……は……」自嘲的な笑いが部室に響く
八重がため息をつく
「失礼します」
新たな声が扉の向こうから響く。その声に反応した朝倉が急に身繕いを始める
現れたのは爽やか系イケメン。現充オーラ全開の男子だ。その瞬間、流知が電光石火で再びロッカーに押し込まれる
「おっ、雪村?同じ学校だったんだ」イケメンが近づいてくる
「ええと……お名前は?」記憶にない
「鈴木野だよ。同じクラスだったじゃん」
「ああ……覚えてます」もちろん覚えていない
「鈴木さん、今日も脚本の打ち合わせですか?」朝倉が髪をいじりながら問う
「もうこんな時間!用事があるから失礼するわ」流素部長が鞄を担ぎ、颯爽と退場する
「私も脚本は分からないから」八重も後を追う
数多のラノベ経験から状況を察し、私も挨拶して退出する
「青春だねぇ……」空を見上げる流素部長
「二年生が言うセリフか?」とツッコミたくなる
「映画部で脚本に興味あるのは鈴木くんだけ。演劇部で脚本書けるのは詩織だけ。運命的よね」
「なぜ彼女が最適任者なんですか?」
「簡単よ。他の誰も書けないから」流素部長の即答に八重が呆れ顔
「部長って名ばかりで、部室でお菓子食べながらラノベ読んでるだけですから」
「楓ひどいなあ」
八重の本音が飛び出す
「映画部が自主制作するらしいの。機材オタクばかりで脚本が進まず、唯一まともな鈴木くんがうちの詩織に相談してるの。その代わりに小道具を分けてもらう約束よ」
「それに詩織、あの子にベタ惚れみたい」流素部長が付け加える
「あ、お腹空いた!前に行ったカフェ行こうよ楓」
「ええ、雪村さんもどうですか」
今日が早く終わりますように。心から願いながらため息をついた。
初めてのライトノベル執筆で、読了後に何か意見や改善点、ツッコミなどあれば是非お聞かせください。しっかりと拝読し、参考にさせていただきます。