9機目
前話(8機目)の設定が古かったので修正してます。
アサシン→ラーカー
ボッ
2機で爆破をいなしながら、小惑星ベルトを抜ける。
そこには満身創痍となったロベール大尉のバードトレイルが待っていた。
小惑星ベルトの下部に近かったとはいえ、たった1機であの機雷の山から抜けてきたとは、並のパイロットではないのは明らかだ。
『大尉、良くご無事で』
『そちらも流石だ、オルレア少尉。損傷率を報告しろ』
『私は5%、リオ様20%です。両機ともに自力航行可能です』
損傷率30%を超えるのは、自力での航続が難しくなる判断の一つの目安となる。
まあ俺の機体はキャノピーが粉々に潰れてしまっているので、損傷率こそ下回っているが、本来はパイロット死亡で自力航行不能である。
『俺は25%だ。一刻も早く帰艦したいが……、敵さんは待ってはくれなさそうだな』
罠を仕掛ける、つまり2重3重に畳み掛けてくるということで……。
遠くの方から大量のドローン機の反応が現れる。
『レーダーに感あり!機影多数!』
『3機で編隊を組む。オルレア少尉貴様が先頭だ。リオ操縦官、殿は任せるぞ』
任せろ!と作戦中のため消灯していた翼端灯を緑に光らせる。
『待って下さい!損傷率は私が一番低いです!殿なら……』
『貴様は偵察装備じゃないか、口論している暇はない!急げ急げ急げ!』
『クッ!』
オルレア嬢は不承不承な態度ながら自艦に向けて機体を発進させた。
後ろから中隊規模の高速特化のチェイサーが追い付いてくる。
『後方よりスピードタイプのドローン!会敵まで20秒』
こちらの機体は生身の人間の搭乗が前提なので、出せる速度に限界があるが、ドローンにはその制限がない。
これ以上近づかれると、二人にも危険が及ぶだろう。
殿として迎撃のため、俺は機体を翻してドローンと対峙することにする。
『リオ様、ご武運を!』
オルレア嬢の一言に意欲がみなぎる。
「一機残らず、デブリに変えてやる」
幸い高速特化のドローンは攻撃力も装甲も弱い。
ババババ
照準ロック用のレーダーをオフにして、翻しついでの機銃掃射で3機を撃墜する。
良くあるドローンは、狙われているのを識別するパラメータとして、照射されたレーダーの向きが比重高く初期設定されている。
なのでエイムアシストは消えてしまい玄人向けだが、ドローン相手にレーダー照射無しのマニュアルロックによる攻撃は、初手はほぼ決まる戦術だったりする。
ドローンは蜘蛛の子を散らすように編隊を解き、散開して俺の機体を囲い始める。
「遅い遅い!」
両翼の機体は散開するのに移動時間を要するが、中央の機体は散開が完了するまでは突出を避けるため速度を落とさざるを得ない。
そこに付け入る隙がある。
バババッ バババッ
中央のドローン2機を機銃で撃ち落とし、囲いを突破する。
残りのドローンが俺に追従し弾を撃ち込んでくるのをスラロームで避けて、逃げる。
「そうだ、着いてこい……!」
逃げて追ってくる、そうしてドローンが1列になったのを見計らって、近くの岩石に機体をわざとぶつけてスピンし急旋回する。
ゴッ……バララララララ
今度はちゃんとエイムアシスト付きで機銃掃射して、綺麗に整列していたドローンを端から端まで平らげる。
しかし、被弾したものの大破まではしなかった3機のドローンが、味方機の爆発から躍り出て体制を整えるために離脱を試みている。
「逃さねぇよ」
温存しておいた砲弾を撃ち込む。
直接当てる必要はない、近接信管の榴弾だ。
砲弾は敵機の近くで爆散し、ドローンに破片の雨を降らせる。
天の恵みである雨を凌ぐ術はない、1機残らず雨に貫かれて機能を停止した。
「こんなもんか」
感慨はひとしおに、小隊へ合流するべく機体を加速させた。
オルレア嬢、ロベール大尉のところに戻ると、大尉からお褒めの言葉を頂く。
『中隊相手によくやったな。……あれで打ち止めなら良かったんだが』
『前方からもドローン出現、追い込まれていますッ』
オルレア嬢も焦っている。
『こちらでもルートを探っていますが……』
母艦に搭載されたAIが即座にルートを示さないということは、最適解が、つまり全員生存する方法が算出できないということで、こういった場合は現場の上官が対応を判断することになる。
前方、後方、左右よりそれぞれ大隊規模のドローンが迫ってくる。
正直詰みだ。
手負いの3機で100機超えを、いくらドローンであろうと相手にするのは、無理ゲーすぎる。
せめて装備が潤沢であれば違ったかもしれないが……。
各ドローン大隊が散開し、下をも囲い始める。
これは負けイベントなのだろうか。
負けてもコンティニュー可能だろうか。
二人とはまた艦内で会え、一緒に出撃出来るだろうか。
――いや、それは叶わないだろう。
「どうする?どうすれば……!」
どうにか切り抜ける方法がないか周囲を見渡して探す。
死神ロベール。
大尉が率いる小隊が、彼を残して何度も全滅していることから、彼の部下になると殺されると噂に尾ヒレが付いて二つ名になってしまった。
『まーた貧乏くじ引かされたぜ。おい、俺らの中に甘い匂いを出してるやつがいるみたいだぞ。蟻がワラワラと湧いてくるわ』
ガハハと死地には似合わない豪快な笑いを飛ばす。
なるほど、いい匂いを発してるのはオルレア嬢だな、嗅いだことないけど。
『遂に年貢の納め時かぁ?……いや俺は諦めねえ』
俺は大尉の意図を察し覚悟を決める。
『大尉、どうするのですか?』
オルレア嬢はまだ思考が至っていない様だ。