7機目
部屋の中がガヤガヤと騒がしくなる。
オルレア嬢は座ったまま、この喧騒が収まるまで待つつもりのようだ。
するとそこへ先ほどの大尉が一人の少尉を連れてやってくる。
『やあお嬢さん、小隊を組むことになったロベールだ』
『少尉です、大尉殿』
オルレア嬢は少しムッっとしながら起立し敬礼する。
『失礼、オルレア少尉。こいつは俺のウイングのアガス少尉だ。中隊では一緒だったが、小隊を組むのは初めてだな。よろしく頼む』
『はい、よろしくお願いします』
『はじめまして、オルレア少尉のご活躍はかねがね聞き及んで……ハウッ!』
ドウッ『固いぞ、アガス少尉』
大尉がアガス少尉の背中を張る。
『よ、よろしくお願いします』
アガス少尉はボタン配置的には男性の制服を着ているが、髪は金色の肩上ミディアムのハーフアップ、顔は中性的でめちゃくちゃ可愛い。
『はい、ただその戦果は私だけのものではありません』
「ついているのか、ついていないのか、それが問題だ。」
『重力子波動計算機か。他の部隊では誤動作が頻出してると聞いてるんだが』
『リオ様は違います』
身長も低く、オルレア嬢に負けず劣らずのスレンダー体型であり、胸があるともお尻が丸いとも言い切れない。
「どっちだ」
『ふむ、何にせよ腕が立つなら歓迎だ』
「ズボンの裾を上手くタイヤに巻き込めばいけるか?」
バンッ!ビクウッ
気付けば大尉が俺を軽く叩いていた。
『よろしくな』
えっなに?アガス少尉のことを考えていて何も聞いてなかった……。
『大尉、丁重に扱ってください』
オルレア嬢がまたムッっとしている。
『すまんすまん……よっと』ムニッ
『ヒャア!やめてください!いつもいつも!』
『ダハハ!緊張してたからな、つい。あとこいつが気になってそうだったし』
「どっち?!どっちだったの?!」
『そりゃ前回の出撃では中隊が壊滅したのですから、緊張くらいします!』
アガス少尉はプリプリと怒って部屋から出ていってしまった。
ああもう行ってしまうの?ともの悲しげに眺めていると、ん?オルレアさん?その高く振り上げたバインダーで何をするつもりですか?
バアンッ!ビクウッ
『何をしているのだ……軍の備品だぞ。丁寧に扱いなさい』
ハァ……とため息をつくメグノーリャ中佐と、大佐が近くまできていた。
気付けば作戦室内は人がまばらになっていた。
『も、申し訳御座いません……』
違うんです!オルレア嬢はいつもピカピカに磨いてくれるほど丁寧に扱ってくれるんです!声にならない声、黄ランプを上げる。
『さてロベール大尉、貴官の中隊は中隊長が不在だ。このまま少佐に昇進して中隊長の座に就いてくれると助かるのだが……』
前の中隊長は先日の部隊壊滅時に一緒に死んでしまった。
『大佐、またその話ですか。俺は小隊を率いて井の中の蛙をしているのが性に合ってるんでお断りさせて貰いますよ』
『そう、か。まだ席は開けておくから、気が変わったら教えてくれ』
『大佐は貴様に期待しているのだ。あの噂が気になるのなら――』
『まあまあ、行きましょう』
中佐が何か言いかけるが、大佐が途中で止めて彼女を引っ張っていく。
『噂は噂だ。俺は自分から名乗った覚えはない』
大尉が苦々しく呟いていた。
死神ロベール、彼はそう呼ばれていた。