5機目
今日は休日のためゲームを止めてしまうと暇になる。
「飯でも食うか〜」
近所のラーメン屋に行き、燻製味噌熟々ラーメン辛ネギトッピングと半ライスを注文する。
「へいおまちー!」
早々に注文の品が運ばれてくる。
燻製された味噌の奥深い味わいと、芳醇な香りが身体に染み渡る逸品だ。
「いただきます……っと」
ズルズルズル
「アイツはちゃんとメシ食ってんのかな〜」
アイツ――オルレア嬢はカリカリに痩せている。
艦内ではレーションだけでなくそれなりの料理が提供されていたが、彼女が他のクルーと一緒に食べているイメージは沸かない。
また裸体を見たとき、真っ白い肌に両腕の注射痕が赤く目立った斑点となっていて、酷く痛々しかった。
スペースシップに乗るにあたり、三半規管を鈍らせる薬やら、血圧と反射速度を上げる薬などを投薬されているらしい。
副作用で毛は銀色に、目は灰色に、色素が薄くなってしまうそうだ。
他にも体調やら精神的にも異常をきたしているのだろう。
「じゃなきゃロボット相手にあんなことしないよな……」
但し、肌の色が白いのはアイツが日光に当たらないからだ。
他のクルーは時々日光浴しており、肌の色も割と健康的だった。
もっと自分を大切にしてくれよ。
「ハァ……」
いやアレらはゲーム内の話だよな。
なに本気で心配してるんだ俺は……。
ライスをおかずに汁まで平らげ、水を飲みながら携帯端末で検索する。
『グラビデュース 性的表現』
過激な2次創作ばかりがヒットする。やっぱりめぼしい内容は出てこないか。
ついでにいつも見ているグラビデュースの攻略ブログを少し覗き、あまり長居しても悪いので会計をして帰路につく。
「いただきました〜」
「ありがとうございMars!」
「火星か!」
家に着くとデカい荷物が置き配されていた。
「なんだコレ?DNA検査キット?」
俺は頼んだ覚えがない。会社の新しい福利厚生か?
取り敢えず家に入って、受取名義を確認しつつ開梱する。
『シシカリオ様』
なんで全部カタカナなんだ。一応俺宛らしい。
「やたら本格的だな」
キット内容はやたら重厚な箱に、試験管が1本とシリンジみたいな機械が1個だ。
説明書を読む。
「えーっと?提出期限があるのか……明日まで?!なんでそんな急に……!」
ウチの会社は勤務時間が自由なだけあって、色んなことがルーズである。
多分コレもその一環だろう。
「おいおい勘弁してくれよ……」
諦めて説明書通りにDNAの採取を進める。
まずはシリンジみたいな機械を利き手じゃない方の親指の腹に当てて押し込むっと。
パチン「ァイッテ!……マジかよ」
見ると□1mmほど、四角く皮膚が抉り取られている。
ズキズキと脈に合わせて血が出てきて、痛みを感じる。
「こりゃ表皮だけじゃなく真皮までいってるぞ」
ご丁寧に傷口用の医療品ぽい、ダーマシールなるものが入っていたので貼り付けるとスゥッと痛みが和らいだ。
「スゲェな、いや、コエーな」
最新の技術か?
そしてもう一つの試験管は、えっと……精子を入れろと。
ゥン?せい……えっ?
慌てて送付先やら説明書の最終頁を確認し、メーカを検索する。
――ちゃんと実在している企業だった。
「ホントに?大丈夫なん?」
俺の預かり知らぬところで血縁が出来たりしないよな?
いや、まあ俺の劣性遺伝子をわざわざ使う必要もないか……
グスン
気を取り直して再度説明書を読み進めると、なぜか懐かしき袋とじがあった。
今どき紙媒体かよと、あまり期待せずに開けると――ピリピリピリ……オッホ♡
「――しゃあねぇやってやるよ!うおおおおお!」
そこにはなぜか、どストライクな容姿の、ドンピシャな癖マシマシの写真が多数封じられていた。
尚、使用後の写真は『リオ宝物Box』へ再び封印されたため、世間に公開されることはなかった。
その日のうちにキットは集荷されていき、左手の親指は夜には綺麗に完治していた。
「スゲェな、いや、コエーな」