2機目
そうこうしているうちに無事に自艦へと帰投し、ADVパートが始まる。
ADVパートは自艦のクルーや僚機パイロットの様子を移動しながら見ることができるだけの、オマケ要素だ。
何なら帰投完了次第ゲームを終了したって問題はない。
ただ、プレイヤーはロボット的な存在で別々の艦艇に1体ずつ配属される設定のため、プレイヤー毎に唯一無二の艦艇とクルーが生成され、得ることになる。
なので折角自分だけに用意されたクルーのポリゴンを無駄にしないためにも、俺は暇があればADVパートも積極的に見るようにしている。
ただオマケ要素だからかロボットだからか理由は不明だが、会話の選択肢は現れないし、当たり前だがこちらの声を届けることもできないため、本当にただ眺めていることしかできない。
一応何の意味があるかは分からないが、赤/黄/緑のランプを点灯させる事は出来る。
反応してもらえたことはないけど……。
ウィーーーン ガチャコーン
『お疲れ様です』
俺の乗るスペースシップが艦艇のハンガーに入庫、固定され、いつもの整備兵がいつもの挨拶をしながら、俺の核を降ろしてくれる。
そのペットボトル飲料1ケースくらいの大きさの核が、移動用のタイヤ付きロボットに接続される。
これでこのロボットに搭載されているランプを点灯させる事が出来る。
早速いつものように緑色を点灯させて整備兵に感謝を伝えておく。
――残念ながら伝わっているかは分からないが、こういうのは気持ちの問題だ。
実際に整備兵はこちらを見ずに、既にスペースシップのメンテナンスに取り掛かっていた。
チクショウ
改めて自機の小型スペースシップをしげしげと眺める。
宙域中距離単座戦闘機 『SM-SF-7C』 通称 バードトレイルC型
消波ブロックを縦に引き伸ばした様な形状で、上から見ると鳥の足跡に似ていることからそんな呼び名になったそうだ。
俺の機体にはノーズアートとして、エンブレム『口の開いた狛犬』が描かれ、ボス級機体のキルマークが6個とドローンバスターのマークが並んでいる。
カラーリングは黒をベースに、ライム色で『クルクルのたてがみモチーフのモザイク』が施されている。
通算出撃回数240回、1年半以上の付き合いの相棒だ。撃墜まではされていないが被弾もあり、ところどころ焼けたり塗装が剥げたりしている。
ゲームの中に入れるならば、頬擦りしたいくらいには愛着が湧いている。
『オルレア少尉、お疲れ様です』
少尉と呼ばれた少女が隣のスペースシップから下りると無言で整備兵に敬礼し、こちらに歩いてくる。
もう一人の相棒の登場である。
『リオ様、本日のミッションもお世話になりました。行きましょう』
緑ランプを点灯させ、ウィーンと少女のあとをついていく。
このオルレア嬢は自分の僚機パイロットであり、数多の戦場で生死を共にしている。
ピッチリとしたパイロットスーツ姿で、カリカリに痩せているのがよく分かる。歩きながらヘルメットを脱ぐと、綺麗な銀色の長髪がフワッっと広がり扇情的だ。背が高いので、ヘルメットを小脇に抱えて歩く姿はとても凛々しくみえる。
この相棒にも頬擦りしたいが、相手はまだ幼い少女然としたお顔なので、実際にやったら捕まってしまうだろう。
ロボットで良かった。
少女のお尻に付いて走る。艦内は居た堪れない悲壮感が漂っていた。
ちょっと前に遭遇し、俺が6機目として撃墜したボス級機体、『Cバンカー』を相手に、12機の中隊のうち半数の6機が撃墜させられ、パイロットは無事だったが4機の機体が撃破されたからだ。
未だに壊滅した中隊は再編できていない。
そんな中でオルレア嬢は俺以外に部隊で唯一無事だった凄腕なのだ。