1機目
俺は一人乗りの小型スペースシップを駆り、前方後方から飛んでくる弾を姿勢制御スラスターを横向きに最大出力で一瞬吹かすことでまるで瞬間移動するかのように避ける。
モニター越しの映像がガクっと揺れる。
震える画面上でも見失わないように、前をピュンピュンと縦横無尽に飛び回る2機のドローンを追いかけ、機を狙う。
そして2機が丁度重なるタイミングを掴み、照準のクロスに偏差を合わせ、レールガンでまとめて貫く。
デュン
「コレで10機」
『リオ様、後ろです』
僚機からの通信の通り、後ろからは相変わらずドローンが追いかけて来ている。
当たりもしない弾をとめどなく撃ち込まれてくるのがウザったい。
目の前で起こったドローンの爆発にわざと突っ込む。
ボッ
実際にやると大きな破片が残っている可能性もあるので大変危険である。
『そこ!』
爆発に隠れたおかげでドローンがこちらを見失ったようで、一瞬ドローンの動きが鈍る。
僚機がその瞬間を逃さずに1機撃墜する。
オペレータから通信が入る。
『残り1機です』
爆煙から抜けて未だに俺のケツを追いかけてくる健気なやつを確認すると、3基あるエンジンの1基だけを最大加速する。
そのアンバランスな、生身の身体ならば保たないだろう高Gの推力を受けて、機体が宙返りする。
空気抵抗が無いせいで空戦マニューバが使えないのが宇宙空間の難しいところだ。
ドローンはそれでも俺の射線に入らないよう必死にケツに食らいついて来ようとするが、僚機の機銃掃射により進路が妨害される。
遂にストーカー野郎を射線に捉える。
「完璧な援護だ」
デュン
「Whoooop」
ドローンの爆発にわざと突っ込む。
ボッ
――今度は特に意味はない、ただの煽りだ。
『敵機ワイプアウトを確認。Gドッグ隊、帰投してください』
オペレータより帰艦指示が出る。
「ふぅ〜」
俺、獅子鹿 璃央は自動帰艦モードを起動して、水を飲み一息つく。
やっていたゲームはPC向けに配信されている、良くある近未来SFな宇宙を舞台に小型スペースシップを操って敵を殲滅するシューティングゲームだ。
一昔前のこの手のゲームは横や縦スクロールが多かったが、こいつはGPUが暖房器具となるような荘厳華麗な3Dで、全方位から弾幕が飛んでくる。
その弾幕を掻い潜って敵を殲滅し、自艦に帰投するまでがこの『グラビデュース』のミッションだ。
そしてなによりこのシューティングゲームの一番の魅力は、徹底的なまでの写実性にある。
弾数が有限なのはもちろん、フレンドリーファイア有効、ポーズや難易度設定無し、撃墜された味方は復帰しないし、被弾による機体の修理期間は現実時間とリンクしていて、ミッションも24時間前に告知されて開始時刻に参加できなければ辞退扱いとなるなど、楽しむことを目的とするゲームならばおおよそ不向きだ。
また、わざとフレンドリーファイアしまくったり、弾の使い過ぎや修理費で資金が底をつくと強制的にタイトルに戻されてニューゲームしか出来なくなるシビアなゲームでもある。
とはいえこのリアリズムとして完成されたシステム性から、一部マニアの間では神ゲー扱いされており、かくいう俺もその魅力に囚われてしまった一人だ。
ミッションはランダム生成だが内容含めて事前通達があり、1度の出撃が30分〜2時間と比較的短時間であることから、在宅勤務で割と自由に勤務時間を変えられる仕事に転職までしてのめり込んだ。
そうして遂に念願の週間ランキング1位を一瞬でも踏むことができるまで熟達し、無事に無人機10,000機撃墜が条件のドローンバスターの称号を得た。
ちなみにエースの称号を得るにはボス級の機体を10機撃墜せしめる必要があり、俺はまだ6機目である。
ボス級機体は撃墜が難しいのもあるが、そもそも滅多に遭遇しないレア機なので仕方ない。
また逃げ足も速く、俺も同じやつを何度も逃している。まるでどこかの銀色粘液だ。
エース保持者はランキングに載る100位以内でも確認できるのは10名ほどなので、焦らず1機ずつ撃墜の機会を伺っている。