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自転車を起こした女の子は、自転車のハンドルを握って僕を見る。先ほどまでの鋭い視線ではなく、どちらかというと観察されているような感じだ。
お陰でといってはなんだが、女の子の顔を初めて直視できた。
髪は後ろで束ねているから長さは分からないけど、結べるくらい長いのだろう。
目はキリッとしていて意思の強さを感じるが、右の目尻にある、なきぼくろが鋭さを緩和してくれている気がする。
艶やかな唇、ジャージの下から僅かに覗く鎖骨にもほくろがあることを知り、いや気付いてしまったことに心臓の鼓動が一瞬大きく跳ねて、鼓動が速くなるのを感じて妙な汗をかいてしまう。
視線が合う合わない関係なく、直ぐに女の子へ向ける視線が如何わしい方向へいってしまうことに後ろめたさを感じている僕に、追い討ちをかけるような女の子の一言。
「視線……どこ見てるか分かりますよ」
「ご、ごめん」
とっさに謝ったが、冷静に考えてみれば謝ったことで「僕はあなたのジャージの隙間を覗いて鎖骨を見ていました」と認めたことになる。
しらばっくれれば良かったと思っていると、女の子はどうでもいいと言った感じで自転車を押し始める。
「あの、自転車に乗る練習してるの?」
僕が何気なく尋ねた言葉に再び鋭く睨む女の子を見て、本当にこの子の怒るポイントが分からないなと、この地雷しかなさそうな会話を続けることに意味を見出だせなくなってきた。
尋ねるんじゃなかったと、鋭い視線を受けながら激しく後悔するのだった。