惑星ベリルの陰謀
アスタは惑星ベリルの宇宙港を歩いていた。目に映るのは、資源採掘で栄えた都市の喧騒。商人たちが並べる鉱石や部品、時折聞こえる重機の轟音が、ここが資源採掘の拠点であることを物語っている。
「この星でしばらく足を止めてみるか。情報も集めたいし、銀河を巡るための準備を整えないとな。」
アスタは市場を眺めながらそう呟いた。
彼は市場の片隅で、簡単な食事を買い求めた。薄いパンに挟まれた、ベリル特産の干し肉とスパイス。それをかじりながら、銀河中から集まる人々の活気を眺めていた。
市場の奥から突然、大声が響いた。
「おい、待て!こっちに来るんじゃねえ!」
騒ぎの方を見やると、荷物を抱えた男が慌てて逃げている。後ろからは屈強な男たち数人が追いかけてきた。男たちは鉱山の作業服を着ており、一目でこの星の採掘作業員だと分かった。
「またかよ……」
通りの人々が呟く。どうやら、こうしたトラブルは珍しくないらしい。
アスタは特に気に留めず、自分の食事に集中しようとした。だが、逃げていた男がアスタの近くでつまずき、盛大に転倒した。その拍子に抱えていた荷物が転がり落ちる。
「いてて……」
倒れた男がうめき声を上げた瞬間、後ろから追いかけていた男たちが追いついた。
「よくも俺たちの荷物を盗みやがったな!」
鉱山作業員のリーダー格と思われる男が拳を振り上げる。周囲の人々はそれを見ても誰も止めようとはしない。
アスタは、一瞬迷ったが、自然と足が動いていた。
「待てよ。暴力は良くないだろ。」
アスタは男たちの間に割って入った。
「は?こいつが盗んだんだぞ?邪魔すんな。」
「だからって殴る必要はないだろ。話し合いで解決できるはずだ。」
男たちは不機嫌そうな顔をしたが、周囲の目を気にして拳を下ろした。
「手間をかけさせるわね。」
突然、冷静だが力強い声が背後から聞こえた。振り返ると、そこにいたのはアスタがギャラクシア・アリーナ本戦で戦った上位者、「ファントム」ことカリーナ・ヴェルディだった。
「……カリーナ?」
「久しぶりね、アスタ。こんなところで会うなんて思わなかったわ。」
彼女は軽く片手を挙げて挨拶をしつつ、転倒していた男に鋭い目を向けた。
「彼の荷物、ちょっと調べさせてもらうわ。」
カリーナが荷物を調べると、中からキラリと光る鉱石の塊が現れた。それはベリルでしか採れない希少資源だった。
「これが盗まれた荷物ね……さて、あなたは何者かしら?」
カリーナの問いかけに、男は震えながら何かを言おうとしたが、周囲の視線に耐え切れず黙り込んだ。
「アスタ、ちょっと手伝ってくれない?」
状況が一段落すると、カリーナはアスタを市場の外れに連れ出した。
「手伝うって、何をだ?」
「この星で最近おかしなことが起きてるのよ。希少資源が盗まれる事件が頻発してて、その裏に何か大きな組織が絡んでる気がするの。」
「それで、俺にどうしろって?」
カリーナは微笑みながら言った。
「あなたの能力、『未来選択』を貸してほしいの。銀河一大会では敵同士だったけど、今は頼りにさせてもらうわ。」
アスタは一瞬戸惑ったが、彼女の真剣な眼差しを見て決意を固めた。
「分かったよ。安全第一だけどな。」
二人は荷物を盗んだ男を密かに尾行し、彼がある倉庫に入るのを目撃する。その倉庫は、この星の採掘を取り仕切る大手企業の施設だった。
「どうやら、内部に協力者がいるみたいね。」
カリーナが低い声で呟く。
アスタは「未来選択」を発動し、潜入方法をシミュレーションする。警備員を避けて侵入し、証拠を押さえる最適なルートを決定した。
「よし、行くぞ。」
二人は静かに倉庫内に潜入し、違法に採掘された鉱石が積まれている現場を目撃する。そして、その奥にいたのは――意外な人物だった。
「君たち、何をしている?」
背後から冷静な声が響いた。振り返ると、そこに立っていたのは洗練されたスーツを着た男だった。
「これはまた、奇妙な客人だね。君たちは正義のヒーローのつもりかい?」
男はにやりと笑い、手にしていた端末を操作する。その瞬間、倉庫内の警報が鳴り響いた。
「しまった!」
アスタとカリーナは急いで倉庫を脱出するが、背後から迫る追っ手の気配に気を抜けない。
「どうやら、ただの企業トラブルじゃないみたいね……。」
カリーナが呟く。彼女の表情には緊張と、少しの怒りが混じっていた。