未知の星系への航路
「エクリプス、航行準備完了。」
アスタは宇宙船の操作パネルに手を置き、視線を前方に向けた。目の前の窓の外には、広大な宇宙が広がっている。ノア・コロニーを後にし、アスタが夢見ていた宇宙への第一歩が今始まろうとしていた。
「これで、俺もようやく旅立てるんだな……」
言葉にするたびに、胸の奥で興奮が湧き上がる。だが、同時に不安もあった。これが初めての星間航行。何が起こるか分からない。エクリプスにはAIアシスタントのルミナが搭載されているとはいえ、すべてが初体験だ。
「ルミナ、状況はどうだ?」
「すべて正常です、アスタさん。航路データも問題ありません。ただし、途中に小規模な隕石群が確認されています。衝突の危険性は低いですが、回避行動が必要になる可能性があります。」
「隕石群か……。初っ端から試練ってわけだな。」
アスタは眉間に軽く皺を寄せながらも、冗談めかした口調で返した。緊張をほぐそうとしている自分に気づき、苦笑する。
「安全第一ですよ、アスタさん。」
ルミナの冷静な声が、緊張を少しだけ和らげてくれる。
エクリプスは静かにコロニーを離れ、ゆっくりと速度を上げていく。加速モードが作動し、星間航行用のエンジンが唸りを上げると、窓の外の景色が流れ始めた。
「……これが、宇宙か。」
アスタは窓越しに広がる星空を見つめた。祖父の話で聞いていた銀河の美しさ。無限に広がる暗闇と、点々と輝く無数の星々。その壮大さに、言葉を失った。
「感動していますね。」
ルミナが柔らかい声で話しかける。
「そりゃあな。コロニーの中じゃ見られない景色だし、これがずっと夢だったんだ。」
アスタは正直な気持ちを言葉にした。
しかし、その感動は長くは続かなかった。ルミナが警告音と共に冷静な声を上げる。
「隕石群の接近を確認しました。航路変更が必要です。」
ホログラムスクリーンには、予測される隕石の動きが表示されている。小型の隕石が高速で進んでおり、接触すればエクリプスに深刻な損傷を与える可能性がある。
「初っ端から波乱のスタートだな……!」
アスタは操作パネルを見つめながら、汗ばむ手をしっかりと握りしめた。
「手動で回避できますが、判断ミスがあると衝突の危険性が高まります。未来選択能力の使用を推奨します。」
「分かってる……!」
アスタは深く息を吸い込み、脳内で10通りの未来をシミュレーションする。「未来選択能力」は、アスタが転生後に得た特殊能力。だが、その使用には精神的な集中力を要するため、過度に依存することはできない。
アスタの思考は、超高速で分岐する未来を分析していく。
無理に加速して隕石を抜ける。だが船体がかすり損傷する。
停止してやり過ごす。隕石が小型で衝突するリスクが増す。
右旋回を試みる。予測よりも隕石群が密集していて失敗。
船のエネルギーを一時的にシールドに集中させて衝突を防ぐ。
シミュレーション結果を踏まえ、最も成功率の高い「右旋回と加速」を選択する。
「ルミナ、右旋回と加速だ!エネルギーはスラスターに集中!」
「了解しました、アスタさん。」
エクリプスが鮮やかな弧を描き、隕石群の中を駆け抜ける。大きな衝突音もなく、船体は無事に抜けた。
「やった……!」
額に滲む汗を拭いながら、アスタは安堵の息をついた。
「見事な判断です、アスタさん。これで安全圏に入りました。」
ルミナが冷静に褒める声に、アスタは少しだけ照れる。
隕石群を抜けた後、エクリプスは順調に航路を進み、最初の目的地である惑星「ベリル」が視界に入った。
ベリルは資源採掘で知られる惑星であり、宇宙港も広く賑やかだ。アスタが船を港に停泊させると、多種多様な種族の人々が行き交う光景が目に飛び込んできた。
「さあ、ここが俺の最初の目的地か……どんな星なのか楽しみだな。」
アスタはルミナに留守を頼むと、宇宙港の通りへ足を踏み出した。市場には色とりどりの資源や製品が並び、様々な種族の商人たちが威勢の良い声を上げている。
「これが宇宙の世界か……!」
未知の文化や技術に触れるたび、アスタの心は高鳴る。そして、この冒険がまだ始まったばかりであることを実感した。