第三章
校舎の廊下には、昼休みを楽しむ生徒たちの笑い声が反響していた。悠は窓際に立ち、昼食をとるために屋上へと向かう準備をしていた。彼にとって、屋上は理緒と二人きりになれる唯一の安心できる空間だった。
「悠くん、行こっか。」
理緒の声が彼の背後から聞こえる。その明るい笑顔に、悠は軽く頷いて答えた。
「うん、行こう。」
二人は並んで階段を上り、屋上へと足を運んだ。鍵のかかった扉を開けると、暖かな日差しと涼やかな風が迎えてくれる。昼食を広げながら、理緒は手作りのサンドイッチを差し出した。
「今日も作ってきたよ。どうぞ。」
「ありがとう。」
悠は受け取りながら一口かじった。口に広がる味は美味しく、温かみが感じられる。理緒の気遣いが込められた食事だ。しかし、悠の胸の奥には微かな違和感が残っていた。
「理緒、いつもありがとう。毎日作るの、大変じゃない?」
「全然大丈夫だよ。悠くんのためなら、これくらい朝飯前だもん。」
理緒が笑顔で答える。その言葉の裏に隠された情熱を、悠は感じ取っていた。彼はそれに応えるように微笑んだが、心の中では何かが引っかかっていた。
昼食を終えた二人は、少しの間無言で空を見上げた。青空に浮かぶ白い雲が、風に流されて形を変えていく。
「ねぇ、悠くん。」
理緒がふと口を開いた。その声には、いつもの明るさとは異なる色が含まれていた。
「何?」
「最近、誰かと仲良くしてる?」
突然の問いに、悠は一瞬言葉を詰まらせた。
「別に、特に誰とも…どうして?」
理緒はじっと彼の目を見つめた。その瞳には、どこか焦りのようなものが見え隠れしている。
「なんとなく。悠くんは優しいから、誰かに取られちゃうんじゃないかって思っちゃうの。」
理緒の言葉に、悠は小さく笑った。
「取られるなんてこと、ないよ。僕は理緒だけだ。」
その返答に理緒はほっとしたように笑顔を見せたが、その表情の奥には確かな執着が隠されていた。悠もまた、彼女の様子を注意深く観察していた。
――理緒の目は嘘をつけない。
その後、授業が始まる直前まで二人は屋上で過ごした。だが、悠の心には新たな疑念が芽生えていた。彼女の発する言葉と行動の端々に感じる微かな異変。それが何なのか、悠にはまだ掴みきれていなかった。
放課後、悠は部活がない日だったため、いつものように理緒と一緒に帰ることになった。校門を出た二人は、日が傾き始めた道を並んで歩く。
「今日は寄り道しない?」
理緒が提案すると、悠は一瞬考えた後、頷いた。
「いいよ。どこに行きたい?」
「そうだな…ちょっと静かなところがいいな。」
理緒は微笑みながら答えた。その笑顔に込められた意図を、悠は探るように彼女を見つめた。
二人は人気の少ない公園に立ち寄った。夕焼けに染まる木々の間を歩きながら、理緒はふと足を止めた。
「悠くん、少しだけ座って話そう?」
彼女が示したベンチに腰を下ろすと、理緒はカバンから何かを取り出した。それは、小さなノートだった。
「これ、見てほしいの。」
理緒が差し出したノートを受け取ると、悠は表紙を開いた。そこには、彼の名前が何度も書かれていた。
「これ、何?」
悠が問いかけると、理緒は微笑みながら答えた。
「悠くんへの気持ちを書いてたの。日記みたいなものかな。」
彼女の声には、どこか熱がこもっていた。悠はページをめくりながら、その内容に目を通した。
ノートには、理緒の思いが赤裸々に綴られていた。彼への感謝、愛情、そして誰にも知られたくない秘密の感情。それらが、繊細な文字で埋め尽くされていた。
「すごいね…こんなに書いてくれたんだ。」
悠が感想を述べると、理緒は照れたように笑った。
「悠くんが大好きだからね。」
その言葉に、悠は静かに微笑みを返した。しかし、その裏側では、彼の心の中で何かがざわついていた。
「ありがとう。でも、これ…他の人には見せない方がいいかもね。」
「うん、大丈夫。他の人には絶対に見せないから。」
理緒の言葉に、悠は小さく頷いた。その後、二人は夕焼けに染まる街を歩きながら帰路についた。
その夜、悠は自室でノートに書かれていた言葉を思い返していた。理緒の思いが彼にとって重く感じる一方で、自分もまた彼女に対して同じような感情を抱いていることに気づいていた。
愛と執着、その境界線を揺れ動く二人の関係は、まだ序章に過ぎなかった。
今回は、書いててよくわかんなくなったのでクオリティ低い。。。ごめんね?