第一章
陽光が差し込む昼下がりの教室。クラスメイトたちは昼休みを楽しみながら、笑い声や雑談が飛び交っていた。悠は机に座り、今日もお決まりの文庫本を手に取っていた。
「悠くん、今日の放課後、どこか寄っていかない?」
理緒が自然な調子で話しかけてきた。まるで付き合っていることを周りに隠すように。だが、その瞳の奥には彼に向けられた特別な光が宿っていた。
「いいよ。でも…どこに行く?」
悠は本から目を離し、彼女に視線を向ける。その一瞬のやり取りが、二人の間にだけわかる空気を作り出していた。
「そうだな… 今日はね…秘密の場所があるんだ。」
理緒が微笑む。その笑顔に悠の胸が少しだけ高鳴る。同時に、彼の中で微かな違和感が芽生えた。
昼休みが終わる直前、悠はふと気づいた。机の下に置いていた自分の鞄が、僅かに動いている。
“なんでだ…?”
視線を落とすと、理緒が一瞬だけ手を引っ込めたように見えた。しかし、彼女は何事もなかったように微笑みながら立ち去っていった。
その日の放課後、彼らは学校裏の小道へと向かった。
歩きながら、悠は理緒の横顔を盗み見た。彼女の瞳にはどこか期待と不安が入り混じっているように見える。
「理緒、どこに行くんだ?」
「ついてきてのお楽しみ ね?」
彼女の返答は軽やかだが、悠の心には微かな不安が募る。理緒が何を考えているのか、時折彼にも読めない部分がある。
やがて、二人は人通りの少ない小さな公園に辿り着いた。そこには古びたベンチと、周囲を囲む木々が静かな空間を作り出していた。
「ここが…今日の目的地だよ。」
「ただの公園だろ?」
「うん、でもね。ここ、私たちだけの秘密の場所にしたいの。」
理緒がベンチに腰を下ろし、悠を見上げる。その瞳には確かに特別な情熱が宿っていた。
「悠くん、約束して。他の誰にも言わないって。」
「わかったよ。でも、どうしてこんな…」
理緒が悠の手をぎゅっと握る。その力強さに彼は一瞬戸惑ったが、彼女の真剣な表情に頷いた。
「ありがとう。」
理緒が満足そうに微笑む。その瞬間、悠は自分の背筋に走る冷たい感覚を覚えた。しかし、彼はその理由を深く考えることなく、彼女の笑顔に応えるのだった。
やがて日が沈み始め、学校に戻るために二人は立ち上がる。帰り道、彼は理緒のポケットから一瞬だけ何かが覗いたのを目にする。
それは、何かの鋭い刃物のようだったが、すぐに隠されてしまった。
「理緒、今の…」
「ん?どうしたの?」
理緒が無邪気な笑顔で答える。その姿に、悠はそれ以上何も聞けなかった。ただ、心の中に新たな疑念が芽生え始めていた。
二人の愛情が、徐々に狂気を孕み始めている…。