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第007話 魔界の王子

ハイファンタジーのような、壮大なストーリー展開は一切起きない…予定…です。

よろしくお願いします。

そして、今回はちょっと長いです。

人々の住む世界とは隔絶された場所に、魔界と呼ばれる世界があった。


???年前。


「王子、ようやく南の蛮族共の討伐が終わりましたな」


凱旋中の、王子の乗る馬に横付けをして、フード姿の老人の男は言った。


「そのように言うものではないよ、爺」

「彼らには彼らの国があり、生活があった」

「それを踏みにじったのは私達だ」


「……む…そうで御座いましたな…」


相当年の離れているであろう王子に(たしな)められた老人は、反省の色を示してうな垂れた。

そう、この王子は好き好んで他国に攻めたわけでは無かった。


王子の国は元々、先代魔王により安定した統治が行われ、周辺の異民族も畏怖して従順に従っていた。

しかし、その先代魔王が身罷(みまか)った後、周辺の異民族はことごとく反旗を翻したのだ。


「やはり、私が継いだ方が良かったのかも知れない」


王子は、爺と呼ばれた老人にだけ聞こえるように呟く。


「王子………」


この王子は、先代魔王をはじめとして周辺諸国からもその才を認められており、将来は誰もがこの男が跡を継ぐと思っていたし、先代魔王も、それを望んで継承権『第一位』の座を男に与えていた。

しかし、男は跡を継がなかった。


何故なら、男には『兄』が居たからである。

そう、この王子は『第二王子』で、本来の継承権も『第二位』であった為、結局、兄に譲ったのだった。


ところが、現魔王は王位を継ぐやいなや、あろうことか周辺諸国に重税を課し、そのため、周辺諸国は次々と反旗を翻すことになる。


そして、自身の失政の後始末を、『辺境伯』となった弟に押し付けたのであった。

元継承権第一位の男が今や極南の辺境伯、まさに左遷である。


「今更言っても仕方がない………ともかく、所領に戻って皆を休ませよう」


「そうで御座いますな………むっ!?」


「どうした?爺………あれ……は………」


二人の前方に、土煙を上げながら近づいて来る馬が見えた。

近衛兵も直ぐに気付き、王子を取り囲むように展開した。


しかし、それは無駄なことであった。


「王子ぃーっ!!!シリウス王子ぃーっ!」


見れば、それは皆が知った顔の騎士の男で早馬であった。

騎士の男は近衛兵を素通りして、王子の側までやって来ると馬を下り、膝を地に付けて伏した。


「申し上げます!」

「魔王様が危篤との事!直ぐ上洛するよう、十常侍(じゅうじょうじ)より要請が御座いました!」


「そうか……兄上が…………」


騎士の男の言葉を聞いて、シリウスは天を仰いだ。


「いけませんぞ、王子!!!これは罠ですぞ!!!」


爺はすぐさま諫める。

それに続いて、警護のために側まで来ていた諸将も、同様の声を上げる。

彼らが言うまでも無く、シリウスは分かっていた。

周辺諸国のことごとくを平定した以上、もう彼は『お役御免』であった。


「私が行かねば、今度は『我が所領』が戦場となろう」


「う………それは……そうで御座いますが………」


シリウスの言葉に、皆は黙るしかなかった。


「ともかく、参ろう」

「セイ、そなただけ付いてまいれ。他の者は、このまま所領に戻って体を休めるのだ」

「間違っても、血気にはやるでないぞ」


シリウスはそう言うと、早馬の騎士の男セイと共に上洛をしたのだった。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


魔王宮、王の寝室。


「ぐっ!………あ…に……うえ!……」


二人きりになった寝室で、シリウスは胸に突き刺さる短剣を目にする。

彼はその短剣に見覚えがあった。


彷徨の短剣(ワンダリング ダガー)


刺された者の魂は、意志を失い永遠に彷徨い続けるという。

元々、蘇生の効かない世界であるが、それでも弟の力を恐れたのか、兄であり現魔王の男は禁断の武器をもってシリウスを刺したのである。


「ぐふっ………」


耐えがたい苦しみに、シリウスは床に仰向けになって倒れてしまう。

彼の眼には剣を持ってただ立ち尽くす兄の姿があった。


シリウスは、力を振り絞り右手を兄に向けて掲げた。


「あに……うえ………どう…か………わたし…の……か…しん………りょう…みん……に…かんだい…な……そち………を………どう…か………」


その言葉を聞いた現魔王の手から剣が零れ落ちた。


「貴様というやつは……このような状態でも…なお、自分以外の者に心を砕くのか………なんということだ………私は…………」


この言葉を最後に、シリウスの意識は闇の中へと沈んだ。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


30年前。


「ここは…どこだ?」


シリウスは意識を取り戻した時、森の中にいた。


「あれから、どれだけの時が流れたのか………」


そんな事を思いながら、開けた場所を目指して歩みを進める。

幾日か経て、シリウスの先に一軒の家が目に留まり、その家の目の前まで着いた瞬間、家の中から悲鳴が聞こえてきた。


シリウスは窓の中から、その様子をのぞき込む。


「しっかりしろ!エマッ!!!」


一人の男がエマと呼んだ女の手を握りながら、悲痛な表情を浮かべている。

周りにいる、その男女の子と思われる3人の小さな娘たちも心配そうに見つめていた。


「これは流産だな……しかも、母体も……もう危ないな………」


冷静に状況を把握したシリウスは、『壁をすり抜けて』家の中に入り、ベッドまで近寄ると、その家族を見渡した。


「ふっ…まぁ、普通の人間として生きるのもアリか」


魔界に戻れたところで蘇生は出来ないし、魂が輪廻の輪に戻ることも二度と無いだろう。

ならば、と、シリウスはエマのお腹に手をかざすと力を込めた。


「うわっ!なんだ!この光はっ!!!」


『きゃーっ!!!』


男と3人の娘の叫び声が聞こえる中、シリウスは今わの際にあったエマを治療し、既に屍と化した胎児に、その持てる魔力の全てを使い、その身を胎児に預けたのだった。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


現在。


(ふぅ………。あれから魔界はどうなったんだろう………)


シリウス‥‥‥いや、シロウは、窓の外を眺めながら、かつての世界に思いをはせる。


「ね?駄目だったでしょ?」


そんなシロウを他所に、サーシャは肩をすくめてエリスとリリスに語りかける。


「確かに、これは重症やも知れんのぅ」


「まさか、シロウがここまで女体に興味がないなんて……」


どうやら、シロウが物思いにふけっている間に、エリスとリリスは彼の目の前でエロい仕草を散々していたようだ。

シロウの視界に入っているようで入ってないだけなのであるが。


(こんな事を考えても詮無い事だ)


シロウは、自身の両ひざを両手でパンと叩いて立ち上がって拳を振り上げた。


「よっし、今日も頑張っていくぞー!………って、あれ?みんな、どうしてそんな目で俺を見てんの?」


「頑張る……何を頑張るのかしら」


「そりゃあ、もうアレじゃないのかや」


「伯母上、アレでは分かりませんわ」


サーシャとエリスとリリスは、シロウを見つめながらひそひそ話をし、それを苦笑いで両者を見つめるマコトとオフィーリアの姿があった。

そういうわけで、女三人衆による『シロウ男色疑惑』が晴れるのは、当分先の話である。

お読みいただき、誠にありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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