表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

僕等は朝に出会う。

作者: シト

 朝早く学校に着いてしまった時に思い付いたものです。なんかおかしいかもしれませんが、見ていってください。

 寒い冬の朝早く、まだ太陽も登り切っていない頃、小高い山の上にある高校に向かって、自転車を漕いでいる男子高校生がいた。

 その高校生は少し急いでいた。本来であればもうちょっと早く家を出ていたが、寝坊をし、少し遅れてしまったからだ。

 彼の名前は巽魁仁たつみかいとといい、現在、白い息を吐きながら、必死で坂道を自転車で登っていた。

 魁仁は短髪に、銀色の飾り気のないピアスを付けている。そこだけを見ると、だいぶガラが悪く思える。だが、顔は少し丸めで、優しい印象だ。切れ長とも垂れ目とも言わない目が、その怖い印象を少し無くしている。


 学校の正門を自転車に乗ったまま通り抜け、駐輪場に停めた。他の生徒は誰もいない。それ程早い時間なのだ。


「悪い、穂奈美! 遅れた!」

「遅い……!」


 早足どころか、完全に全力疾走で階段を駆け上り、教室のドアを大きな音を立てながら開けた。そこには1人の女子がいた。

 太い黒縁の眼鏡を掛けた女子だ。気の強そうな吊り目を眼鏡で隠している。ストレートの黒髪は長く、腰まで達しているが、結ばれてはいない。鼻筋はスッと通り、ピンクの唇はふんわりとしている。

 魁仁は大声で謝ると、その女子生徒は怒ったように眉を上げた。

 彼女は桜瀬穂奈美さくらせほなみといい、一応魁仁の彼女である。


「いや、ちょっと寝坊しちまった」

「会う時間、減るよ」

「悪かったって」


 頬を膨らませる穂奈美に、魁仁は手刀を切りながら謝った。それを見て、穂奈美は唇を尖らせた。魁仁は続けて苦笑しながら謝った。


「ん」

「ん〜!」


 穂奈美が少しだけ声を出して、腕を広げたのを見て、魁仁は精一杯の力で穂奈美を抱き締めた。2人の顔には笑みが浮かんでいた。


「良かった〜! 間に合った!」

「うん……」


 魁仁が満面の笑みでそう言うと、穂奈美も少し顔を赤らめながら頷いた。

 2人は学校の皆には秘密で付き合っていた。

 魁仁はクラスでのカーストのそれなりに上の方にいるが、穂奈美はクラスの人との関わりが無く、カーストの最下位と言っても過言ではない。

 だから、黒縁の眼鏡に関してイジられることもあった。それのお陰で2人は出会えたのだった。



※※※※※※※※※※※※※



「あれ? 黒板が見えな〜い」

「お前、メガネかけた方がいいんじゃね?」

「黒縁メガネ!」

「それはないっしょ! ダッセェもん!」


 クラスのお調子者がそう言って穂奈美をイジる。これが教室での日常風景だった。魁仁はそれを見て、ただ顔に笑いを浮かべるだけで――彼の顔には基本的に笑顔が標準装備なのだ――大した反応は見せなかった。

 内心は、コイツ何でやり返さねえんだろ。とか思ってはいたが。


 常に友達と一緒にいるような魁仁であっても、時には1人になりたくはなる。そこで、10月に入り、少しずつ寒くなってきた為、あまり人がいなくなった屋上へと昼休みに向かった。


 屋上へのドアを開けると、怒りの叫び声が聞こえてきた。


「あぁ! もうアイツは何なんだよ! チラチラと視線を送ってきやがって! 言いたいことがあるならハッキリ言えっての!」


 その正体は穂奈美だった。眼鏡を外し、強い風で黒髪を靡かせながら、屋上のフェンスを殴る穂奈美の姿は、魁仁には非常に美しく見えた。


「ん? 誰?!」


 ドアが開いた音に気が付いたのか、穂奈美が魁仁の方を向いた。眼鏡が無いと視力が悪いのか、目を細めている。


「俺だ。同じクラスの巽だ」

「誰?」

「同じクラスの奴ぐらい覚えとけよ!」

「ごめんなさい。興味が無くて」

「興味が無くても、覚えられるだろ!」

「基本、クラスの奴はめんどくさい奴だと思ってるから」

「否定はしねえよ」


 穂奈美がバツが悪そうに目を伏せると、魁仁はブレザーのズボンのポケットに手を突っ込みながら、穂奈美の方に歩き出した。

 穂奈美はそんな魁仁の姿を見て、やっと思い出したらしく、両手を合わせた。


「あぁ! あのクソウザい奴らと一緒にいる奴!」

「正解。ウザい奴らと一緒にいる奴だ」


 そんな穂奈美に苦笑しながら、魁仁は肩を竦めた。


「じゃあ今の聞いたら、なんかする?」

「いや、別に。俺もいい加減イラついてたから。あれ、止めさせようか? 出来るけど」

「出来るんならね」

「オーケー」


 穂奈美がムッとした顔をしても、魁仁は軽く手を振って戻って行った。


「何なの……アイツ」


 その行動があまりにも謎だったようで、穂奈美は一人屋上で呟いたのだった。


 その後、午後になった。


「お前、メガネかけなくていいの? 特に黒縁」

「そんなのかけるかよ! 俺までダサくなるだろ!」

「いや、似合う似合う〜!」


 また、穂奈美をイジる言葉が始まった。


「それ、もうやめね? おもんなくなった」


 それを今度は制止するような言葉がかかった。魁仁だった。


「はぁ? 急に何? 惚れてんの?」

「いや、別に。普通におもんなくなっただけ」

「何で?!」

「こすり続けても面白くないんだな、これが。まだ面白いと思ってんの、お前らぐらいだろ」


 不思議そうに聞き返す2人に、魁仁はあっけらかんとした様子で返した。その言葉に所々頷く人もいた。


 そして、魁仁は2人に近付き、何かを囁いた。すると2人は急にビクッとした様子で、固まった。


「ほら、次移動教室だから行こうぜ」


 魁仁がそう呼びかけると、


「あ、あぁ……」

「うん……」


 2人はぎこちなく返事をした。魁仁はそんな2人の背中を押しながら急かした。出て行き際に、穂奈美の方へ視線を送って、ウインクをした。

 不覚にもドキッとしてしまった穂奈美は、少し自分を恨んだ。


(くっそぉ! あんなやつにときめいてしまうなんて……悔しい!)


 とはいえ、お礼もしないのは自分的に許せなかった為、廊下に出て、少し走って追い抜く瞬間、


「ありがと……」


 とボソボソっと呟いて去って行った。それはどちらかと言えば、口の中でモゴモゴと動かした程度であったが、魁仁には十分聞こえる程度だった。


 だが、そんなものすら可愛く思えてしまう程、魁仁の神経は既に穂奈美によってやられていた。恥ずかしそうにしていたのも、かなり効いた。


(かわいいかよ……!)


 少し顔が赤くなってしまい、しばらく顔を俯かせる羽目になったのは、言うまでもない。



※※※※※※※※※※※※※



 そんな風に2人は次第に距離を近付けて行った。

 そして、冬休み前日、終業式の日に、魁仁からの告白によって、2人は付き合うこととなる。

 だが、穂奈美たっての希望で交際は隠す事とした。

 理由としては、それなりに魁仁がモテてしまう事。そして、穂奈美の存在感が薄く、人との関わりがなさ過ぎる事だった。


 だから、学校ではこうして朝だけ、2人の時間を作ることにしていた。学校の外でも、都会ではないこの街では遊びに行く所も多くなく、誰かに出会したくはないため、外で遊ぶことはなく、どちらかの家に入り浸っている。


「あの〜、準備が出来ません」

「だって、魁仁が遅かった……」

「本当にすみません…………」


 カバンから教材を出している魁仁に、穂奈美はずっと抱き着いている。そんな穂奈美に満更でもなさそうな魁仁だった。

 昼間は一緒に居れない分、今のうちに充電しておこうという気持ちも魁仁には分かるので、結局準備を諦めて、抱き着きあった。


 しかし、そんな時間も終わり、階段から足音が聞こえてきた。


「あ……」

「あー……。じゃ、放課後ね」

「うん……」


 2人は残念そうな顔をしながら離れて、自分の席に座った。


「おはよう、魁仁〜」

「あぁ、おはよう」


 魁仁は瞬時に外向けの笑顔を貼り付けながら、挨拶を返した。


 そんな魁仁を見て、今日もすごいなコイツ。と思いながら、穂奈美は教科書で顔を隠しながら、微笑んだ。

 放課後の二人の時間を楽しみにしながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ