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5話 三日後の再会

 ダニエルと公園で出会った三日後。

 エミリアは、自宅で大人しく勉強をして過ごしていた。 パレードを見たことにより、この国の歴史に興味を持ったからーーというのは決して嘘ではないが、一番の理由は家族から勝手に離れ、町をフラフラと歩いていたことを怒られてしまい、『反省していますアピール』の真っ最中なのである。

 父は今日、騎士団までダニエルにお礼を言いに行ってくれている。

 

 転生して五年。 手がかからず賢いエミリアは、今までほとんど叱られたことなどなかったのだが、今回ばかりは違った。

 パレードで人出が多く、警備の目が行き届かない中を無断で出歩いていたのは、流石にまずかったらしい。


 私、いい歳してめっちゃ怒られてる! しかも、昼間の町を歩いただけで。 今は五歳だし、貴族の娘だから当たり前なんだろうけど……。なんだか笑える。


 アラサーの意識を持つエミリアは内心笑っていたが、父親の前では表情を神妙そうに装い、時々相槌を打っていた。


「で?どこに行っていたんだ?危ない目には遭わなかったのか?」


 エミリアの父は「怒るのはここまでだ」と、途中から今度は心配をし始めた。


「もときしだんちょうのむすこさんの、だにえるさまとおはなしをしていたの。あ、はんかちをおかりしたので、おれいをしたいです」

「え?ダニエル殿と?立派な青年だと聞いているが、よく会話が成り立ったな。騎士のダニエル殿と五歳のエミリアじゃ、共通の話題もなさそうだが。まあ、エミリアは特殊だからな」


 父はうんうんと頷いている。


 特殊?失礼な。


 エミリアは借りたハンカチの洗濯をメイドに頼むと、新しいハンカチをお礼にプレゼントしたい旨を母に伝えた。

 快く賛成した母は、エミリアが王妃の服に使用する為に提案し、作ってもらったストライプの布を持ってきた。


「エミリアちゃん、この布がいいわよ。王妃様は色味が暗いって採用されなかったけれど、男性なら丁度いいわ。まだ出回っていない生地だし」


 エミリアは、周囲に止められながらも自らハンカチを縫い、少し歪なハンカチが出来上がった。


 おかしいな、裁縫は自信があったのに。 まだ五歳児の小さな手が憎い……。


 兎にも角にも、新しいハンカチと洗濯済のハンカチにお礼の手紙を同封し、王宮に出かける父に預けたのだった。

 


 エミリアが歴史の本に熱中していると、玄関が騒がしいことに気付いた。 父が王宮から帰って来たに違いない。

 ダニエルにハンカチを渡せたかが気になり、結果を尋ねようと部屋を出ると、廊下の向こうから父がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。


「ぱぱ、おかえりなさい!」


 いつものように走り寄ると、抱き上げられた。


「ただいま、エミリア。お客さんだよ」


 お客さん? 抱き上げられたまま視線を父の奥に向けーーエミリアは固まった。


 ダ、ダニエル様!? どうしてここに……。


 抱き上げられて目線が高くなったエミリアより、更に高い位置から微笑みかけてくるダニエル。


「こんにちは、エミリア嬢。三日ぶりですね。また会えて光栄ですよ」


 ん?この人、こんなキャラだったっけ? 明るくなったのは良かったけど、笑顔と口調が胡散臭いような。 しかも、家まで何しに来たんだろう……。


 外で会ったダニエルとは別人に感じ、思わず抱き上げてくれている父親にぎゅっとしがみつくと、父は嬉しそうに言った。


「どうした?三日ぶりで人見知りしちゃったかな?大丈夫だ、パパがついているからなー」


 珍しく娘に頼りにされてデレデレしている父親越しに、不審がるエミリアと、そんなエミリアを面白そうに見つめるダニエルの視線が交錯していた。



◆◆◆



 時を遡ること三日前ーー

 無事に祝賀パレードを終え、馬から降りた騎士のダニエルは、フゥと一つ息を吐いた。 すかさず、同僚のルシアンがニヤニヤ笑いながら声をかけてくる。


「どうした?浮かない顔して。パレード中もずっとそんな様子だったな。変なものでも食ったか?」


 心配しているのかからかっているのかわからない台詞に、ダニエルはルシアンの脇腹をズンッと肘で突くと、町に向かって歩きだした。


「休憩してくる。また後でな」


「いってぇぇぇーー、後で覚えてろよ!!」


 ルシアンの叫びを背中で聞きながら、ダニエルは賑わう通りを抜け、通い慣れた公園へと向かった。

 小さな公園はベンチがあるだけで、まるで忘れ去られた空間のようにいつ訪れても人がいない。 いつものようにベンチに座ると、父の形見の短剣を取り出し、眺めた。


 親父が死んで一年か。 生きていれば、今日のパレードも親父が一番讃えられ、感謝されていたはずなのに。 まだまだ働けるはずの年齢で、さぞ無念だっただろう。 全部俺のせいだ。


 今でも自分を助ける為に駆けつけた父親の姿は、はっきりと目に焼き付いている。 独断で無茶をしたことへの怒りと、ダニエルが生きていることへの安心が混ざったような表情だった。 怪我を隠し、王都の家まで辿り着いてから倒れた精神力には感服するが、息子の自分にまで辛さを悟らせず、弱音を吐かない姿にはもどかしさも感じた。


 俺のせいで怪我をして、誇りを持っていた騎士も続けられず、結局悪化して死んで……。 全て俺が悪いのに、俺にも周囲にも何も言わずに逝ってしまった。 何も言いたくないほどに、俺に呆れて恨んでいたんだろうな。


 ダニエルが短剣を握りしめ、後悔の念に押し潰されそうになっていた時、人の気配を感じた。

 いつの間にか俯いていた顔を上げると、そこには小さな女の子が立っていた。



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