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11話 騎士の宣言

 お茶を淹れて戻ってきたシーラとルシアン姉弟に、エミリアは改めて仕事の説明を始めようとしたーーのだが、皆の意識がお土産のお菓子に向けられている為、とりあえず先にお茶を楽しむことにした。


「エミリア様、このお菓子とっても美味しいです!パティスリーで売っているものより全然。私、甘いものに目がなくて!」


 シーラだけでなく、若い騎士二人もお菓子が好きらしい。 稀に見る早さでクッキーとパウンドケーキが消えていく。


 ふむふむ。お菓子をちらつかせれば、シーラ様は簡単に釣れそうな気がする……。


 悪い企みを思い付いたエミリアは、ポシェットからゴソゴソと、いわゆる募集要項の書類を取り出した。


「しーらさま、たべながらでいいので、こちらをごらんください」


 エミリアが書類を差し出すと、それを覗き込む三人 。


「エミィが書いたのか?相変わらずしっかりしてるな。ってか、待遇が良過ぎるだろ」

「可愛いポシェットから可愛い文字の手紙かと思いきや……内容がエグいな。本当、エミィちゃんいくつだよ?しかも俺が働きたいくらいだ」


 仕事内容、給料、休日、福利厚生について詳しく書いてあるが、往復の馬車送迎付き、お茶の時間有りと、至れり尽くせりな職場環境である。

 そもそもこの世界にこんな細かい内容の募集要項は存在しておらず、エミリアはホワイト企業だと自画自賛していた。


「ダメです!」


 シーラが突如叫んだ為、残りの三人は一斉にシーラを見た。


 ダメ? どこかダメなところあった? あ、お菓子のこと言うの忘れてた。


「しーらさま、おちゃのじかんには、うちのおかしもつけるので……」


 姑息な手を使い出したエミリアに、更に慄くシーラ。


「キャァアア!ダメですよ、エミリア様!待遇が良過ぎます。きちんとした経験もない私なんぞに、こんな内容は勿体ないです。お菓子には未練を感じますが……」


 そっちのダメか! しかも、お菓子には未練があるんだ……。


「ないようはみなおしできますが、うちのちーむではたらくいしはありますか?」


 シンプルに訊いてみれば、思いっきり頷いてくれた。


「私の腕を買って下さるのは嬉しいのですが、テストなどしなくていいのでしょうか?」


 不安がるシーラを見て、エミリアは思い付いた。


「あ、このあっぷりけ、わんぴーすにつけてください。てすとがわりです」


 ダニエルに買ってもらったリンゴのアップリケをポシェットから取り出すと、ダニエルは顔を輝かせ、シーラ姉弟は揃って戸惑った顔をした。


「こんな素敵なワンピースに付けてしまっていいのですか?」

「五歳なら付けてて当たり前なんだけど、あんな書類を書いた子だと思うとリンゴとのアンバランスさがなんとも……」


 抵抗を感じている二人とは逆に、ダニエルもオレンジのアップリケを出すと言った。


「シーラ、前にボタン付け頼んだシャツに、このオレンジ付けてくれ。エミィとお揃いなんだ」

「そのシャツなら、今日返そうと思って今持っていますが……本気ですか?」


 若干引き気味のシーラだったが、無事にアップリケを縫ってもらったエミリアとダニエルはご機嫌だった。


「お似合いの二人かもな」


 ルシアンが呟くと、シーラは笑って頷いたのだった。

 

 その後、シーラはエミリアの縫製チームに加わることになった。

 バートン家の一室で作業をする為、シーラは馬車で屋敷まで通っている。エミリアとシーラは姉妹のように仲良くなり、非番の日にはダニエルとルシアンも顔を出し、四人で過ごすことが増えた。 すでに騎士二人は、バートン家に顔パス状態である。

 ダニエルがシーラと一緒に過ごせるように、エミリアは二人の仲を見守っていた。 しかし進展は無さそうで、エミリアにはそれが不思議だった。



◆◆◆


 

 三年が経ち、エミリアは八歳になった。

 父の事業も好調で、今では王都一の大商会にまで登り詰めている。エミリアの縫製チームも父の商会の一部門として新たに発足され、王妃だけでなく、貴族御用達として大盛況であった。 

 

 そんなある日、エミリアがいつものようにシーラとお茶を楽しんでいると、シーラがモジモジしながら何か言いたそうにしているのに気付いた。


「シーラさん、どうかした?何かあったの?」


 すぐさまエミリアから尋ねてしまった。

 三年でシーラとの仲はすっかり深まり、二人の会話にも遠慮が無くなっていたからである。


「あのね、エミィ様。私、結婚することになって」


 結婚!? 一体いつの間にそんなことに? 全然気付かなかったよーっ!


 紅茶を詰まらせそうになりながら、エミリアはやっとの思いで伝えた。


「おめでとう!私、全然気付かなかったわ。ダニー様も何も言わないんだもの」

「ふふっ、ダニエル様はまだ知らないので」


 ん? ダニー様が知らないって……当事者なのに?


「シーラさん、お相手ってダニー様じゃないの?」


 思わずエミリアが怪訝そうに問いかけると、今度はシーラが喉に詰まらせかけた。


「ええっ!?なんでダニエル様が?ダニエル様の大切な方は別にいらっしゃるでしょう?」


 そう言うと、シーラはチラッとエミリアの方を見る。


「そうなの?シーラさんを好きなのかとずっと思ってた」


 シーラに残念な子を見るような目をされたが、エミリアには意味がわからなかった。

 その翌日は、お茶の時間に四人が揃ったので、自然とシーラの結婚話になったのだがーー。


「私、ダニー様がシーラさんのこと好きだと思ってたから、てっきりお相手がダニー様だと思って!」


 エミリアの爆弾発言に、束の間の静寂が広がった。


「ブフッ、マジか!エミィちゃん、最高だな。いやー、笑える。……ブハハッ」

「ルシアン!笑ってはダメよ!ダニエル様、落ち込まないで下さい」


 吹き出すルシアンと、ダニエルを励ますシーラ……。

 ダニエルは俯き、なんだかショックを受けているようだ。


 あれ? 変な空気になっちゃった。


「あ、ダニー様、もしかしてまだシーラさんの結婚がショックなの?ごめんなさい、デリケートなことなのに……」


 エミリアが謝ると、ダニエルが立ち上がって叫んだ。


「ちがーう!まさかそんな勘違いされていたとはな。いや、俺も悪かったかもしれない」


 何を言っているのだとエミリアが首を傾げていると、 ダニエルがエミリアに向けて宣言した。


「エミィ!覚悟してろよ!!」


 益々意味がわからず、呆気にとられていたエミリアだが、シーラとルシアンがニヤニヤ笑いながら二人を見ていた。


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