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1話 ミラクルベイビーの誕生

なろう二作目です。

またまた騎士ものですが、よろしくお願いいたします。

 その日、バートン伯爵家は朝から大騒ぎであった。

 伯爵夫人が予定より早く、急に産気づいたのである。 しかし幸いなことに、午前中のうちに出産は無事に終わり、母子共々健やかな姿を見せた。

 産まれた子は女の子で、すぐさまエミリアと名付けられ、お産が軽かったことを喜んだ夫妻から声をかけられていた。


「エミリア、よく生まれてきたね。静かで、生まれたてなのに風格すら感じるよ」

「早く出てきてくれてありがとう、エミリアちゃん。お兄ちゃんの時は大変だったもの」


 まるで話が通じているかのように、ドヤ顔で口角を上げてみせる赤ん坊に、伯爵夫妻は顔を見合わせて笑い合ったのだった。


◆◆◆


 エミリアは転生者だった。生まれた瞬間から、前世の日本の記憶を持っていたのである。

 だからと言って、残念ながら生まれたばかりの赤ん坊の自分に出来ることなどありはしない。 遺憾ではあるが、仕方がないのでなるべく迷惑をかけずに育つことを心に誓った。

 伊達に前世でアラサーまで生きた訳ではなく、何事も自分でこなすことに慣れきっていたのである。


 嬉しそうに話しかけてくる両親に、目がまだ見えない中、微笑もうと奮闘してみる。


 うん、こちらこそ産んでくれてありがとう。 しばらくはご面倒をおかけしますが、出来るだけ一人で頑張るのでどうぞよろしく。


 そんな気持ちを込めて、今世での両親に精一杯のアピールをしてみた。するとうまく通じたのか、笑い声が聞こえて安心した。


 新しいお父さんとお母さんがいい人みたいで良かった。 それにしても、このお宅は上流家庭なのかな?


 状況はまだわからないし、前世の自分がいつどうやって亡くなったのかも記憶にないが、とにかく今はただ眠かった。

 エミリアは赤ん坊らしく、暫くは大人しく寝て過ごすことにした。



 生まれて数ヶ月が経ち、エミリアも徐々にこの世界のことを理解してきた。


 ふむ、うちは四人家族なのね。 三つ上のお兄ちゃんがいて、私は長女か。 さすが伯爵家! 使用人がたくさん雇われているけど、お姫様扱いされるのにはまだ慣れないわぁ。


 乳母やメイド達にひっきりなしに構われ、家族も頻繁に会いに来てくれる。 エミリアがニコニコと笑い、大人の余裕でいつでも機嫌良く接していたら、『なんて手のかからない可愛い赤ちゃんなのだ』と益々愛されるようになった。


 ある日、エミリアの母が夜会に復帰するらしく、メイド達が忙しなく準備をしていた。 その内の一人が冗談で、エミリアに質問をしてきた。


「エミリアお嬢様は奥様の今夜のドレス、どちらが良いと思いますか?」

「ふふふ、お嬢様にそんなことを聞いて。まだ難しいに決まっているじゃない」


 メイドが笑う中、エミリアが顔を向けると二着のドレスが並んでいた。


 うわぁ、綺麗なドレス……。 え?私に選ばせてくれるの? 私、これでも前世はアパレルの仕事してたんだからね。 お母さんには、絶対に右のモスグリーンの方が似合うと思うな。


「きゃ、ちゃっちゃ」


 うまく喋れないが、一生懸命モスグリーンのドレスを指差す。


「まあ、こちらですか?」


 コクコクと小さく頷くと、メイドは目を丸くしながら更に問いかけてきた。


「では、髪飾りはどちらにします?」

「ちゃーちゃ」


 今度は反対の指で示す。

 段々面白がってきた他のメイドが、靴やアクセサリーなどをいちいちエミリアの前に差し出し始めた。


「んな、なっ」


 両方気に入らないので首を横に振ると、また違うものを見せてくれる。

 こうして、もうすぐコーディネート一式が出来上がるという時に母が現れた。


「なんだか楽しそうね。あら、斬新な組み合わせだけど、誰が選んだのかしら?」

「エミリア様です!お嬢様が全てお選びに!」


 「まさかそんな」と信じられない様子の夫人を前に、最後のネックレスをエミリアに見せるメイド。


「お嬢様、これで最後です。ネックレスはどちらがいいと思いますか?」

「ちゃ」


 右手を上げて、小さい宝石の付いたネックレスを選ぶ。 そのネックレスをトルソーに飾ると、その場の皆がため息を漏らした。


「こんな合わせ方、見たことありませんがとても素敵です」

「全体で見るととてもバランスが良いですね」


 エミリアの母はドレスを撫でると、エミリアの方を見ながら感嘆の声をあげた。


「素晴らしいわ、エミリアちゃん!今夜はこれに決めたわ。あなたには天性のセンスがあるのね!!」


 鼻歌混じりにモスグリーンのドレスで出かけた母は、ご機嫌な様子で帰ってきたらしい。 エミリアは寝ていて気付かなかったが、寝顔にキスをしながら興奮気味に語っていたそうだ。


「エミリアちゃん、このドレス姿、皆様にとっても褒められたのよ?王妃様にも話しかけていただいて。全部あなたのおかげよ!」


 その後も夜会のたびにエミリアは意見を訊かれ、母はいつの間にか社交界でファッションリーダーと呼ばれる存在になっていた。

 しかし零歳児のエミリアによる快進撃は、まだ序章に過ぎなかったのである。



 ドレスを選ぶ様子を静かに眺めていた父親の伯爵は、エミリアが本当に理解しているかのように、意思を持って的確に指を差す姿に驚きを隠せなかった。


 まさか、本当にわかって差しているのか? 一歳にも満たないというのに? 試しに私もエミリアに選んでもらうとしよう。


「エミリアー、私にも教えておくれ。どちらの方がたくさん売れると思うかな?今度うちの商会で、独占的に販売しようと思っていてね」


 父はエミリアに近付くと、南方から取り寄せた二種類のフルーツを、それぞれの手に持って尋ねてみた。



◆◆◆


 

 エミリアは、以前からじっと観察するような父親の視線を感じていた。


 うーん。赤ちゃんなのに話が通じすぎて、とうとう不審がられたかな? 普通に考えたら怪しい子だもんね。 でもしっかり者だと思わせて、早く独り立ちしないと。 こう見えて、中身アラサーだし……。


 父は急に部屋から出ていくと、何かを両手に持って再び戻り、エミリアに問いかけてきた。


 あら、お父さんまで。 私って、二択でサッカーの勝敗を占ってみせたタコみたいじゃない? まあ私の意見でよければ、いつだって訊いてちょうだいな。 失敗しても責任は持てないけれど。 私、赤ちゃんだし。


 エミリアは父の手元を見るなり驚いた。 右手に持っている物が、前世で好きだったマンゴーだったからである。


「だっ、そっ、マッゴー!!」


 マンゴーを凝視し、興奮しながら手をパタパタさせる娘に、伯爵も熱が入る。


「おおっ、これか!これはマンゴリラという、南方の国のフルーツだよ。オレンジ色が綺麗で、味もいい。私もこちらかと思っていたが、そうか!エミリアもそう思うか!」


 満足そうにマンゴーをーーいや、マンゴリラを眺めながら、一人納得している。


 ぶふっ、マンゴリラって!いや、惜しいけれど!!


 エミリアは爆笑していた。

 キャッキャッと喜んでいるように見えているらしいが、内心はそんな可愛い反応ではなかった。


 ネーミングセンス! なんでそんなゴツい感じになっちゃったかなぁ。


 なおも笑い続けるエミリアに、父は宣言する。


「エミリア、私はこのマンゴリラに人生を賭ける!販売を成功させて、商会を大きくして見せるからな。このマンゴリラで!!」


 あははは!! マンゴリラを連呼しないでー。 ついでに、人生も賭けないでー。


 キリッとした表情で父が出ていき、ようやく笑い止んだエミリアだったが、そこでマンゴーを食べ損なったことに気付いた。 まあ、まだ食べられないから仕方がないのだが。

 エミリアは改めて早く成長したいと強く思った。


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