思い出作りのために告白したら溺愛された
「………もう一度言ってもらえるか? 」
「………はい。私は………隊長が好きでした」
私の名前はクミン・オロバス。ちょっと魔法が得意なだけの普通の人だ。
私は得意な魔法を活かして宮廷魔術師の末席に属している。
しかしこの度、田舎の父がギックリをやらかした上にその時無理をしたせいでベッドの住人になる羽目になったと母から連絡が来た。
父は私の田舎で数少ない魔術師でいろいろなところで魔法を使い便利屋のようなことをしていた、だけどそんな田舎にはなかなか他の魔術師はすぐに派遣されない。
それで困ってしまった母が私に連絡して来たのだ。
まあ、正直私程度の魔法では国の中枢ではそこまで役に立てない。
それなら田舎でみんなに喜んでもらった方が良いと思い、この度職を辞することを決めた。
しかしここで一つ心残りが。
私の敬愛する魔術師隊隊長………マクロス様。
彼に自分の思いを伝えたい!
隊長はクールで、簡単に人を褒めたりしない。けれど何かあった時は自ら動き、私たちのことを決して見捨てないことを知っている。
最初は尊敬だった。でもすぐに恋に変わった………決定的だったのは任務でモンスター討伐に出た際に私が討ちもらしたモンスターを、私を庇いながら葬り去った時だった。
あの隊長が少しだけ、ほんの少しだけ笑み? を浮かべて私を褒めてくれたのだ。
よくここまでモンスターを抑えたって。
その時は通常よりモンスターの数が多くかなり大変だったから。
隊長のことを好きになったが、隊長はどこまでも隊長だった。
クールで褒められることはほぼ無い、もちろん笑顔も。
私も訓練ではよく怒られていた、でも、それでも慕う気持ちはなくならなかった。
私は辞めることを伝えると共に、隊長に気持ちを伝えることにした。
このまま田舎に帰ってもずっと後悔しそうだから。
少しの間でも私のことを覚えておいてもらいたい、自分に告白してきた愚かな部下としてでも良いから。
「隊長、お時間いただき誠にありがとうございます」
私は隊長の部屋で深くお辞儀をした。
「いや、良い。それで用件は? 」
いつも通りの対応。
逆に安心する。
「はい、実はこの度宮廷魔術師の職を辞して故郷に戻ることにしました。いくら末端魔術師とはいえ隊長に報告をと思い参じた次第です」
私の言葉に珍しく隊長が驚いた表情をしている。
「う、うむ。故郷に帰ると言うことは、身内に何かあったのか? 」
「はい、父が少し体調を崩しまして。私が代わりを務めることに」
「しかし、ここを辞めるとは………代わりのものはいないのか? 」
「なにぶん田舎なもので、そこで働いてくれる奇特な魔術師などすぐには見つからないのです。ですので多少魔法が使える私に白羽の矢が立ちました」
隊長は何か考えるように俯いている。
やっぱり末端とはいえいきなり部下が辞めるのは困るか………。
しかし私は今からより困らせるようなことを言う。
「それから………隊長、私隊長が好きでした」
部屋に静寂が訪れる。
俯いていた隊長がほんの少しビクッとなったような気がしたが、気のせいか?
「………もう一度言ってもらえるか? 」
「………はい。私は………隊長が好きでした」
再度静寂が訪れる。
想いは伝えた、隊長が困っている、私は部屋を出た方が良いだろう。
「では、話を聞いていただきありがとうございました。私はこれで失礼します」
私はそう言って部屋を出ようとした、しかし後ろから何か聞こえる。
私が気になって後ろを振り返ると顔を真っ赤にした隊長がこちらを見ていた。
どうやら隊長が何か呟いたようだ。
「隊長、何かありましたか? 」
私の言葉に隊長が身体を震わせながら。
「な、何かあったかだと?! あった………あったさ! 君が俺のことを………その、す、好きだと」
「ええ、申し訳ありません。最後にと思い、伝えさせていただきました。私とどうこうしてほしいと言うことではないので安心して下さい」
「な?! 安心出来る要素がどこにもない! 」
本当に珍しく隊長が大声を出している。
安心出来る要素がどこにもないとおっしゃっているが、何故だろう?
「あの、私はこのまま仕事を辞めて故郷に行きますし、もう二度と会う機会もないと思います。なので隊長を煩わせることはないはずです。………安心出来ませんか? 」
「あ、ああ、もうどこにも安心出来る要素がない! なんでもう二度と会わない気なんだ? そもそもなんで俺の返事を聞かないのだ」
「え? 返事ですか? ………なんでって、それはもちろんわかりきっているからです。隊長は私のことを手のかかる部下だとしか思っていないようですから。なので隊長には申し訳無かったですが勝手に気持ちだけを伝えさせていただきました。………これで良いですかね? では、私は引継ぎがありますので失礼します」
私は一礼して隊長室を出ようとした。
しかしそれは叶わず、ドアノブに手をかけようとした時私は腕を掴まれた。
掴む相手はこの場に一人しかいないが、何故?
「全然わかっていないではないか! 好きなら何故そんなに簡単に出て行こうとするんだ! 勝手に簡単に諦めてるんじゃない! もう少し粘れよ。なんで俺は簡単に捨てられそうになっているんだ? 告白されたのはもしかして夢だったのか? そんなに良い夢ならもっと長続きしろよ………」
隊長が荒々しく咆えている。
こんな隊長初めてだ。
「あの〜、隊長。なんかその言い方だと勘違いしちゃいそうなんですけど」
「ああ? 勘違いだと? どんな勘違いだ? 」
「えーっと、自分で言うのは憚られるのですが、隊長が私に好意を持っていると………」
あー、言ってて恥ずかしい。
こんな勘違いするような恋愛脳の部下なんてとっとと辞めろって思っているかな?
私が恐る恐る隊長の顔色を窺うとそこには満面の笑みの隊長がいた。
「正解。なんだ、ちゃんとわかっているじゃないか。じゃあ、なんで俺は捨てられそうになっているんだ? 両思いなんだよな? 」
「え? あの、両思い? ………え? えーーーーーー?! だって、今までそんな素振り見せたことなかったではないですか?! なんで? ………あ、もしかして末端とはいえ今辞められるのが困るからですか? それなら言っていただければギリギリまで働きますよ? 隊長がそんな自分を犠牲にする必要はありません」
「なんだ、その斜め上の答えは。確かにクミンが俺の側からいなくなるのは嫌だが、クミンの魔法の腕が惜しいからではない。とは言え、クミンの魔術師としての腕は俺に次ぐからいなくなるのは魔術師隊としては大きくマイナスだ。しかし、今問題なのはそこではない。俺はクミンのことが好きだ。もちろんこれは引き留める為に言っているのではない。もしもクミンが仕事を辞めたとしても好きだからな」
「え? 隊長何言っているんですか? いつもあんなにお前の魔法は遅いだの、なんだの言ってシゴいていたくせに。好意のカケラも受け取ったことないですよ、私」
私の言葉に隊長が若干顔色を悪くしている。
「それは………アレだ。 その、クミンの好みに合わせようとしていてだな………」
「私の好みって? 」
「お前、前に飲み会で言っていただろう? 好みのタイプはクールで簡単に笑みを見せない人って」
「うん? 確かに好みの話はしましたが、あの場に隊長いましたっけ? 」
「ああ、たまたま近くに居たんだ」
「なるほど。………では、続きは聞いていなかったんですね? 」
「続き? 」
「ええ、その話には続きがありまして、クールで簡単に笑みを見せない………けれど私にだけ甘い人って」
「な、なんだってーーー?! 」
「やっぱり自分を特別にしてくれるのって嬉しいじゃないですか? その辺は普通の女子と感性一緒ですよ。まあ、それでも好きになったらそれがタイプになっちゃうんでしょうね。そうじゃなかったら隊長のこと好きになっていませんよ? 」
「………お前、今俺のことを貶しているだろう? 」
「正解です。 だって、どんなにシゴかれても結局隊長のことを嫌いにはなれませんでしたし。もしかしたら自分の性癖がおかしいんじゃないかって思い始めていましたよ」
「あ〜、すまん」
「じゃあ、とりあえず話はついたと言うことで私は引継ぎしますね? 」
「待て待て待て!! 何故そうなる? 今の流れだと両思いからの結婚だろう? なんで俺をまた捨てようとしているんだ? そうやってすぐに捨てようとするのは良くないぞ! 」
「隊長こそ何を聞いていたんですか? 私は父の代わりに故郷へ帰るんですよ? 隊長と一緒にいることは出来ないんです。最後に良い思い出が出来ました。ありがとうございます」
「クミン、お前………ほんとうにその俺をすぐに切り捨てる癖やめた方がいいぞ。俺は出来る男だぞ、本当はクールでも何でもないのにクミンの為にクールを演じていた男だ。せっかく俺の手に落ちてきそうな好いた女を逃がすわけないだろう? 未来の義父の為にすぐに代わりの魔術師を派遣してやる! この間調教………いや、訓練した丁度良いのがいるから大丈夫だ。それから高位の回復術師も派遣する、それでその流れでクミンを嫁に貰えるように説得するんだ! 」
「へ? いや、だって隊長って侯爵家の方ですよね? 私、田舎の男爵家の末っ子ですよ? 無理ですって。正直隊長がこんなの嫁にとか言い出した時のご家族の心労が計り知れないです」
「クミン、お前………実は俺のことそんなに好きじゃないのか? 言っておくけど告白の撤回は聞かないからな。お前は俺の嫁になるの確定だから。家族は俺が結婚するって言ったら喜ぶだけだ。最近はこの際平民でも良いから結婚しろって言ってたぐらいだ。もちろん俺の魔術を受け継ぐ子を望んでだ。そこは国も結構絡んでくるからな、その点クミンだったら国も親も万歳して受け入れる。なんたって貴重な全属性持ち、しかもそのどれもが平均より上だからな。お前が隊の末端なわけないだろう? 」
あれ? なんだか逃げ道が塞がれているような?
確か私は思い出作りで告白したのだが。
「あの〜、結局私はどうしたら良いのでしょうか? 」
「そんなの俺の嫁一択だ。そしてこれからは簡単に俺のことを捨てようとするな。言っておくが俺はクールなんかじゃない、お前に捨てられたら泣く。さっきも泣きそうだった。約束しろ、勝手に思い込みで俺を捨てないと」
なんだかわからない間に私は隊長に嫁ぐことが決まったようだ。
そして簡単に捨てることを禁じられた。
これは、もしかして、勘違いでなければ溺愛されているのではないだろうか?
「大丈夫だ。勘違いでも何でもなく、間違いなく溺愛だ。俺が保証してやろう。だから絶対に俺のことを捨てるな、わかったな? 」
どうやら簡単に諦められそうになったことがトラウマになってしまったようだ。
私に出来ることは捨てないことと、好意を伝えること。
クールではないけど、私にだけ甘い隊長は間違いなく私の好みだ。
隊長、私の方こそ捨てないで下さいね?
え? それは絶対にない?
ふふ、じゃあ、私も絶対にないです、安心して下さいね。
それからの隊長の動きは早かった。
私の故郷に代わりの魔術師を送り、父の為に回復術師も派遣してくれた。
それに感激した父は隊長の大ファンに。
隊長が私を嫁にと言ったら速攻で了承し、即日婚約となった。
隊長のご両親も私と結婚すると伝えると泣いて喜んだ。
どうやら私の心配は杞憂だったらしい。
「隊長、なんで私は隊長の膝の上にいるんでしょうか? 」
「はあ? そんなの俺が愛でたいからに決まっているだろう? 良いからここで大人しくしておけ。ほら、この菓子美味いぞ。はは!口元にチョコが付いているぞ、どれ」
そう言うと隊長は私の口元に唇を寄せチョコを舐めとった。
「た、隊長! 何をしているんですか?! 」
「うん? 味見? 美味いな」
そう言うと隊長はニヤッと笑った。
この人、本当にクールを演じていただけだったんだ。
今はいろんな表情を見せてくれる。
クールな隊長よりも今の隊長の方が好きだ。
「………隊長、好きですよ」
「お、お、お前! そう言うことをいきなり言うな! っく心臓が痛い。幸せ過ぎる! 」
なんだかんだで今、とても幸せだ。
告白して良かった。