第3章
木島は325000円を新聞に梱包し直して、
全身半脱力気味で“唯一実家から持ってきた”自転車を押して、現場となった海江田家を立ち去った。
俺はこんなもので埋められると…正気で思っていたのか…?
俺はこれで海江田の家族に毎月事故を思い出させていた。そんな事に今気付いたんだ。
どんなに考えても思慮から何かが生まれた試しはない、
どこまで問い詰めても目の前にあるのは海江田が言った事“何も出来ない現状”だった。
更に、嘲笑するしか無い事があった。
俺は返して貰ったこの金を捨てられなかった。言ってみればこれは海江田の生命か人生を弁償したようなモノだった。当時の俺はかなり普通じゃなかった、死ぬ気で働けば、あるいは死ねば許してくれるかと…思って…しまったんだろう。
ザザザザザザザザザザザザザ―――――‐
木島はただ、後悔とも反省とも絶望とも違う…であろう感情を抱えていた。
降り出した雨はやがて視界を8割遮断する様なものになっていった。
同じだ…あの日と…
「おお!木島!おかえり 仕事残ってるぞ!」
「すいません、今日で辞めさせて貰えますか。」
「解雇手当は…」
「要りません。」
「それじゃあ困るだろ。ほれ。」
あんた、こんなモノで…
今までコレが俺に何かしてくれたか!負債を作らせる以外にこんな物何になるッ!!」
バシッ!!
路上に散乱した現金を見ていた店長は唯、木島に言いたい事があった。
「木島、お前ユルい…これがお前の結果だろ!稼いで犠牲になる事をお前は選んだ!一生こういうモンに汚染されて生きる事を選んだ!違うか!」
「―-失礼します」
「最終手段を…教えてほしいか?」
「は?」
「罪悪感、倦怠感、葛藤、呵責、喪失感、全てから逃れる一番簡単な方法」
「だから何すか?」
「死ねば許されると思ってるんだったら…本当に死んでやれ。簡単だろ。」
「極端ですね」
「んなことはない。海江田全はお前の手によって死にかけた。結局意識は戻ったが今度はお前が言う“負債”を全て返してきた。今までのお前は海江田の全ての代償を用意するために生きてきた、それを失くした今お前が生きる理由は何だ?」
木島は苦笑してその場を立ち去った。考えれば実質上無職、一カ月分の給料も工場に捨ててきた。確かに疲れた…と言えばそうなのだが死ぬ理由にはならない。第一非常に面倒だ。
ピピッピピッピピッピピッ――-
ああああ!うっさい!
「はい、何ですか?」
「キリシマ大学の今関だ。全焼した海江田全の自宅で気絶した少女の身元が割れた。来てくれ。」
「は?何で俺が?そいつの家族に… ガシャッ――、ッーツーツー
「おい…! 切れた…」
本当に面倒な人生だ。俺は単に病院までの距離が遠い事を不満に思っていただけだろう。
空はまあ、快晴…これは俺の出身校の校長からすれば
“晴れ晴れとした青空、この学び舎で生徒たちはまたひとつ成長し、えー(思考回路遮断”今回はそれに近い。
他に見るモノ何て見当たらないド田舎の…俺はよく居る、たった今クビになって途方に暮れている人…否、正確には途方に暮れるべき存在だろう。
―--それを失くした今、お前が生きる理由は何だ?-―-
俺は答えられない。
否、“生きる理由”も何も俺は今まで“生きている”と、言えただろうか…?
俺は…今まで…海江田は…いま…何を…何の、為に…?
ガラッ――
「失礼します…え?」
うわわわわわわわわわあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!
「は?」
「静かにしろ!柿原、麻酔あるだけ持ってこい。」
「先生それは、犯罪です。」
「何ですか!」
うわわあああ…あっ
発狂終了。木島が保育士をしていたことはない。というか、発狂したいのは木島だ。
「木島…平祐…どうして此処に…」
「否、お前誰だ?」
「木島…平祐…西…村田…」
「!?」
ガラッ―――
タッタッタッタ・・・・・
「おっ!おい!何処行く!」
知っている。こいつは重大な事を。確証があったから俺はこいつを追って走って行った。