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オカ研の旗の下(もと)  作者: 淡太郎
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クラレスとアルキュラス・第一幕・土曜日の朝を発端に。

土曜日の朝。ゆっくりした時間が流れ遅い朝食を口にする者、朝寝坊を楽しむ者。それぞれが喉かで優雅な一日のスタートを切るなか、遠くの方から轟音と共にヘリコプターの羽音が聞こえて来た。それが近づいて来るなり真上を通り過ぎる頃は静かだった朝が急に慌ただしく動き出した。そのヘリコプターは学校の裏山の丘のだだっ広い草原の方向に向かっていた。

「見えてきたわあの丘よ」

翠がその方向へ指さした。そこには青々とした芝生が一面に広がっていた。

「案外広い場所ね」

沙織が双眼鏡を覗き込んでいる。

「あそこにまだあるの?」

由香がマイクを通し気だるい声で聴いてきた。

「昨日、一昨日の話だから突然消える事は無いと思うわ」

綾乃が執事の琴原から聞いた話だ。

ヘリコプターから覗き込んでいるのは何故かオカルト研究会仲良し四人組だ。広大なる敷地の芝生が間近に迫る中その真下には大きく鮮やかにミステリーサークルが描かれていた。

「でてきたっー!あったわっー!」

翠は大きな声で騒ぎ感動している。

「大っきいぃーわねぇー」

沙織はほれぼれとした表情で眺めている。

「間近で見るとやっぱり迫力あるわねぇ」

由香はデジタル写真部から借りているカメラのファインダーを覗き込んでいる。

「よかったわー、まだなくなっていなくて」

綾乃はほっとして安心した。

ヘリコプターは幾何学模様に描かれた大きなミステリーサークルの上空を幾度となくグルグルと旋回した。四人の目にはその姿を記憶に焼き残すように引っ切り無しで逸らす事なく凝視している。

「宇宙人は此処にやって来たのね!」

感動で胸が一杯になっている鷹塚翠は二年生だがオカルト研究会の部長である。

「私達に何かを訴えるメッセージなんだわ」

ファインダーを覗き込む飾磨由香はデジタル写真部部長に好意を寄せている。

「他にも小さいのがあちこちにあるわよ」

読書好きで図書係も務める栗須川綾乃は図書室の管理も部長並みだ。

「またこれで新しい観光スポットにもなるわ」

行動派の早乙女沙織は園芸部部長とも仲良しだ。

ミステリーサークルを目の当たりにする四人の様々な感情の想いが言葉になって騒がしくヘリコプターのエンジン音をもかき消すほど騒ぎ立てていた。そこにまたそれを上回る程の爆音が遠くから此方に向かって来た。

「お前達っー!こんなに朝早く近所迷惑なんだよっー!」

一台のセスナ機が同じ来た方向から猛スピードでヘリコプター目掛けて突進してきた。そこには大きなメガホンを片手に窓から顔を放り出した生徒会会長・西園寺公佳の姿があった。

「何考えてんのよ!危ないわね!」

ヘリコプターがその風圧で左右にグラグラと揺れた。沙織が鼻先一寸の差で素早く切り抜けていった西園寺に向かい声にならない大声を挙げた。セスナ機は上空に舞い上がり一回転してまた向かって来た。

「操縦はベテランのプロがやっているんだから間違いないわよ!そんな事よりあんた達の方こそ何考えてんのよ!」

急降下で降りてくるセスナ機の窓から西園寺がのり出してメガホンを通して叫んだ。

「見ての通りの早朝の野外活動よ!」

翠の叫んだ声はヘリコプターの猛烈な羽音でかき消されている。

「何をしてるか?じゃないの!何でヘリコプターなんかに乗っているんだ!って事よ!」

西園寺も大声を出すにも必死である。急降下で向かって来たセスナ機はヘリコプターの機体ギリギリで擦り抜け曲芸飛行の様に回転しながらまた舞い上がって行った。

「それが何かあなたに関係あるわけぇ!」

翠が必死に叫んでいるがヘリコプターとセスナ機のエンジン音に搔き消され西園寺にその声が届く訳がない。これまで旋回しながらじっと止まっていたヘリコプターの今まで黙っていた操縦士に火を付けた。いきなり急旋回してセスナ機を目掛け猛スピードで追いかけた。

「キャーー!!」

四人は突然の急上昇に傾く機体に体を寄り添い崩れないようにしがみ付いた。ヘリコプターとセスナ機の攻防戦が始まり、それはまるでジェット機の空中ショーのように華麗に舞飛んでいる。

「あんたも何ムキになっているのよ!」

西園寺も自分が乗るセスナ機の操縦士が怖くなってきた。誰の観覧客もいないその艶やかな空中ショーもそろそろ終盤戦を迎えてきた。真正面同士向き合い覚悟を決めたかの様にお互いの息を合わせ突進してきた。まるでチキンレースである。

「キャーー!!」

四人は叫ぶしかない。

「そんな事したらぶつかるわよ!」

西園寺は冷静だが青は蒼褪め声は上擦っている。

二つの機体はそんな読み通り正面衝突して直ぐ様エンジンに火が付き炎上した。

「おっ!落ちるぅー!!」

四人が一斉に叫んだと同時に操縦士が機転を利かせ脱出ボードのレバーを引いた。

「ひえぇぇー-」

勢いよく飛び出した四人は上昇気流に体を任せ慌てふためくなか大きくパラシュートが開いた。燃え上がった二つの機体は物凄いスピードでミステリーサークルのある地面へ落下し爆発炎上して周りは瞬く間に燃え広がった。

「ミステリーサークルが!・・・証拠が燃えていくぅー!」

翠は黒い灰になりながら燃えていくミステリーサークルを見下ろしながら嘆いた。

「あっー-!カメラ落としたー-!」

パラシュートでゆっくりと地面に降りていく最中の由香の手が滑べりカメラが地上に小さく消えていく。

「こんな一日のスタートじゃ気が思い寄られるわ・・」

沙織はパラシュートの綱を抱えながらどっと疲れが来ている。

「そんな事よりこのままじゃ火の海のなかに突っ込んじゃうよー!」

綾乃は足をバタバタしながら今の現実に目をやった。

操縦士の二人は巧みなパラシュートの綱捌きで燃え広がっていく炎から回避していき無事に地面に着地した。

「すべてあんた達の所為よ!」

突然横からパラシュートで急降下してきた西園寺が口を挟んだ。

「何言っているのよ!そっちが追いかけて来なけりぁ安全運転でこんな事にもならなかったのよ!」

翠の感情が体をバタつかせた。

「いつも邪魔ばかりして今に覚えてらっしゃい!」

沙織も勢いよく言い放った。

「邪魔している訳じゃないわ!あんた達のやり方すべてが気に食わないのよ!」

西園寺も負けてはいない。

「余計に悪いじゃない・・」

由香が気だるくぼそぼそと言った。

「もう火が間近よー!」

綾乃が叫んだ事に危機が迫っているこの状況に全員焦りを感じた。

そろそろ炎の熱気と共にもう直ぐこの身が炙り出されようかというその瞬間、急に大量の大粒の雨が周り全体を包み込んで激しく降って来た。その叩きつける雨の強さは瞬く間に燃え広がっていた火を消し止めていった。

「恵みの雨よー!」

全員が心より叫んだと同時にパラシュートが雨の強さに耐えきらず急降下で落下し地面に気負いよく全員が尻餅を突いた。

「いったーい!」

「ようやく無事に帰って来たわー」

「まさしく間一髪だったわよ」

「まさしく地に足が付くってゆうのがいいわぁ」

四人それぞれが思い思いの感動を言葉にした。

「よかったー!じゃないわよ!!」

西園寺だけは不服である。

「この大惨事を見てあんた達はどうも思わないの!」

あれだけ土砂降りで激しく降っていた雨がようやく小雨になろうとした頃、西園寺の怒涛に四人は周りを見渡した。そこには雨に湿った黒く焼け焦げた見る影もない青々とした草原だったであろう広大な敷地が広がっていた。

「み、ミステリーサークルが跡形もない・・」

「宇宙人の痕跡の証拠が水の泡よ・・」

「小佐井先輩から借りたカメラは何処行ったの・・」

「いいじゃない、みんな無事で・・」

四人はまたそれぞれ感想を述べた。

「そうじゃないー!いい加減にしてー!もういいわ!始末書を提出して頂戴!悪ければこれで活動停止よ!」

西園寺は鬼の形相で怒鳴りつけた。

「私は先に帰ります!あんた達は好きにして頂戴!」

そう言うと向こうの方から四輪駆動のリムジンが勢いよく駆け上って来たとおもうと気持ちいい程のハンドル捌きで西園寺の前にその大きな車体を着けた。

「ご苦労様。それじゃ来週の学校が楽しみだわ」

西園寺はそう言うと自動で開いた後部座席に乗り込んだ。

「あんた達は反省しながら歩いて帰りなさい」

ゆっくりと下りる窓から西園寺は手を振り冷めた言葉で言った。その後エンジンが唸りを上げ颯爽と走り出して行った。

後にポツンと残された四人はびしょ濡れになった姿のまま、ただその場に立ち尽くしていた。

「一旦学校に帰って作戦会議よ!」

翠の髪の毛から雨水を垂れ流れている。

「今の車誰が場所を知らせて一体何処から来たのよ!」

沙織がビショビショになった制服を絞っている。

「絶対西園寺とは仲良くなれないわ!」

由香はビショ濡れになったまま呆然としている。

「山を下りるって言っても此処からじゃ獣道しか無いじゃない!」

綾乃は携帯用のコンパクトドライヤーで体中を乾かしている。

「力を合わせて野生の勘で学校まで戻るのよ!西園寺に私達の実力を見せつけてやるわ!」

翠の放った言葉を皮切りに四人は肩を組みタッグを作った。

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