ハレー彗星が来た日・第四幕・活動継続の行方
アジト・・にて、四人は早弁をしながらミーティング中である。
「それじゃ今世紀最大の大間違いってこと!」
沙織は食べていた卵焼きが喉に詰まった。
「そうなのよ。世界中の人がまだ信じ込んでいるんじゃない」
綾乃がお茶を飲みながら目を見開いた。
「大規模なドッキリね。気づいた人はいなかったのかしら」
由香がタコさんウィンナーを摘まみながら気だるく言った。
「それじゃ、私たちが昨日見たのは何だったのー!」
翠の箸が止まり悲鳴を上げた。
「どうしても地球にやって来る周期が計算に合わないのよ」
綾乃がお手拭きをしながら言い放った。まさしく昨日見たハレー彗星に疑惑が持ち上がっている。
「妙子はオーロラのように見えたって言っていたわ」
沙織は弁当の蓋を閉めた。
「いつもながら早いわねぇ。そう言えば確か小佐井先輩も何か言っていたわ」
由香が朧げに覚えている和哉との会話を最後の一口を食べながら気だるく言った。
「そういう由香も早いじゃない。なんにせよハレー彗星もどきが皆を変にした原因よ!」
翠は半分しか食べていない。
「だけど確信が無いじゃない。私はやっぱりUFOの団体さんだと思うな。実際みたし・・」
沙織は爪楊枝をくわえている。
「どっちにしても先生たちも大半がお手を挙げて帰っちゃうし、私たちで何とかしなきゃこの状態が明日も続いているわ」
綾乃の弁当は既に包まれてハンカチで口を拭いている。
「みんな早いわね!私達にはそれより先にやるべき事があるのよ!」
翠の弁当を食べる手が早くなった。
「ところであの大きなお荷物は何?」
由香が指差して翠に気だるく聞いた。
「みんな分かっている!私達には今日しかないのよ!新しい部員を一人でも入れなきゃならないのよ!」
翠がおかずを口に入れたまま血気盛んに喋った。
「そうしないと明日には西園寺にお払い箱にされるってか!」
沙織は満腹感である。
「そこであの大きいのを使ってみると言う事ね。ところであれ何?」
綾乃はデザートのケーキを四人分取り出した。
「よくぞ聞いてくれました!あれこそ理科研究部が私たちの為に開発してくれた高圧の電極コイルを使った霊界通信機であります。まぁ早く言うなれば次世代の“こっくりさん”ね」
翠がようやく弁当を食べ終えお茶を飲んで流し込んだ。
「由香と私で何かって先に二回も聞いていたのよ」
綾乃はケーキを配りながら冷静に言った。
「怪しいわねぇ本当に大丈夫?しかしよくもまぁ、あんなに大きなしかも重そうな物ひとりで運んでこれましたね」
由香がスプーンでケーキをすくい上げた。
「それがさぁ、あまり見ない顔の男の先生がここまで運ぶのを手伝ってくれたの」
翠もケーキを食べる順番が回ってきた。続けて翠が、
「だけど不思議なのよ。何だかこの重い装置をその先生と一緒に運んだ実感がないのよ」
ようやく一口食べた。
「それじゃ早速、今回はこの機械を使っていつものお決まりの“こっくりさん”に聞いてみますか!」
沙織は既に完食である。
「私が食べ終わってからにして頂戴!」
翠がスプーンをくわえたままでいる。
時計の針が12時を回り昼休みを知らせるチャイムが響き渡るころ、まだ校内では相変わらず騒がしいなか中二病にかかっていない一部の生徒たちは帰り支度を始めている。そのころ・・。
「さぁ始めるわよ!」
沙織があの“次世代こっくりさん”のコンセントを入れた。
「こっちも大丈夫よ!」
由香が天窓の暗幕カーテンの重い縄を引っ張り閉めた。もともとの薄暗い部屋が真っ暗になる。
「さぁ行くわよ!」
綾乃が電源の重いレバーを持ち上げONにした。何も見えない部屋をおびただしい光線が走り出した。
「早くみんな集まって!」
翠は“魔女の衣装”と呼んでいるほっかむりの付いたコスチュームを羽織って準備万端である。四人は手を繋ぎ、豪快なモーター音を立て無数の電気の帯がパチパチと嫌な音とともに放っているその装置を前に円になって囲った。
「こっくりさん、こっくりさん。私たちに栄光と新しい仲間をもたらして下さい」
四人は目をつぶり目に見えない者に問いかけた。
「私たちの活動に参加して盛り立ててくれる仲間募集中です」
翠が願った。
「私たちと一緒に楽しい部活生活を始めましょう」
綾乃も思いを告げた。
「贅沢は言いません一人でいいからお願いします」
由香も切実に気だるく願った。
「いま入ってくれたら何か粗品プレゼントします」
沙織は物で釣った。
四人は繰り返し思い思いの願いを伝えた。すると急に四方に流れていた電気の帯が一本の筋を作り壁に放射された。映画のスクリーンの様になったそこから何やら薄ぼんやりと人影のような物が浮かび上がってきた。
「わらわがそなた等の活動に加わろうではないか」
人影は学生服を着た少女を映し出した。
「ひゃぁー!こっくりさんが登場してくれたわよ!」
翠が甲高い声を挙げた。
「何だか上から目線の言い方よ。意外と高貴なお方ではないの」
綾乃が不思議そうに答えた。
「古いセーラー服を着たお姫様?」
由香も不思議そうだ。
「いや、座敷童さんよ」
沙織は自信ありげである。四人がクイズの正解のようにああでもない、こうでもないと問答しているのに痺れを切らしたのかスクリーンの少女が割り込んできた。
「どれも違うわ!ただ単に、そち等の行動が面白く見えたからじゃ。早う仲間に入れもうせ」
四人は一瞬言葉が止まったが、また意見が飛び交った。
「やっぱりお姫様じゃない?」
綾乃はその話し方に注目した。
「昔々のこの学校の学生服よ。私たちの大先輩じゃない?」
由香はその服装に注目した。
「いや、ずうぅっと私たちと一緒にこの部屋でこの活動をいつも見守っていてくれた座敷童さんなのよ」
沙織は自分の意見を押し通している。
「お狐様、是非とも我らの活動を我らと共にお願いします。」
翠は映し出された少女の前まで行きずっと自分のなかでは確定だった思い込みの名前を叫んだ。
「もう狐でも座敷童でも女学生でもよい。あと何かにすがる様な表情で迫ってこないでおくれ。よかろう、そなた等と共に働いて存ぜよう」
スクリーンの少女の名前は内心諦めムードで“お狐様”に決着した。
「これでまた明日から安心して過ごせるわ」
四人は安堵のムードに包まれた。