表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/119

第98話 2度目の起動

 目を覚ますと、時子を見上げていた。

 ここは……何処だ。

 俺は……死んだんだよな。

 ならこれは幻覚か。

 身体も痛くない。


「……………………」


 時子がなにか言っている。

 少なくとも地獄ではなさそうだ。

 でもよく聞こえない。

 視界も左目のピントが合わない。

 身体も動かない。

 言葉が出てこない。

 意識だけははっきりしている。

 これは……そうだ。この身体を貰ったときと似ている。

 まさかまた転生したのか?

 目の前の人も時子じゃなくて天使……管理者?

 あ、タイムは?

 あのときはタイムが調整してくれたけど、まだ起動して(起きて)いないのか。

 それとも、別のパートナーが?

 それは……嫌だな。タイムがいい。

 タイムを起動でき(起こせ)ないかな。

 おーい、起きろ!


[現在〝タイム〟は起動していません]

RATS(ラット)を起動しますか?]


 当然!

 ……あ、[起動]が押せない。

 時子! これ押して!

 あー声が出ないんだった。

 というかこれ、時子に見えていないのか。

 動け、俺の腕! 今動かないでいつ動くんだ……って、最近同じこと言った気がする。

 ええい、とにかく指じゃなくてもいいから押せればなん

 でもいいんだ。

 頭……も無理。

 足……で押せるなら苦労はしない。

 舌……は動いたとしても頭が動かなきゃ届きゃしない。

 とにかくなんでもいい!

 [起動]を押せーっ!

 あ、タイム!

 お前起きた……ん? これアイコンか。

 矢印にしがみ付いている?

 アイコンじゃなくてカーソル?

 なんでもいい。

 そこの[起動]を押してくれ!

 頼む!

 あ、動いた。ゆっくりだけど動いた。

 そうそれそれ!

 それを押すの。ポチッと押してくれ。

 分かる? 押すだけでいいから。


RATS(ラット)を起動します]

[データベースを確認中……]


 っしゃ! 起動した。

 ありがとう、タイムのアイコンカーソル!

 あれ? 何処行った?

 消えちゃった……

 でもこれでタイムが起きてくれる。

 後は……任せたぞ。


『あ……とにかく、もう時間がないの! お(ねが)……あれ?』


 よし、タイムが起きた!


『タイム、聞こえるか』

『マスター?』

『ああ、俺だ』

『マスター! よかった、間に合ったんだ。ありがとう、時子……あれ、時子?』

『多分時子には見えていないし、聞こえていないぞ』

『えっ』

『俺も身体が動かせないし、耳もよく聞こえないし、声も出せないんだ。視界もぼやけててよく見えない。かろうじて目の前の人が時子だって認識できる程度だ』

『あ、ホントだ。常駐アプリが落ちてる? 違う。起動してない……なんで? セーフモードで起動してるの? どういうこと? ごめんなさい、とにかく今復旧するね』

『いいよ。タイムは悪くないんだから。元々は俺が蒔いた種だ』


 俺が弱いから負けた。

 勝てなかった。

 幾らタイムのサポートがあるからって、それを頼りにしたらダメだ。

 俺が強くならないとダメなんだ。

 俺という土台が強くならなければダメなんだ。

 軽トラにF1のエンジンを載せたって早くならない。

 俺がF1マシンにならなきゃダメなんだ。


『マスター、もう大丈夫だよ。ゆっくり動いてみて』

『分かった』


 目は……うん、ちゃんと見える。

 時子が俺を見つめているのが見える。

 耳は……うん、ちゃんと聞こえる。

 時子の泣き声が聞こえている。

 感覚は……うん、ちゃんと分かる。

 時子の温かい涙が顔に落ちてくるのが感じられる。

 手は……うん、ちゃんと動く。

 閉じたり、開いたり、スムーズだ。

 腕は……うん、ちゃんと動く。

 腕を持ち上げ、手を時子の頭に乗せることが出来た。


「モナ……カ……」


 ああ、時子の柔らかい髪が心地いい。


「守ってくれるんじゃなかったの?」

「ごめん」

「先輩のところへ連れてってくれるんじゃなかったの?」

「ごめんって」

「お嫁さんにしてくれるんじゃなかったの?」

「だからごめ……え?」

「嘘吐き」

「……うん」

「私を置いていかないでよ」

「悪かった」

「ごめんなさい」

「時子が謝ることないよ」

「ごめんなさい」

「いいって」

「ごめんなさい。本当に……ひっく」

「全部許すから、もう謝るな」

「うん。ごめんなさい。ありがとう」

主人公交代劇はありませんでした

次回は一斉に飛び立ちます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ