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第86話 鉄人形

 倒れているのは……エイルか?

 なら覆い被さっているアレが魔人か!


「エイル!」


 勢いよく部屋に飛び込んで魔人に迫っていく。

 頼む、間に合ってくれ。

 魔人が気がつき、こっちを見る。

 あれがエイルのお父さん……なのか?

 信じたくない。


「「エイルさんっ!」」

「そこをどけぇぇぇぇっ!」


 黒埜(くろの)を振り下ろすが、さっとかわされて距離を取られる。


「大丈夫かっ!」


 返事はない。

 気を失っているのか?

 死んではいないようだが……

 うっ、左腕がズタボロじゃないか。

 これ、治ったとしても後遺症が残るレベルだろ。


「お前がやったのか?」

「ん? もしかして我が娘の作った鉄人形(ゴーレム)か?」

「質問に答えろっ!」

「ほお、自律思考ができるというのか。よくできてる。さすが我が愛娘」


 〝愛娘〟……ということは、やっぱりこいつが。

 だったらなんでエイルを傷つけるようなことをするんだ。


「俺は鉄人形(ゴーレム)じゃない。人間だ」

「ふむ。自分を人間だと思い込むほどに精巧な作りとは……」

「だから鉄人形(ゴーレム)じゃないって」

「バカを言うな。この世界に魔力の無い人間なんて存在しない」

「俺たちは異世界人なんだよ」

「異世界人? っはっはっは。それこそ勇者小説の刷り込みが成功した証でしかない」


 んー、なにを言っても信じてもらえない。

 エイルの鉄人形(ゴーレム)だと信じて疑っていない。

 それだけ娘の技術力を信じているってことか。

 だったら……


「なんでエイルを傷つけた」

「卒業試験みたいなものだ。不合格だったが」

「不合格?」

「ああ。加減を間違えてしまってな。応急処置はすませてある。後は運次第だ」

「運次第って」


 運が悪ければ死ぬってことか。

 卒業試験なんだろ。

 明らかにやり過ぎだ。


「それでも父親かっ!」

「っはっはっは。それを言われると辛い。これでも我慢してるんだ……でも、君が来てくれて助かった」

「あ?」


 今〝助かった〟って言ったか?


「いや、こっちの話だ」

「さっき、不合格って言ったな」

「言ったな」

「俺がエイルの作った鉄人形(ゴーレム)だとも言ったな」

「言ったな」

「ならその鉄人形(ゴーレム)がお前を倒せば、エイルは合格になるよな」

「なるほど。確かにそうなる」

「話が早くて助かる」

「お前にできるか?」

「できるかじゃない。やるんだ」

「っはっは、いいね。なら俺も全力で立ち塞がろうじゃないか」

「いくぞ!」

「まぁ待て。ここでやり合ったら我が娘が怪我をしてしまう。上に行こうか」


 う……確かにそうだが、怪我をさせた張本人に言われたくない。

 が、素直に従っておこう。


「分かった」

「娘さん、娘のことを頼めるかい?」

「時子、頼んだぞ」

「いいの?」

「なんとかする」

「分かった。気をつけてね」

「ああ」

「お姉ちゃん」

「うん。任せて」

『魔物も居るんだ。気を抜くなよ』

『うん』


 時子とエイルを残し、部屋を後にする。

 話すことはない。

 例えエイルのお父さんであろうと、エイルを傷つける魔人を放っておくことはできない。

 倒すべき相手だ。

 ……エイルに恨まれるだろうなー。

 あ、そうだ。話すこと、あったぞ。


「さっき〝助かった〟って言ったよな」

「……言ってないな」

「それって俺が不味すぎて食欲が無くなったからってことか?」

鉄人形(ゴーレム)なんて食うバカが何処に居る」

「さっき倒した魔人が、俺たちが居なかったら我慢できずにエイルを殺していたって言ったんだ」

「……そうか。あいつを倒してくれたのか。ありがとう」


 まただ。また礼を言われた。


「トレイシーさんが待っているんだぞ」

「娘にも言われた」

「なにやっているんだよ」

「俺の代わりにお前が2人を守ってくれ。その為に生まれてきたんだろ」

「いや、だから俺は……」

「無駄口は終わりだ。地上に出るぞ」


 さっきの魔人より弱い……なんてことは無いか。

 キツい戦いになりそうだ。

次回、「アルテイシアか」……とは言いません

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