第84話 短縮魔法
「俺の勝ちだな」
「ああ……そうだ……な……」
「言い残すことはあるか?」
「ふっへへ……ありがとよ」
「殺されて〝ありがとう〟はどうなんだ?」
「元人間……だからな…………これ以上……人……間を……殺さなくてすむ」
「なら殺さなきゃいいだろ」
「へへっ……同じことを……言うんだな」
「同じこと?」
「ふへへっ……無理だって……お前も……なれば分かる」
「ならないよ」
「どうかな……俺の……返り血……随分と……浴びただろ」
「あー、俺異世界人だからさ、なんか毒素に耐性があるらしいんだ」
「異世界……人かよ…………どお……り……で……」
死んだか。
火葬しておいた方がいいのかな。
魔物の食料になっても厄介だし。
「時子、頼む」
「うん」
火球を撃ち込むと、いとも簡単に燃え上がった。
死んでいるから抵抗する意思がない……ということなのだろうか。
「調子はどうだ?」
「ダメみたい。全然ダウンロードが終わらないの。だから今ストックしてある分しか使えそうにないわ」
「そっか。なにが残っているんだ?」
「えっと……こんな感じ」
携帯の画面を見せられる。
画面が3×4に分割されていて、そのひとつひとつに番号と魔法名が刻まれている。
この12種類が残りか?
「見方が分からないぞ」
「あ、そっか。えっと……頭の数字と記号が短縮番号ね」
「短縮番号?」
「この[短縮]ボタンを押して[ダイヤルキー]を押すと、対応した魔法が発動するの。短縮魔法っていうの」
そういえば、新しい使い方を覚えたとか言っていたっけ。
これがそうなのか。
確かにこれなら左手でも簡単に操作できそうだ。
それで12種類なのか。
「で、この魔法名の右下に書かれている数字が残り個数ね」
「これが残弾か。小数点は?」
「ダウンロード中なんだって。使ったら使った分自動でダウンロードしてくれるから楽なんだ」
「へー」
つまりオートチャージとかオートリロードみたいな感じか。
1発じゃなくて何発もストックできるのは楽だな。
えーと、攻撃系は残っているけど、数が心許ないぞ。
火矢は残弾0だし。
そのほかも片手で数えられる程度しか残っていない。
身体強化系は全部0だ。
ダウンロードも全く進んでいない。
連戦になったらヤバいな。
確実になるんだろうけど。
エイルが片を付けてくれているといいんだが……無理だろうな。
お父さん相手にできるはずがない。
「とにかく行くしか道はない。降りるぞ」
「「うん」」
そういえば階段の入り口が閉められているんだった。
どうやって開けるんだ?
ノブとかなにも無いぞ。
あいつらどうやって開けていたんだ?
無理矢理開けるか……
「なあ、添付魔法も残っていないのか?」
「残ってるけど、日常魔法ばっかりで戦闘に使えるものはないよ」
「扉開くのは残ってないのか?」
「あれね。使ってみる?」
「頼む」
「うん」
添付魔法が発動すると、物凄い轟音と共にゆっくりと扉が開き始めた。
あれ、この音ってあのときの?
でも出張所で開けてたときはこんな音しなかったぞ。
別の魔法かな。
とにかく開いたことに変わりはない。
でも多分下まで響いてたよな。
気づかれたところでなにも変わらないか。
行くぞ。
時子と顔を合わせ、そして頷きあう。
俺が先に入り、時子が付いてくる。
静かだ。足音だけが響いている。
『なにかの施設っぽい?』
結構立派な施設だったんだろう。
扉は殆ど壊れているけど。
見た感じ最近壊されているっぽいから、壊したのは魔人だろう。
『なんだろうね。かなり大きくて深そうだけど』
『地下都市の更に地下……か』
『ねぇ、静かすぎない?』
『どういう意味だ?』
『んー、あのエイルさんがお父さんに会えて静かにしていられるのかなってこと』
『お父さんが居なかったとか?』
『それはそれで絶対戻ってきて怒鳴り散らかしてると思う』
『ははっ、確かに』
『しっ』
『ん?』
『ね、なにか聞こえない?』
『……聞こえるな。なんだろう。あの先か?』
『そうだね』
『よし、開けるぞ』
『気をつけてね』
『ああ』
壊された扉から中を覗き込むと、人が倒れていた。
そしてもう1人が覆い被さるようにしている。
次回はタイトルにルビを振ります
なお、システムは対応していない模様




