第83話 ハードモード
『よし、起動だ』
『難易度ハード、行くよ』
おお、いつもより緊張感のある曲だな。
って、いきなり足マーク?!
落ち着いて……なんて暇は無いっ!
テンポも速めだ。
魔人にダッシュしてジャンプしてフェイント入れて斬り下げる!
最初はチュートリアル的に優しくして欲しいぞ。
しかも動きがかなりハードだ。
足場になるのもマジだ。
まさかフェイントが空中で方向転換とは思わなかった。
その後の斬り下げも空を蹴って振り下ろせたからな。
自由落下のそれと威力が違う。
重力の力もプラスされて、いきなり右腕を肩から分離してやった。
んー、GOODの割合が多かったから、これでも威力が低い方か。
ALL PERFECTだったら脳天から真っ二つにできたのかな。
いや、それより今はミスらないように気をつけないと。
「なんだ今の動きは! くそっ、再生させるよりくっつけた方が……ああっ。なに燃やしてんだ女ぁ! おい、1対1じゃねぇのかよっ」
「1対1だぞ。時子にはゴミ掃除しかしてもらっていない」
「ゴミじゃねぇ!」
お、間奏終わって次のノーツか。
「次、行くからな」
「させるかっ!」
先手を取られた?!
でもノーツに変化は無し。
これも織り込み済みってことか。
時間を掛けて情報収集した甲斐があるってもんだ。
攻撃を右に避けて。
『あっ、それ左足じゃなくて右足のノーツ!』
『えっ』
左右判定あるのかよっ!
確かに斬りノーツも斬り付ける方向があるけど、左右の区別なんて無いぞ。
……両手持ち武器だからか。
一応タイミングはよかったはず……MISSかよっ。
とにかく避けられたから次のノーツは……本当だ。よく見ると左右の足形が分かる。
まさか上下もか?!
次のは左足でしかも上向き?!
連続で左足はキツい。
その上地面じゃなくて空中だし。空中歩行譜面だし。
1つミスると立て直す暇無いぞ!
案の定左足で踏むことができず、右足は素通り。
タイミングは悪くなかったのに……くそっ。
踏むつもりで足出したからバランス崩しちまった。
もう一段あると思って階段を上ったら無かった! みたいな感じだ。
思いっきり片手をついてしまった。
「威勢がいいのは最初だけか?」
こんな攻め時を逃すはずもない。
襲い掛かってくる魔人に、新しい譜面?!
間に合うのか!
譜面が早いっ。片手だから間に合わないっ。
爪を受け止めきれず、黒埜を弾かれてしまった。
「終わりだ」
次の爪が襲い掛かる。
武器は無い。
取り出す暇も無い。
[バックステップ]を使って……間に合わ……クッ。
「はぁぁぁっ!」
「うぐぉっ?!」
「だだだだだだだだ、うりゃあっ!」
魔人の腹に正拳突きからの連打。そしてトドメの回し蹴りを一発!
起死回生の反撃で魔人は瓦礫の山へ吹き飛んでいった。
「タイム、助かった」
武闘派モードのタイムだ。
武闘派じゃなくてタイムが出てくるとは思わなかったぞ。
「一気に行くんでしょ」
「ああ」
「きたねぇぞ! 結局3対1じゃねぇかっ」
瓦礫を地面に叩き付けながら文句を垂れてくる。
その気持ち、分からなくもない。
「そうとも言う」
「そうとしか言わねぇ! ってかなんだそのちっこいの」
「助っ人だよ。安心しろ。戦隊ものも怪人相手に多勢に無勢で戦っているんだから」
「センタイモノ?」
「そういう子供向け番組だ」
「けっ。情操教育によくなさそうだ」
「今はイケメン俳優目当ての母親がターゲットになっているらしいぞ」
「うわ。子供向け番組を母親が奪うのかよ」
「金を落とすのは子供じゃなくて大人だからな」
そんなことをネット掲示板で読んだことがある。
……こういうことは覚えているんだよな。
「はー、世知辛いねぇ」
「そうだな」
「……」
「……」
「あーなんだ。行くぞ!」
「来いっ!」
もしかして同情された?
だからといって、手心は加えない。
片腕を失った魔人の攻撃力は落ちている。
といっても攻撃回数が減っただけで、一発の重みは大して変わらない。
まともに食らったら終わりなのは変わらない。
だからさっきは本当にヤバかった。
タイムが出張ってくれたから助かったけど、その分稼働可能時間も減った。
多少攻撃パターンが変わったみたいだけど、予測演算で対応可能範囲だ。
さっきは失敗したけど、今度はフルコン成功させるぞ。
気合いを入れたところに身体能力向上系の魔法が飛んでくる。
『多分今日はこれで最後だから』
『分かった』
効果時間はさほど長く無い。
行くぜ。
って、魔人の腹に右足のノーツ?!
蹴り飛ばせってことか。
爪をしのぐ斬りのノーツを処理しつつ?
魔人の動きを見なくてもいいから集中できるのはいいけど、目の前で爪を振り回されてたらそれだって難しいのに、更に足芸?
やってやろうじゃねぇか……よっと!
よし、蹴り飛ばせた!
なにっ、追いかけて斬るのかよっ。
次のノーツが魔人で見えなかったとか、初見殺しもいいとこだ。
時子の補助魔法なかったら間に合わなかったぞ。
「はぁぁぁぁっ!」
あれ、踏み込みが足りなかったか。GOOD判定だ。
やっぱり浅かったらしい。致命傷にはならなかったようだ。
だったら手数だ! といわんばかりにノーツが増える。
これ全部?!
気にしても仕方がない。
二刀流で対処したいぞと思うほどの数なのに、次へ繋ぐのに無理がない。
流れるような動きで反撃を許さない。
たまに足のノーツが出てくるのはどうにかならないのかっ。
でもそのノーツを処理すると、自然と相手の苦し紛れの攻撃を避けられるんだよね。
そしてそのまま手を止めることなく反撃できる。
回避までもが攻撃に組み込まれているんだ。
しかし、それも長くは続かなかった。
最後のノーツを斬り捨てると、魔人は倒れて動かなくなったからだ。
次回は残弾確認です




