第82話 いつかかならず
やっぱり無力化して通り抜けるなんて無理だ。
多少ダメージを与えても直ぐに回復してしまう。
俺たちはそんな回復力無いってのに。
不公平だ。
魔法世界なんだからヒールとか治療とか使えないのかよ。
エイルに言わせたら俺たちの世界こそナノマシンで自己再生できるのよ……だもんな。
ギブミーご都合世界!
とはいえ、ちょっとした傷ならナースが治療してくれている。
ある意味ヒールと同じだ。
あのときも腕を秒と掛からず縫合してくれたし。
俺限定だけどな。
時子相手だと制限が掛かる。
他の人には全く効かない。
エイルやアニカは分かるが、鈴ちゃんにも効果が無いのはちょっと謎だ。
そんなわけで、俺は多少怪我してもなんとかなる。
が、時子には傷1つ付けさせてなるものかっ。
だったら離れて戦えばいいんだろうけど、いまだに離れられずにいる。
ここまで密着すると、逆に戦いやすいのはなんでだ?
前は俺が見て後ろは時子が見る。そして僅かに残った死角はタイムがカバーする。
何処から攻撃が来ても、何処に逃げようとも、追えない場所は無い。
物陰に隠れる?
甘いな。
『時子』
『大丈夫、見えてるよ』
タイムのドローンが見逃すはずもない。
俺はARで、時子は携帯の画面で簡単に確認できる。
ドローンの映像でまでロックオン可能とか、完全にチートだろ。
火矢が不自然な弧を描いて飛んでいく。
もう弓矢じゃなくて誘導弾だろ。
着弾と同時に小さな爆発まで見えた。
火矢じゃないのかも知れない。
そんなものが数え切れないほど帯を成して飛んでいく。
たまらず爆煙の中から飛び出してくる魔人に黒埜の一撃を食らわせる。
「だぁぁぁっ! 2対1は卑怯だぞ」
「残念だったな。3対1だ」
「なに?!」
タイムの存在を忘れるとか、ふてぇヤロウだ。
残り時間は……ん? 気のせいかな。
『タイム、この表示間違っていないか?』
減るどころかむしろ……
『残念だけど、あってるよ』
『なんで残念なんだよっ』
『つーんっ』
『なにが間違ってるの?』
『いや、それがな』
『マスター、言ったらダメだよっ』
時子に聞こえないよう、俺にだけ?
〝言ったらダメ〟すらも聞かれたらダメなのか。
『なんでだよ』
『言うなら、全部終わってから』
『……理由は?』
『今は言えない』
『今時子には聞こえないんだからいいだろ』
『……言えないんだよ』
あ……制限に引っかかることなのか。
でも〝今は〟って言った。
いつかは言えるようになるって思ってていいんだな。
『……どうしたの?』
『っはははー、気のせいだった』
『……はぁ。もう、しっかりしてよ』
『すまん』
『あのね、そろそろ決着付けないとマズいみたい』
『そうなのか?』
『なんか通信の調子が悪いみたいなの』
つまり携帯魔法が使えなくなるってことか。
『分かった。無理はするな』
『うん』
通信の調子か。
携帯は通信状態に左右されるからな。
その点携帯はインストールしておけば一部のアプリを除いて通信しないから、調子が悪くなっても関係ない。
やっぱり地下だから電波が弱いのかな。
んじゃ少し無理しますか。
充電も大分復活したし。
『離れるぞ』
『えっ、大丈夫なの?』
『短期決戦だろ。無理しないとな。時子も必要なときはケチるなよ』
『うん』
時子と離れて黒埜を両手で構える。
落ち着くな。
「なんだ。今更離れるのかよ」
「お望みどおり、1対1だ」
「はあ?! チッ、なめられたもんだぜ」
「なめているわけじゃない。こっちの都合なんでね」
「都合ねぇ。どんな都合なんだ?」
「それはだな……秘密だ」
「かぁーっ、冥土への旅立ちに悔いを残していくなよ」
「んー、冥土の土産に話してもいいけど、前回みたいに逃げられたら厄介だからねぇ」
「逃げてねぇ!」
「尻尾巻いて逃げただろ」
「戦略的撤退だ!」
「要するに逃げたんだろ」
「しつけぇぞ! だったら今てめぇをぶっ殺して逃げたんじゃねぇって証明してやらぁ!」
よし、これだけ挑発しておけば、さすがに逃げないだろ。
『情報収集は終わったのか?』
『終わってるよ』
『んじゃ、NotesSaberで行くぞ』
『難易度がハードだから、足さばきのノーツも出てくるから気をつけろって言ってる』
〝言ってる〟?
ああ、天の声か。
……って。
『足さばき?!』
模擬戦でもそんなもの一度だって出たことないぞ。
ぶっつけ本番かよ。
『当たり判定もあるから、タイミングが合えば足場になるんだって』
『外したら?』
『足場にならないから、空中で外したら落ちることになるってさ』
『マジかー』
ハイリスクハイリターンってことか。
とはいえ、短期決戦にはこれが一番いい。
やるぞ。
次回はリズムゲー入りまーす




