第80話 お見通し
「で、どうするんだ?」
どうするもこうするもない。
選択肢はただ1つ。
「殴ってでも連れて帰るのよ」
「お前ってヤツは……なら、殴られないようにしないとって、うわっ!」
あれ、外した?
この至近距離で不意打ちなら当たると思ったのに。
そこまで広い部屋じゃないけど、障害物が多いから隠れられたら厄介ね。
「いきなり撃ってくるとか、お父さん死んじゃうでしょっ!」
「大丈夫なのよ。死なない程度のよ、加減してるのよ」
「そりゃどうもっと」
連射式詠唱銃で反撃されるのは計算済み。
見せてなかったけど、シールドも改造済みなのよ。
今のうちに薬莢を交換して……
「あれぇ? 今の撃ち抜けなかったのか。硬くなったなー」
「硬いだけじゃないのよ」
耐久力だって、範囲だって、衝撃吸収だって、展開速度だって上がってるわ。
隠れるつもりがないみたいだし、もう一発。
「なるほど。交換が必要だからその間の防御力も上げたのか。交換式だからその間の魔力をシールドに回せるからできることだな」
もうバレた!
見せたときに交換式なのは分かってただろうけど、そっちも即バレか。
だからってなにが変わるわけじゃない。
とにかく撃つ!
「なっ、シールド越しに撃てるのかっ。くっ、避けきれないっ」
よし、腕に当たったわ。
これで暫く左手は使い物にならないはず。
「なるほどなるほど。我が娘の成長を実感できるのは嬉しいねぇ。お父さん、本気出しちゃうぞ」
「随分と余裕なのよ」
「どのくらい成長してるか分からないんだ。いきなり全力なんて出せないだろ。さて……こんなもんかな」
なにを仕掛けてくるつもりかしら。
なにかされる前に追撃しておかないと。
狙いを定めて撃つ。
避けない?
ま、避けても無駄だけどね。
当たる直前で拡散し、弧を描いて対象を襲っていく。
ようは散弾ね。
「狙いは悪くないが、今のは通常弾にするべきだったな。一発一発の威力が低い。さっきより痛くないぞ」
全部受けきったの?!
しかもさっきの左腕も大したダメージを受けていなかったみたい。
もう少し威力のあるものに変えないと。
「次はこっちの番かな」
そんな決まりはない。
なら次は……
「まずは一発。死ぬなよ」
連射式詠唱銃から放たれた魔弾をシールドで防いで反撃する……はずだった。
魔弾は防がれることなく素通りして肩を貫いた。
「ぐっっっっ」
「あああああっ! 大丈夫か? 痛くないか?」
「痛いに、決まってるのよ……」
「よかった。痛いってことは生きてるってことだぞ。よし、それじゃ気合い入れて避けろよ」
シールドで防げないってどういうこと?!
とりあえず物陰に隠れないとっ。
「シールド越しに撃てるのは確かに利点だ。だがこういう欠点にも繋がる」
欠点ってなによ。
私が撃ったもの以外素通りなんてできるはずが……
まさかっ!
「その左腕のよ!」
「お、からくりが分かったか? そういうことだ」
やっぱりわざと受けていたのね。
最初の不意打ちが避けられて、2発目が避けられないのはおかしいと思った。
「そんなことできるのよ、あなたしか居ないのよ」
「そんなことないぞ。割と居るからな」
「少なくとのよ、オオネズミや魔獣のよ、できないのよ」
「っはっはっは、違いな……うっ」
「とっ」
「来るなっ」
声が変わった?
低くガラガラとした嫌な感じだ。
胸を押さえて苦しんでいる。
目つきも怖くなった。
さっきまでいつもの優しげな目だったのに、獲物を狙う肉食獣の目みたいだ。
まるで私を……ううん。
そんな姿は見たくない。
「くっ、大丈夫だ、まだ、はぁ、大丈夫だから……ふぅ。すぅー、はぁー。お前こそ肩はどうなんだ」
「かすり傷なのよ」
弾は貫通しているし、影響は大したことない。
体液ももう止まった。
「よし、だったら続きをやるぞ」
声と目つきが少しずつ元に戻ってきている。
このまま続けたら、またさっきみたいに……
「もう十分なのよ」
「なにが十分なんだ。これからだぞ」
「まだやるのよ?!」
「おいおい。試験に合格したんだろ。もうへばったのか?」
あ、しまった。
そこを指摘されると弱いわね。
受かったなんて言えないし……言ってもいいのかしら。
一応中央から依頼されて外に出た実績がある。
それを前面に出して試験のことは有耶無耶に……
「お前、試験落ちてるじゃねぇかっ!」
え?!
なんでバレた……あっ!
「酷いのよ! 幾らあなたのよ、勝手に身分証を覗くのよ、プライバシーの侵害なのよ」
「うるさいっ。愛娘の動向を常にチェックしておくのは親として当然の権利だ」
無茶苦茶だわ。
確かに親の権限なら子の身分証をある程度覗き見ることは出来るけど。
というか、父さんの身分証、まだ機能しているのね。
そっちの方がビックリだわ。
身分証だって毒素には強くないはずよ。
「しかも中央の依頼を受けただと?!」
「悪いのよ?」
「当たり前だっ!」
「あなただって受けたのよっ!」
「俺は……いいんだよ」
だったらもっと堂々と言いなさいよ。
なんでそんなバツの悪そうな態度になるの。
なにか後ろめたい理由があるからじゃないの?
連射式詠唱銃の基礎設計を中央に渡したことが関係しているんじゃないの?
「よくないのよ」
「トレイシーはなにも言ってないんだろ」
なにも言っていないんじゃない。
なにも教えてくれないだけ。
どうしてあなたは……
「よし、なら俺が試験をしてやろう」
「試験のよ?!」
「俺を倒せたら合格。倒せなかったら不合格」
「不合格ならどうなるのよ?」
「んー、お前もこっち側に来るか?」
魔人になれってこと?
父さんと居られるようになるのは魅力的だけど。
「行かないのよ」
「即答かよ。あいつの誘いは保留してるくせに。お父さん悲しいぞ」
「あいつのよ?」
「なんて言ったかな。ナカス……」
「ホントに会ってたのよ……」
「ああ。いろいろ世話になった。だからここに居られるのかもな。よし、そろそろ始めるか。シールドの設定、終わったんだろ」
バレてる!
やっぱり父さんに隠し事は無理ね。
次回は親子の決着です




