第7話 空中戦
「ん?」
「静かになったのよ」
元々静かだけどな。
攻撃してこなくなったという意味だ。
無駄だと悟って諦めたか?
街が段々と近づいてくる。
街……というよりは村?
廃墟じゃなくて、きちんと人が住んでいるみたいだ。
まあさっき手厚い歓迎を受けていたけどな、っはは。
「人が居るのよ」
モニターに人が映し出されている。
丁度村と森の境目にある少し開けたところに数名が見える。
他にも居るかも知れないが、映像からは見当たらない。
なにをしているんだろう。
等間隔で横並びになっている。
「到着まで、あと10分です」
10分か……結構倍率がいいカメラだな。
俺の左目とは大違いだ。
「レーダーに反応。前方から飛翔物が来ます」
「またなのよ」
「いえ、移動速度はそこまで速くありません。鈴、映像を切り替えて」
「了解」
映像が飛翔物に切り替わる。
明らかに人工物が編隊を組んで飛んでいるぞ。
車を横にしたくらいの大きさで、羽しかない飛行機みたいな形だ。
下には筒状のものが2つぶら下がっている。
まさかミサイル……なのか?
戦闘機とでも呼べばいいのだろうか。
羽しかないのによく飛べたもんだ。
こっちは羽が無いのに飛んでいるけどな。
ん? ……もしかして木造?
こっちの世界だと見慣れているけど、空を飛んでいるところは見たことないぞ。
『撃ってもよろしいのでございましょうか』
「まだダメなのよ」
〝まだ〟?
撃たれたら撃ち返せとでもいうのか。
「なあエイル、ダメ元で白旗でも掲げるか?」
「無駄な抵抗をされているのよ。掲げても無意味なのよ」
〝無駄な抵抗〟とか言うな。
無駄じゃないかも知れないだろ。
いや、無駄じゃなかったらヤバいな。
どうか無駄な抵抗でありますように。
相手の射程に入ったのか、一斉に撃ってきた。
今までの攻撃と比べたら豆鉄砲みたいなものだけど、数とスピードが尋常じゃない。
まさに弾幕というにふさわしい。
ま、全て弾いてしまっているわけだが。
そして一定の距離まで来ると、腹に抱えている筒状の……というか、予想どおりミサイルを撃ってきた。
ヒットアンドアウェイか……基本に忠実だな。
こっちが反撃しないから良い練習の的だろう。
的じゃないけど。
で、その肝心のミサイルなんだが……まあ予想どおり当たって大爆発。
被害はといえば、モニターが眩しくて目がチカチカした程度。
実質被害は無かったと言っても過言ではない。
エイルの言った〝無駄な抵抗〟が現実になってしまった。
俺の心配は無駄だったってわけだ。
しかし問題はある。
この船の中に居る限りは安全だ。
そう、中に居れば……だ。
「エイル、この後どうするつもりだ?」
「なにがなのよ」
「なにがって、俺たちは遊覧船に乗って観光に来たんじゃないんだぞ。エイルのお父さんを連れ戻しに来たんだ。つまりこの船から降りてお父さんを探しに行かなきゃいけないのは分かっているよな」
「言われなくのよ、分かってるのよ」
「なら今の状況が最悪なのも分かっているんだよな」
「分かってるのよ!」
船は攻撃されてもなんともない。
でも俺たちはあんな攻撃をされたらひとたまりもないぞ。
今から友好的に……なるのは難しそうだな。
どうするつもりなんだ。
アニカは役に立たないし。
結局どうするかが決まる前に、森を抜けようとしていた。
すると、今まで激しく攻撃していたのに、みんな帰っていってしまった。
「今度こそ諦めてくれたのか」
「だといいのよ」
眼下に空き地が広がっていく。
さっきモニターで確認した以上の人がズラリと並んでいる。
完全に迎え撃つ! みたいな感じだ。
歓迎はされていないな。
それでも行かなくてはいけない。
争いは避けたいなあ。
「森を抜けるのよ」
今度はいきなり撃ってくるということは無く、それでも身構えられている。
森を抜け、空き地の上空へ出る。
すると船を囲うように隊列が変化した。
完全に包囲されているな。
武器はなんだ?
剣は持っているようだが、鞘に収めたままだ。
槍を構えている者はいる。
でも弓とかボウガンといった遠距離系武器が見当たらない。
エイルの持っているような銃も見当たらない。
かといって杖を構えているとかもない。
飛び道具が無いってことはないだろうけど……実際使われていたし。
防具は随分と軽装だ。
鎧とか甲冑とか兜とか盾とか、とにかくそういった分かりやすいものは身につけていない。
それでも皆同じ服を着ている。
迷彩服じゃないから軍隊じゃないのかも。
自警団……とか?
とにかく組織立った集まりなのは間違いない。
そんな装備でこの船と対峙するって……相当肝が据わっているか、覚悟を決めているかなんだろう。
安心してください。なにもしませんから。
次回は稼働時間の変化です