第78話 一張羅
魔人が爪を振りかざして襲い掛かってきた。
今までなら正面から黒埜で受けていたところだ。
でもそれだと凄く負荷が掛かる。
爪の勢いに負けないように踏ん張り、弾かれないように握りしめなければならない。
時子の補助魔法と右腕の解放が合わされば余裕だろう。
その力を一身に受けるのが黒埜だ。
だから足を一歩引いて半身になり、爪が黒埜に当たる瞬間に受け流す。
黒埜のことを考えるって、こういうことでいいのかな。
「うお? っとと」
うん、上手くできた。
相手がバランスを崩したところで薙ぎ斬る。
うーん、上手く繋げられないな。
かわされちまった。
受け流し方が悪かったか?
ゲームだとボタン1つでカウンターが取れるんだけど……どうやってキャラ動いていたっけ。
そもそもあれって現実的な動きかな。
可能だとしても片手だし、時子を抱き締めているし、同じ動きは無理か。
「こんの!」
また突っ込んできたから、今度は逆側へ受け流し、薙ぎ払う。
うー、また避けられた。
切り返しが遅いのかな。
ここに来て技量不足が顕著になってきたぞ。
「てんめぇー!」
今度は大振りしないで連打に変えてきたか。
んー、防戦一方だな。
でも上手く受け流せてる。
まともに受けてたら脚を踏ん張らなきゃ吹っ飛ばされているところだ。
「ハッ、余裕が無さそうだな」
「んー、そうでもないぞ」
「だったら反撃してみろやっ!」
「だってさ」
「あ?」
それを合図に、背中からひょこっと携帯が顔を出した。
そして魔人の無防備な腹へ氷槍が突き刺さった。
「なに……くっ」
怯んだ隙に首をはね……られないか。
上手く入ったと思ったのにちょっと斬れただけだった。
飛び退かれたのもあるけど、[熟練度]が低くなったんだっけ。
いや、黒埜の所為にしてもしょうがない。
俺が黒埜の力を引き出せないだけだ。
えーと、達人は刀の声を聞くんだっけ?
インテリジェンスソードでもなきゃ俺には無理だ。
『そんなことないよ』
『いや、無理だろ』
『もう諦めるの? 反撃はこれからだよ』
『え? ああ、そうだな』
魔人が腹に刺さった氷槍を引き抜いて投げ返してきた。
が、俺に届くことなくスッと消えた。
「なんだ今のは。角氷で作った槍か?」
あーなるほど。
言い得て妙だ。
ん? でもあれ……見た目2次元なんだぞ。
よく掴めたな。
「戦闘中に余裕だな。芸術家さんよぉ」
綺麗なドット絵だからな。
それが分かるなんて、中々見る目があるじゃないか。
「見事な槍だったろ」
「けっ。痛くも痒くもねぇぜ!」
強がりじゃないみたいだ。
もう傷跡が分からないぞ。
回復力は相変わらずか。
首の痕も綺麗なもんだ。
「今度はこっちから行くぞ」
「さっさと来いやぁ!」
なら行かせてもらいましょう。
[ダッシュ]で間合いを詰めると同時に石牢で閉じ込める。
幾ら爪で引っ掻こうとも、壊れるはずもない。
俺は気にせず斬り掛かっていく。
当たる直前で消えるからな。
そして今度はきっちりと当てていく。
まだ浅いか。
肩から腰に掛けて両断したかったのにな。
それでも結構深く――
「あーてめぇ! 折角手に入れたお気に入りの服を斬りやがったな!」
「え?」
「お前にゃ分からんだろうけど、服を手に入れるのも大変なんだぞ」
「あ、それは悪かった」
「悪かったじゃねぇよ。体液も涙も無ぇヤツだ……」
体液?!
ああ、〝血も涙も〟か。
もーさ、面倒だからそこは意味で翻訳してよ。
しかし結構深く入ったと思ったけど、割と余裕そうだな。
手応えはそれなりにあったんだけどな。
『マスター、乗らなくていいよ。あいつ時間稼ぎして回復してるだけなんだから』
『知っている』
『知ってるなら畳み掛けようよ』
『んー、そうしたいんだけど……』
『エイルさん、1人にしていいの?』
『お父さんに会うだけなんだから、問題ないだろ』
『なに言ってるの! どう考えたって――』
『それ以上は言うな。分かっている』
『分かってるんなら――』
『そんなことエイルだって分かっているだろっ』
『……そうだよね』
『それより、こいつに集中だ』
『うん』
とはいっても……さて、どうしたものか。
倒して良いのか悪いのか。
どう考えてもお父さんの関係者だよな。
エイルは……圏外か。
まいったな。
次回はエイルパートです




