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第74話 讃えよ

 起きたエイルから水筒の水を貰い、喉を潤す。

 はぁー、やっと生き返ったって気がする。

 時子も同様にコップに注いでもらい、水を飲んだ。

 やっぱり喉渇くよな。

 ビスケット関係なく乾いていたとは思うが、トドメを刺したのは確実にビスケットだ。

 そのビスケットだが、やはりエイルは遠慮した。

 自分で持ってきた携帯食があるらしい。

 抜かりないなあ。


「俺たちの分は?」

「自分で用意していないの?」


 ごもっとも。


「体調はどうだ?」

「もう大丈夫よ。時子はまだ辛いの?」

「私も大丈夫です」

「ふーん」

「なんだよ」

「なんでもないわ」


 なんでもないならジロジロ見るな。

 視線が痛いぞ。


「動けるなら先に進むわよ」

「どっちへ行くつもりだ?」

「あいつが逃げた方へ行くわ」


 他に手がかりも無いし、そうする他無いか。

 タイムの案内の元、俺たちは再び進軍を始めた。


「ニジェールさん、夜は寝てしまいすみませんでした」

「いえ。あなた方は力があっても民間人……ということで合っていますか」

「訓練を受けたかという意味でしたら、正式なものは受けたことがありません」


 狩猟協会は民間人扱いでいいよね。

 訓練とかしてもらったこと無いし。


「やはりそうでしたか。あ、それが悪いという意味ではありません。民間の方をお守りするのは、軍人としての務めですから、お気になさらないでください」

「そう言ってもらえると助かります」

「それに礼を言うのはこちらの方です。電力の妖精(エレキテルフェアリー)様のお陰で魔物への対処を素早く、的確に行うことができました。人的被害も無く、こんなにも安心して夜を過ごせたのは初めてでした。ありがとう」

『なるほどね。夢遊病の妖精でも居たのかな』

『きっと親切な妖精がいたんだよ。タイムは妖精じゃないから、絶対別人だね』

『ふっ、そのようだな』


 なにやっているんだか。

 とはいえ、今も周囲の警戒と道案内をしてもらっている。

 働きづめじゃないか。


「ところでニジェールさん、1つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 ん? エイルはなにを聞こうっていうんだ?

 おっと、通訳通訳。


「ええ、構いませんよ」

「魔物たちはあの第4ブロックの天井の穴から侵入してきたんですよね」

「……いや」

「違うんですか?」

「侵入してきたのはあの新種3匹だけだ」


 魔人だけ?


「でも現にこれだけの数の魔物が居るじゃないですか。そいつらは何処か痛っ――」

『モナカくん、察しなさい』

『え?』


 察しろ? なにをだ。

 肘鉄をしてまで遮るようなことなのか。


「とにかく、第4ブロックの天井から侵入してきたのにそこには全く手を着けず、壁を壊してまで移動して第5ブロックを襲った理由に、心当たりはありませんか」

「……新種ですから、行動理由が普通の魔物と違うのでしょう」

「そうですか……」

『今のはどういう意味だ?』

『軍事機密かなにかで話せないんだと思うわ。私としては魔人が狙いそうな特別な施設とかがあると思ったんだけど。真っ先に狙われた施設だけでも教えてほしかったわ』

『そっちじゃなくて!』

『……はぁ。殺された住民や兵士が魔物化したってことよ』

『あ……』

『まったく……ところでモナカくん』

『ん?』

『いつまでそうしているつもりなの?』

『いつまで? ……あ、そうだな。このままだといざというときに動けないか。よし、降ろすぞ』

『うん』


 時子を降ろして(ようや)く離れる。

 張り付いていたかに思われたほっぺたは、多少抵抗をしてくれたものの素直に剥がれてしまった。

 そしてどちらからというまでもなく、指を絡ませて手を繋ぐ。

 後ろから鼻で笑うというか、ため息というか、とにかく無言の圧力を受けたが気にしても仕方がない。

 俺たちの戦闘準備は、これで完成だ。

 右上の表示は……充電中のままか。


『タイム、どうなんだ?』

『えっと、1時間半ってところかな』

『へぇ。最近としては随分充電できたんじゃないのか?』

『そうだね……』


 ということは戦闘時間も少し延びているはずだ。

 単純計算だと15分くらいかな。

 昨日と同じように負傷者の救護や死者の弔いをしていく。

 途中現れた魔物は俺と時子で斬り刻み、仕上げはエイルが燃やしていた。

 心なしか、黒埜(くろの)の切れ味が昨日よりよくなっている気がする。

 たった数分の戦闘でここまで手応えの差が出たのは初めてだ。

 それだけ[熟練度]が上がったということか。

 時子は終始小野小太刀(おののこだち)で応戦し、携帯(ケータイ)の出番はなかった。

 手を離すような自体にもならず、動きが止まることなく、まるで二刀流の剣士かのように……いや、それ以上に柔軟な戦い方ができた。

 エイルは昨日のように一発で倒れるようなこともなく、威力を抑えられていた。

 最初は弱すぎたり強すぎたりしたが、次第に慣れてほどよく灰にしていった。

 兵隊たちも、タイムが前もって魔物の位置を教えているため、難なく駆除していた。


「まさかこの少人数で魔物を駆逐できるとは思わなかったぞ」

「ああ。新種が居なくても普段なら少なからず被害を受けていたよな」

「辺りを警戒して精神的にも疲れたよな」

「なのに今日のこの安らかな行軍はなんだ」

「移動速度だって過去最高速だぞ。まるで町中をただ歩いているだけみたいだ」

「あり得ないのであります」

「だが現実だ」

「全ては電力の妖精(エレキテルフェアリー)様の賜物」

「讃えよ! 感謝せよ!」


〝見目麗しき 我らが盟友〟


 なんだ?!

 急に歌い出したぞ。


〝全ての憂いと 苦しみ背負い〟

〝なんたる安寧 我らにもたらす〟

〝尊き献身 痛みに耐える〟

〝ああ 麗しきその姿〟

〝ああ 高尚なその振る舞い〟

〝世界に轟け その名は……〟

〝……〟


 ん? 止まった?

 終わり……にしては中途半端な歌詞だったような。


「おい、妖精(フェアリー)様はなんというお方なのだ?」

「「「……」」」

「誰も知らんのか!」

「自分、電力の妖精(エレキテルフェアリー)様としか聞いてないのであります」

「俺もだ」

「俺も」「俺も」「俺も」………………

「お前、聞いて来いよ」

「自分がでありますか?! 自分で聞いてきたらどうでありますか!」

「俺は……そんな軟派なこと、できるわけないだろ」

「お前行けよ」

「無理無理無理。お前が行けばいいだろ!」

「そんな恐れ多いことできるかっ!」


 えーつまり、タイムの名前が分からないってことか。

 はー平和だなあ。

次回は貴方なら同情しますか?

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