第72話 全てを灰に
「ルゲンツ! 遊びに来たのじゃ……って、ルゲンツ? ルゲンツ!」
我がやっと遊びに来られるようになったというのに、これはどうしたというのじゃ。
倒れておるではないか。
「ひゃあ!」
「くっ、新手でございますの?」
こやつらがやったというのか。
「羽虫どもめ! 我のルゲンツになにを……いや待て、これは反動か!」
まさか火蜥蜴どもが戦っておるのか。
あやつら……忘れておるのではなかろうな。
我らがルゲンツと……アニカと契約せぬ訳を。
「お、おばさんは誰?」
「む? おいそこの小さき羽虫、なにがあったのじゃ」
「ひうっ!」
「娘、下がっていろ。きさま、その小娘から離れろっ」
む? この大娘はアニカと違う言のようじゃ。
なにを言っておるか分からぬぞ。
解せぬのは童が我らと同じ言を発しておる点。
アニカですらできぬというのに……一体何者なのじゃ。
「もう一度聞く。なにがあったのか速やかに答えるのじゃ」
「はぅっ……」
ふむ、我の言が理解できぬわけではあるまい。
何故大娘の後ろに隠れるのじゃ。
「わうっ!」
「おお、フブキではないか。なにがあったのか、話すのじゃ」
「わうう!」
フブキは話が早くて助かるのじゃ。
「フブキ様のお知り合いなのでございますか?」
「ふむふむ、なるほどのぉ。フブキよ、我を案内するのじゃ」
「わぅ……」
「そうか、知らぬのか。仕方ないのぉ。そこの……えー、ナームだったか。我を案内するのじゃ」
「わたくしの名前?!」
「どうした。はよぅするのじゃ。我の言は理解できるのであろう」
「何処へ案内すればよろしいのでございますか?」
「ええぃ! 鈴よ、通訳するのじゃ」
「はい、分かりました」
これじゃから異人と言を交わすのは疲れるのじゃ。
「あなた様は一体どなた様なのでございますか」
「我が名はイフリータ。ルゲンツの……アニカの旧友にて兄フレッドの契約精霊じゃ」
「精霊様でございましたか。アニカ様にお兄様がいらしたのも初耳なのでございます。それでは、フレッド様もいらしているのでございますか?」
「主様は留守番じゃ」
「留守番でございますか?!」
「そのような些末なことはよいのじゃ。早う案内するのじゃ」
「どちらへご案内差し上げればよろしいのでございましょう」
「精霊たちが向かった先じゃ」
「存じ上げないのでございます」
「知らぬじゃと!」
「申し訳ないのでございます」
「くっ、役に立たぬ羽虫どもじゃ。よい、我はゆく」
これなら初めから我で探せばよかったのじゃ。
刻を無駄にしたのじゃ。
「どちらへゆかれるのでございますか?」
「分からぬのか? アニカをこのようにした輩を分からせにゆくのじゃ」
「アニカ様は大丈夫なのでございましょうか」
「1日寝ておればなんとかなるじゃろう。くれぐれもまた精霊に戦うよう願わせるでないぞ。目を覚ましても、安静にさせておくのじゃ」
「存じたのでございます」
「フブキよ、アニカを頼んだのじゃ」
「わふっ!」
しかし困ったのぉ。
何処へ行ったのじゃ。
んー、近くに知らぬ魔力が1つ。
遠くに知っている魔力が1つ。
これは……エイルとかいう娘のものじゃな。
そして更に遠くに知らぬ魔力が2つか。
おかしいのぉ。ここの者からは魔力を感じぬのじゃ。
モナカとかいう小僧と同じ……ではなさそうじゃな。
ま、我にとっては些末なことじゃ。
ふむ、精霊力が強いのは……こっちかの。
知らぬ魔力のある方じゃな。
精霊どもはもうおらぬのか。
ほほう、なにやら変な者どもが暴れておるようじゃの。
あの程度の魔力も持たぬ連中に後れを取ったのか?
情けないのぉ。
どれ、ちょいと仕置きでもしてやるかの。
……むむ、広い範囲にバラバラとおるな。
んーいちいち1匹ずつ倒すのは面倒じゃ。
辺り一面、纏めて燃やしてしまえばいいかの。
さぁー分身たち、派手にゆくのじゃ!
んーふっふっふっ、久しぶりに見る劫火は美しいのじゃ。
っはははは。燃えておる燃えておる。
何処へ逃げようとも無駄じゃ。
しかし、些か火力が足りないのじゃ。
のたうち回る暇を与えてしまっておるではないか。
やはり主様如きの力では、我は真の力を発揮できぬのぉ。
〝おいイフリータ! 貴様なにをしてやがる〟
「ん? なんだ主様か」
〝なんだではないっ。くっ、アニカに会いに行ったのではないのかっ〟
「うるさいのぉ。我は忙しいのじゃ」
〝俺様の質問に……答えろっ〟
ふっ、大した力も無いくせに、この態度だけはアニカに見習ってもらいたいものじゃ。
「主様の命に従い、アニカ様をお守りしております」
〝なに?! アニカは……うっ、無事なんだろうな〟
「無事でいてほしくば、もっと力を寄越すのじゃ」
〝きっさまぁ! 好きなだけ持っていけ! その代わり、アニカになにかあってみろ。貴様の存在を無き者にしてくれるわ〟
「承知致しました」
出来もしないことをよく吠えるのじゃ。
ま、吸い尽くして死なれでもしたら、アニカに嫌われてしまう。
ギリギリで我慢してやろうかの。
そぉれ、灰すら残さず焼き尽くしてやるのじゃ!
次回はご飯です




