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第70話 撤退するぞ

 クソッ、なんなんだこいつら。

 地下から魔物が湧いて出てくるなんて、今まで無かったぞ。

 しかもかなり不細工だが人の形をしてやがる。

 やり(にき)ぃな。

 間違(まちげ)ぇて村人を斬ったりしねぇくれぇには不細工だからいいけどよ。

 今まで人の形をしたヤツなんて居なかったんだが……

 その所為か、こいつらも戦いにくそうだ。

 あのときもその所為で遅れを取っちまったし。


「うわっ」

「怯むな! 奴らは村人じゃねぇ。てめぇらの親戚にあんな不細工なのが居るってんなら(はなしゃ)あ別だ。気ぃつけろよ」

「いや、居ませんよ。まだ嫁の方が見れる顔してます」

「ほぅ。嫁の方がねぇ……」

「……」


 ったくよぉ。

 自分の顔はどうなんだ。


「おい、後処理忘れんな」

「はいっ」


 本当(ふんっと)に魔物は厄介だ。

 幾ら刻もうが死にゃしねぇ。

 あいつらの戦い方にケチを付けたが、俺らもやってるこた変わんねぇ。

 結局最後は燃やすんだからよ。


「増援はまだか!」

「はっ! それが、また外から魔物が」

「来たってのか」

「はっ」


 チッ、タイミング悪ぃな。

 火炎組の疲労がやべぇぞ。

 後処理が間に合ってねぇ!


「お前、火炎組を手伝ってやれ!」

「はっ、しかしそれでは」

「うっせー! 幾ら倒してもトドメ刺さなきゃ無意味なんだよ。てめぇの分は俺がやるっ!」

「はっ!」


 とはいえ、これじゃ奴らの攻撃を防ぎきれねぇぞ。

 あいつがいれば……って、なに考えてんだ俺ゃ。


「副隊長! 新手が……」

「くっ。わぁってる!」


 まだ来るのか。

 やべぇな。みんな疲労も溜まってて動きが悪い。

 ギリギリだな。

 撤退すべきだ。

 ……何処へ?


「ぐぁぁぁっ!」

「座間! うぉぉぉっ!」


 四の五の言ってる場合じゃねぇ。


「撤退するぞ!」

「はっ!」

「しっかりしろ。掴まれ」

「へへっ。俺を、置いてって、ください」

「なに言ってやがる」

「……奴らが俺を、食ってる、間に、逃げて、ください」

「バカ言ってんじゃ――」

「うわぁぁぁっ!」

「大丈夫か!」

「副隊長……囲まれました」

「なにっ」

「……副隊長。犠牲は、少ない方が、いい」

「くっ、すまない」


 クソックソックソッ!

 俺にもっと力があればっ……


「一点突破するぞ。後処理は考えるな。行くぞ!」

「「「はっ」」」


 一体何匹居やがるんだ。

 いつの間にこんなに出てきていたんだ。

 見渡す限り、魔物だらけじゃねぇか。

 あいつらの言う地下にはこんなにも魔物が居たってのか。

 立入禁止になるわけだ。

 こんなのが足下に居たとか、ぞっとしねぇな。


「はぁぁぁっ!」


 くっ、なんだ。

 急に動きが……


「ぐはっ」

「小田原! あと少しだ、踏ん張れ!」

「ぐぅ……うわあああああっ!」


 あと少し……か。

 ただの気休めだ。

 この状況を見て、あと少しのはずがない。

 果てが見えない。

 ここままじゃ……

 いや、弱音を吐くな!


「副隊長!」

「くっ」


 完全に囲まれてしまった。

 逃げ場が無い。

 一斉に襲い掛かられたら全滅は確実だ。

 どうすれば……隊長……俺は……俺は……


「クソがぁぉぁぁっ!」


 正直、もうダメだと思った。

 心残りなのは、(はじめ)の子を産んでやれなくなることくらいか。

 みんな、すまねぇ。

 俺に力が足りないばかりに……


「まだ諦めないでっ」


 声が聞こえたと思ったら、正面の魔物どもが火柱に包まれやがった。


「なっ。誰だ!」


 姿は見えない。

 だが、なにかが居やがる。

 足下に風が吹いたかと思うと、泥まみれのデカい獣が現れやがった。


「ブモーっ」

「ぅわあ!」

「くっ、新手か!」

「怖がらないで。その子は泥猪(マッドボア)(あるじ)の命であなた方を助けにきてやったわ」


 今度は身体に纏わり付くように風が吹いた。

 (あるじ)? 助け?

 おやっさんが言ってたお客人の使いってヤツか。

 隊の報告とはちぃと(ちげ)ぇぞ。


「あたしが道を開くわ。その子に乗って」

「こいつに乗れだと?!」

「エンリョ、スルナ」

「安心なさい。敵意が無い子は飲み込まれやしないわ」


 飲み込む?!

 声はすれど、姿が見えやしねぇ。

 なのに魔物が斬り刻まれたり燃え上がったりしてやがる。

 なんなんだ一体。


「さっさとしなさい。死にたいの!」


 くっ、今は従うしかないのか。


「てめぇら、乗るぞ!」

「ひぃ」

「ビビるな!」


 でもこれで助かる。

 こいつらもあの小っこいのと同じモナカの(しもべ)なのか。

 こんなんまでいちゃ勝ち目はねぇな。

 おやっさんが機嫌を損ねるなって口うるさく言ってたのも、今なら分かるぜ。


「シッカリ、ツカマレ。ウゴク。オチルナ」

「うおっ」

「ひゃあ!」

「きゃあ!」

「あがっ」


 おおっ、乗り心地がお世辞にもいいとは言えねぇが、贅沢も言えねぇ。

 それに魔物をものともせず吹き飛ばして突進する様は清々しいねぇ。

 これならっ!


「あーなんだ。その……(あるじ)に礼を言っておいてくれ」

「……」


 無視かよ。

 自分で言えってか。


「悪いけど、あんたがなにを言ってるか分からないわ」

「な、どういうことだ」

「だから、分からないって言ってるでしょ!」


 なんだよ。

 イヤホン(翻訳機)壊れたのか?

 こいつがあれば会話できるんじゃねえのかよ。


「あたしたち精霊は心に直接話しかけるの。そこに言語の壁なんてないわ」

「どういう意味だ! 分かるように言え」

「だーかーらー分かんないって、もー。あなたも心に直接話しかけなさいよ!」


 心に直接?

 意味が分かんねぇぞ。

 分かんねぇから(はじめ)に……は居ないんだった。

 チッ、まあいい。

 とにかく、これで助かるぞ。

次回は援軍です

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