第69話 ターナー家の跡取り娘
まさかここに来てるとはなー想像もしたことなかったぜ。
でもこれで無駄にならない……のかも。
あ、居た居た。
ったく。俺たちが人間と戦っている間もずっと捜し物か。
いいが身分だぜ。
「おーい! 面白いものが見つかったぜ」
「お前の面白いものは面白かった例がないぞ」
そういうお前が見つけるものも、面白くないものばかりだぞ。
「そう言うなって。今度こそマジで面白いんだって」
「……なにを見つけたんだ?」
「おいおい、手を止めてもう少し興味を持ってくれ」
「そんな暇はない。この辺にあるはずだ」
飽きもせずまだ探してるんだから、呆れるよ。
「お前も飽きねぇな。そもそもどうやって渡すんだ? 俺たちゃもう帰る場所が無ぇんだぞ」
魔人になっちまった以上、もう人には戻れない。
故郷には帰れない。
「俺はまだ諦めちゃいない」
「ああ、そうだった。よく我慢できるな。俺にゃ無理だったけど」
「ふっ、端から我慢せず食ってただろ」
戻れば殺したくなる。
そして食いたくなる。
俺は食欲に勝てず、食らった。
「お前も食ってみろよ。マジで美味いんだって」
我慢するのが馬鹿馬鹿しく思うほどだった。
でもこいつは食わなかった。
食欲に打ち勝ってきた。
さて、今回は勝てるかな……
見物だぜ。
「それがお前の言う面白いことか?」
「違う違う。もっと面白いことだ」
「ほう」
「だから興味を持ってくれよ」
「十分興味を持っているが?」
だったら手を止めてこっちを見てくれ。
って言っても無駄か。
「ん? あいつは?」
「一緒じゃなかったのか?」
「またかよ」
つっても、居たら居たで厄介だからなー。
絶対こいつと戦争になる。
それを見るのも面白いんだが……
「ま、いいや。実はな……人間が居たんだ」
「そういう場所だからな」
「ターナー家の娘っ子が居たって言ったら?」
おっ、やっと手を止めてこっちを見たぞ。
ふふん、どうだ。
って、また探し物を始めやがった。
「おいっ! ターナー家の跡取りが居たって言ってるんだぞ!」
「面白くない冗談だ」
「冗談じゃないんだって!」
「質の悪い冗談だ」
「ホントなんだって!」
「あいつが結界の外に出られると思ってるのか? 試験に受からねぇよ」
「分かんねぇぞ。あれから何年経ってると思ってるんだ」
「数えるだけ無駄だ」
「そうだけどさ」
「お前は覚えてるのか?」
「野暮なこと聞くなよ」
いつ1年経ったかすら覚えてねぇよ。
「ターナー家がどれだけあると思ってるんだ。跡取り娘も少なくない」
「エイルちゃんが居たって言ってるん――」
「いい加減なことを言うな」
「この目で、見たん、だって……」
「殺すぞ」
「胸ぐらを、掴むな。マジで、苦しいから……死ぬって。く、首が……しまっ」
「死んだら食ってやるよ」
「止め、ろ。洒落に、ならんっ」
「……ふんっ」
「げほっ、げほっ、ふー」
ったく。
相変わらずこの話題になると手加減がないな。
「折角生き残ったんだから仲良くしようぜ」
「生き残った? 死んだも同然だろ」
チッ、また探し物を始めやがった。
なにを探してるんだか。
「ならなんでまだ生きてるんだ? あいつみたいに魔人化する前に死ねばよかっただろ」
「……死ぬわけにはいかない」
「なら会って来いよ」
「見つけた」
「お、なにを見つけたんだ?」
……少なくとも面白いものではないな。
どうせ工房で使う素材かなにかなんだろう。
渡す手段が無い癖に、どうするつもりなんだ。
「まだやることがある」
こいつ、無視しやがった。
こういうところも相変わらずだ。
ま、興味ないからいいけど。
「何処に行くんだよ」
「例の場所だ」
「あそこか……」
そこが目的でココに連れてこられたんだっけ。
こいつ、なんでこんなこと知ってたんだ。
俺にとっちゃちっとも面白い――
「気をつけろよ。見られている」
「は?! ど、何処から」
「キョロキョロするな。警戒される前に巻く。こっちに来い」
「お、おう」
ホントに見られてるのか?
担がれてるんじゃないのか。
……そんなことするヤツじゃない。
ホントに居るんだろう。
でなきゃこんな遠回りして移動する意味が無い。
やっとの思いで地下室に戻ってきた。
俺にとっちゃちっとも面白い場所じゃねぇが、他に目的も無ぇし、暇潰しにゃちょうどいい。
「これを見ろ」
「お前まだ身分証使えんのかよ」
「いいから見ろ!」
物持ちがいいとかいうレベルじゃねぇ。
俺のなんかとっくの昔に毒素でボロボロになったから捨てたぞ。
えーと……ん?
鳥……じゃねぇな。
「なんだこれは」
「勇者小説に出てくる魔物で、トンボというらしい」
「魔物?!」
「落ち着け。恐らくあれは鉄人形だ。こいつに見られていたんだ」
「鉄人形?!」
「ああ。だから魔力が無い」
「思い出した。確か理論的に不可能だって言われてたヤツだ。それをエイルちゃんが作ったってことか」
「まだそうと決まったわけじゃない」
「なんでだよ。だから試験に合格してここにこれたってことだろ」
「だとしても、ここに辿り着くまでどれだけ掛かると思ってるんだ」
「ただの人間がここまで来れるとは思えねぇな」
「だからお前は幻覚を見たんだ」
「幻覚じゃねぇ! だったら説明が付くこともある」
「説明?」
「ああ。俺はさっきその鉄人形と戦ってきたんだ」
ヤツも魔力が全く無かったからな。
いきなり出てきたときは驚いたぜ。
「……寝言は寝て言え」
「なんでだよっ! 先に寝言を言ったのはお前だろ」
「寝言でないなら、欠片くらい持って帰ってきたんだろうな」
「あーその……エイルちゃんを見かけたから撤退してきた」
「逃げてきたのか」
「逃げたわけじゃねぇ! あのまま戦ってたらぶっ壊してたぜ。確実にな。ただ、エイルちゃんを巻き込まないようにだな……その」
「お前が殺さず我慢できたっていうのか? それこそ寝言は寝て言え」
「ホントなんだって! 信じてくれよぉ」
俺はあいつとは違う。
そこまで好戦的じゃねぇぞ。
「はぁー。ならここに連れてこいよ」
「連れてくる?!」
「そうしたら信じてやるよ」
「ホントか、ホントだな」
「ああ。だから邪魔をするな」
「分かった。連れてくるから! 目ん玉かっぽじってよく見ろよ!」
「かっぽじったら見えないだろ。はぁ……」
だったら連れてきてやろうじゃないか。
ここに。
エイルちゃんを。
鉄人形の欠片を。
そしたらお前を食らってもいいよな。
次回は置いてきた人たちの話です




