第68話 充電、しよう
戻ってみると、まだ戦闘が続いているようだった。
2人を一さんに任せ、光剣の人のところへと急いだ。
「加勢します」
「おお、モナカ様……だったかな」
モナカ〝様〟?
「今こちらも片付くところです」
「そうですか。すみません。新種を逃がしてしまいました」
「そうか……いや、それでも十分だ。ありがとう」
「いえ、お役に立てず、申し訳ない」
「そんなことはない。お陰で魔物を掃討することができた」
そっか。少しは役に立てたのか。
よかった。
でもやっぱり逃げられたのは痛いな。
「被害状況はどうなっている」
「はっ。負傷者2名、戦闘不能6名、2名が休暇を取りました」
休暇? こんな時に? しかもそんな報告まで?
「そうか。そうか……しっかり休むように伝えてくれ」
「はっ」
しっかり休め……か。
そうだよな。
休まなきゃ動けない。
俺たちも同じだ。
『タイム、魔人が何処に逃げたか分かるか?』
『ごめんなさい。見失っちゃった』
『気にするな。大体の方向は分かっているんだし。体勢を整えたら追いかけよう。他の魔人の居場所も分からないのか?』
『今日はもう無理だよ。明日にしよう』
『そうしたいけど、魔人次第だ』
『もうバッテリーが持たないよっ!』
『それでもやらなきゃいけないん……時子?』
フラフラとした足取りで、こっちに向かってくる。
『休んでいろ』
『だから来たの』
『だから?』
俺の前まで来ると、倒れ込むように抱き付いてきた。
『だから休んでいろと』
『今休んでいるわ』
『あのなあ』
こういうのは休むっていうのか?
「おいお前たち、イチャつくなら――」
「好きにさせておけ」
「はっ……しかし」
「彼らは軍人ではない。ましてや他国の人間だ。見て見ぬ振りをしておけ」
「……はっ」
風紀を乱してごめんなさい。
『ほら時子。迷惑だから戻ろう』
『……』
動けないくらい疲れているなら無理するなよ。
もー仕方ないなあ。
そのまま抱きかかえるように時子を持ち上げる。
んー、足を引きずってしまうな。
足も抱えて、お姫様抱っこみたいにしてっと……よし。
これで移動ができるぞ。
『モナカ』
耳元で時子が俺を呼ぶ。
『ん?』
『充電、しよう』
『あ? ああ、そうだな』
このままでもただ手を繋ぐより効率がいいんだっけ?
十分だよ。
でもそれよりも高効率で充電できる方法がある。
時子は、ほっぺたとほっぺたをピタリとくっつけてきた。
なるほど。〝充電しよう〟……か。
その台詞が無ければ死ぬほど嬉しかったかも知れない。
素直に喜べないのに、喜んでいる自分が居る。
自然とほおが緩んでしまう。
幾ら抗っても屈してしまう。
好きな子にこんなことをされて嬉しくないはずがない。
どんな理由であっても、だ。
だからわけを知らない軍人さんが睨んできても、責めることはできない。
ごめんなさい。今あなたの視界から消えますので許してください。
「羨ましいくらい、仲が良いんですね」
一さんの元に戻ってきたら、開口一番そう言われてしまった。
止めてください。騙しているようで凄く心苦しいです。
もう笑って誤魔化すくらいしかできません。
『なあタイム、実際どうなんだ?』
『悪くないけど、よくもないよ』
答えになっていないぞ。
残り稼働可能時間はっと……あ、消えているじゃねぇか。
なんで消すんだよ。
えっと、エイルは……寝ているのか。
息苦しそうなのは変わらないな。
近くにあった椅子に座ったけど、時子は動こうとしない。
……あれ、時子も寝ていないか?
無理もない。
地下に潜る前、既に日は傾いていた。
今はもう日も沈んで大分経っただろう。
視界の左上に表示されているデジタル時計で確認すると、夜の9時を回っていた。
普段ならまだ起きている時間だ。
俺も少し寝ようかな。
「一さん、なにかあったら起こしてください」
「分かりました」
『タイムも休めよ』
『うん』
次回は跡取りの話です




