第64話 接近
「タイム、次は?」
「んー、今ので魔人が警戒したみたい。指示を出して向かってきてるよ」
あー、これか。
確かになにやら指図しているな。
「ウソだろ」
「新種にも気付かれないとか……」
「あり得ないあり得ないあり得ない」
「そんな馬鹿なっ!」
「こんなにもはっきりとした映像、初めて見たぞ」
あー、なんか別の意味で精神攻撃を受けてしまったようだ。
『目視だけは気をつけろよ』
『当然っ』
こいつら、魔力探知に頼ってばかりで目視を怠っているんだろうな。
そういう相手ほど、俺たちは見えない。
だから隠密行動には彼らがジャマなんだよね。
辛い。
だったら逆に利用してやるか。
「俺たち、離れて行動します」
「なに?」
「挟み撃ちにしましょう。魔人は……いえ、新種は俺たちが相手をします。なので周りの雑魚の気を引いてください。倒す必要はありませんので」
「雑魚だと?!」
「よせ! さっきのを見ただろう。雑魚と言われても仕方がない」
ごめんなさい、雑魚なんかじゃありません。
でもそう言わないと単独行動できないから、勘弁してください。
『道案内――』
『表示済み』
『さすが!』
ARに表示された矢印に沿っていけば、見つかることなく最高の襲撃ポイントに最速で着ける。
仕事が早くて助かる。
ということで、移動開始!
「あ、バカッ」
「無造作に走るな!」
「おいっ」
「静かにするのよ! はぁ、はぁ、大丈夫なのよ」
「……え?」
「あ、えーと?」
「何処の言葉だ……」
『エイル、古代語……勇者語はどうした』
『今の私には発音が難しくて無理よ』
『つまりそれ程まで疲れていると』
『言うようになったわね』
『いいから休んでいろ』
無造作にとか言うけど、一応足下にだけは注意しているぞ。
転んだり大きな音を立てたら台無しだからな。
「くそっ」
「あの2人はハズレなのであります」
「だろうな。さっきの地をえぐる一撃には驚かされたが、それだけだ」
「ああ。あの動き、訓練されたものではない。ただ力任せなだけの素人ではないか」
「よし、あいつらをオトリにして、我々だけでなんとかしよう」
「待て! よく見ろ」
「〝よく見ろ〟でありますか?」
「確かに動きは素人にしか見えないのは事実だ。だがお前たちにはあれが真似できるのか?」
「あのような愚行、真似するようなものとは思えません」
「だから〝よく見ろ〟と言っている」
「はぁ……」
よし、襲撃ポイントに着いたぞ。
後はタイミングを計るのみだ。
「あのスピードで新種に発見されず、あそこまで近づけるのかと聞いているのだ」
「あっ」
「じ……自分らには、不可能なのであります」
「見た目に騙されるな。本質を見極めろ」
「「「はっ!」」」
魔物の統率力は高いな。
単独行動している魔物が1匹もいない。
さっきのヤツはなんだったんだって思うくらいだ。
そして当然魔人も例に漏れず、魔物を2匹従えて動いていやがる。
つまり最低でも3匹相手にしなきゃならないのか。
こっちも3人だけど。
魔物は全部で5部隊いて、それぞれ2~3匹で構成されている。
後は……近くには居なさそうだ。
魔人は俺たちが相手をするから、残り4部隊をなんとかしてもらいたい。
とはいえ、完全武装5人と戦えるかどうかも分からない負傷兵が数人。
戦えない人は本部に回収を頼んでいたみたいだから、今居る人は多分戦えるのだろう。
数だけならほぼ互角。
持ちこたえられるのか?
光剣の人次第かも知れない。
そういう俺たちも複数同時に相手するのは初めてだ。
しかもいきなり魔人戦。
気を引き締めないと。
オオネズミ? あんなの数に入らないぜ。
そんなわけで、奇襲で1匹は落としたいところだ。
魔物たちが俺たちの前や後ろを素通りしていく。
前はともかく、後ろ数メートルの距離は怖いな。
足音がはっきり聞こえてくる距離だぞ。
さすがに不用意に動いたらバレるよな。
息を殺してそのときを待つ。
魔人の位置はARでモロ見えだ。
顔を出して覗き込む必要は無い。
『来るぞ』
『いつでも』
『よし、まずは右の魔物をやるぞ』
『うん。お姉ちゃん』
『一応できるようにはしたけど……切り替え方は分かってる?』
『手放せばいいんでしょ』
『なんの話だ?』
『『ひ・み・つ』』
秘密ね。
っと、もうそんな暇無いぞ。
『3・2・1・0!』
次回は雑魚戦です




