第61話 魔物の正体
『タイム、ドローンの映像をみんなにも見せてやれ』
『え、いいの?』
『第5ブロックの様子でも見せてやれば、文句は言うまい。バカにされっぱなしじゃつまらないからな』
『ふふっ、そうだね』
ということで、半ば嫌がらせの如く、全員の目の前にドローンの映像を表示してやった。
「うわっ、なんだ!」
「お前か?」
「いや、俺じゃない」
「静かに。大人しくしてください」
「くっ……お前の仕業か」
ふふっ、驚きと悔しさが混ざったような顔をしていやがる。
恐れ入ったか。
これがお前らが無視したタイムの力だ。
刮目してとくと見やがれ!
「第5ブロックの現在の様子です。あ、もしかしてここが対策本部ですか?」
「……そうだ」
「どうやってこんなことを……」
「タイムの……妖精さんの手に掛かれば、この程度は簡単なんですよ」
「……他の場所も映せるのか?」
「お望みとあらば」
「なら、前線を映してくれ」
「場所はどの辺りですか?」
お、なんか地図っぽい画像に切り替わったぞ。
「これは、第5ブロックの地図か?」
「まだ完成してないけど、分かる範囲でこんな感じです」
『いつの間に地図なんか作ったんだ?』
『ほら、ドローンを一斉に飛ばしたときだよ』
あのときか。
凄いな。これ、細かい瓦礫の様子とか、魔物の発見位置まで記録してあるぞ。
勿論、被害者の位置も……
「この地図、頂けないだろうか」
よし! タイムの力が認められたぞ。
感謝して見るがいい。
「んー、じゃあ対策本部に着く前に完成させちゃいましょう」
「完成?」
「行くよー!」
残りのドローンが一斉に飛び立っていった。
「うわっ」
「な、なんだ今のは」
「トンボだよ」
「トンボ?」
「聞いたことがあるぞ。地上ではまだ絶滅していなかったのか」
「生物まで使役するというのか」
いえ、ただの髪飾りです。
……〝ただの〟ではないか。
『マスター、時子、しっかり繋がっててね』
『ああ』
『分かってるよっ』
『ふんっ』
うーん、なんかこういうときの時子に対するタイムの当たりが強くなった気がする。
時子も反発している感じがする。
前だったら〝分かってるよっ〟なんて言い方しないはず。
タイムも鼻でバカにするようなことは無かった。
仲が悪くなったわけじゃないとは思うんだけど……
俺が口を挟むようなことじゃないのかな。
『マスターはいつもどおりにしてればいいからね』
『あ、ああ』
見透かされている気がする。
まあいい。
それより今は第5ブロックの地図だ。
埋まっていなかったところがみるみるうちに埋まっていく。
『タイムは地図も書けるのか』
『え? 違うよ。[迷宮地図]っていうアプリの自動地図記録機能をドローンにリンクさせてるだけだよ』
『そんなアプリ……いつの間に』
『あ! ほら、ここ最前線じゃないかな』
あ、本当だ。
なんか誤魔化された気もするが……買ったのなら買ったって言ってほしい。
買うなとか言わないからさ。
ただどんなアプリがあるのかは把握しておきたい。
それだけだ。
とにかく、これが最前線の映像か。
「劣勢……ですね」
「見れば分かる!」
「すみません」
上で戦ったヤツより強い?
いや、統率がとれているからそう感じるのか?
あれか? リーダー格の魔物って。
より人形だな。
というか、完全に人の形をしていないか?
「魔人だわ」
「え?」
「あれは魔物じゃない。人が毒素に冒されて行き着いた成れの果てよ。魔獣と同じ」
「ということは、人だった頃の知識があるってことか?」
「多分」
それって物凄く厄介なのでは?
「どういうことだ。あれは魔物ではないのか」
「違うわ。あなたたちは毒素に冒されるとどうなるの?」
「毒素……とはなんだ?」
あれ、共通認識事項じゃなかったのか。
翻訳がうまく出来ていないだけ?
「そうね……地上の汚れた空気とでも言えばいいのかしら」
「そんなものに犯されれば直ぐに死んでしまう」
「その為の防護服でもあるんだぞ」
「なら、地上の人たちはなんなの? 私たちの仲間の話だと、彼らは毒素そのものだと言っていたわ。元々は同じ人類だったのよね」
「つまりあの魔人とやらは地上民なのか?」
「クソッ、あいつらなんてことをしやがる!」
「勘違いしないで。魔人は上の人と関係ないわ」
「ならなんだというのだ」
「恐らく、私たちの同胞が毒素に冒された成れの果てね」
「お前たちの……」
「俺たちを滅ぼすつもりかっ」
「私たちにその意思は無いわ。私たちにとっても魔人は倒すべき相手よ」
「同胞ではないのか?」
「救う手立てを知らないの。1度魔人になってしまったら、もう人には戻れない。殺すしかないのよ」
「そうか……」
「同胞と言っても、見ず知らずの何処かの誰かよ。特に私の用心棒は顔が狭いから、剣先が鈍るなんてことはないわ」
つまり容赦せず斬り刻めってことね。
確かにこっちに来てからの顔見知りなんて数えるほどだし、その人たちが結界の外に出たなんて話は聞いたことがない。
そういう意味では俺も時子も心配するようなことはない。
それでも元人間……なんだよな。
考えてしまったら誰も守れないのは分かってはいるんだけど、そういう意味では剣先が鈍ってしまう。
実際に戦ってしまえばそんなことを考える余裕なんて無くなるけど。
次回は惨状です




