第60話 不正しかなかった
扉から外に出るとドローンで見た町並みが広がっていた。
どうやら扉はあの天井まで続いている壁に設置されていたらしい。
エレベーターはこの壁の中を通っていたのか。
その壁沿いに移動を開始した。
周りに人はあまり居ないな。
やはり服装は俺たちとあまり違いがない。
そのお陰で目立たなくて済んでいる。
むしろ黒ずくめの4人の方が目立っているくらいだ。
でもこの人副総裁なんだろ。
徒歩で移動するの?!
安全面は大丈夫なのかな。
光剣をしまって手ぶらで歩いているし。
……俺も武器をしまうか。
エイルもホルスターに収めている。
1人張り切ってもしょうがない。
確かに拳銃を構えて歩いていたら何事かって思われるけどさ。
今は魔物が出て危険なときなんでしょ。
外出禁止令とか出てないの?
町に緊張感がなさ過ぎだ。
平和そのもの? って感じ。
時々こっちを見て遠巻きに騒ぐ人たちがいるけど、それが完全に有名人を見つけたファンと同じなんだよね。
俺たちは眼中に無いみたいだし。
そんな反応にも慣れて来始めた頃、大型車でも余裕で通れるくらいのゲートに到着した。
「これからゲートを通るが、余計なことは口走るな」
ようは黙ってついてこいってことね。
ゲートには警備員が立っている。
武装はしていないかな。
「お疲れ様です!」
「ご苦労。通してもらえるか」
「はっ。パスを確認させて頂けますか?」
「構わないよ」
「では、こちらにお願い致します」
パス?
身分証のことだよな。
……さすがにスマホは使えないか。
警備員に誘導され、設置されている端末にパスをかざしている。
その正面にはカメラが設置されているのか、モニターに映像も映し出されている。
なんか体温がどうの顔色がどうの脈拍だなんだと細かく出ているみたいだ。
そして壁に付いている人用の小さなゲートをくぐっていった。
出入りの検査が厳しいな。
さて、俺らの番なのだが……通れるのか?
「ん? どうした。早くパスをかざさんか」
「ああ、彼らはいいんだ。通してやってくれ」
「はっ……しかし……我々の権限ではなんとも……」
「そうか。面倒なシステムを作ったものだ」
作ったのはあなたたちなのでは?
「私がやろう」
お、放電師の人がなにかやるみたいだな。
また手のひらの上になにかを映し出している。
エイルみたいにハッキングでもしているのか?
「……なに?」
「だからなにも言っていないだろ」
「だったら見つめてこないでよ、バカ。ふんっ」
バカって……
そんな機嫌を損ねるようなことか?
チラッと見ただけだろうが。
目が合ってちょっとビックリしたけど。
「いいだろう。通ってくれ」
「はい」
恐る恐る通ってみたが、特に反応はしなかったみたいだ。
全員が通り抜けると、またなにやら弄り始めた。
「これでよし。迷惑を掛けたな。通常勤務に戻ってくれ。彼らのことは口外無用だ。上への報告もしなくていい」
「了解……」
了解と言ってはいるが、かなりいぶかしげな顔をしている。
すみません。おじゃまします。
ゲートを通って壁の中に入る。
それなりに厚みがあり、通路を10メートルほど進むとさっきと同じようなゲートがあった。
ゲートをくぐると、やはり先ほどと同じように警備員がいた。
また同じやり取りをするのか。
面倒だけど、やるのは放電師の人だ。
俺たちはただ待つだけ。
そしてただ通過するだけ。
そして不審がられるだけ。
『タイム、場所分かるか?』
『えっと、居住区の下辺りかな。例の立入禁止区域もこの上だよ。ほら』
もうドローン飛ばしてたのか。
確かに天井? に穴が開いたままだ。
よく見るとさっきのちょっと広い空間の床が無くなったような感じにも見える。
でも上にあんな大きな穴が開いているにも関わらず、あまり騒ぎになっていないような……
どういうことだ。
「車を用意した。すまないが、後ろの荷台に乗ってくれ」
荷台?
なんか軍用トラックみたいなごっついのが停まっているぞ。
荷台というだけあって、人が乗るようには作られていないらしい。
階段も無しに乗り込めと?
ふふっ、こっちに来てからそれなりに鍛えられたからな。
胸くらいの高さがあるけど、手を掛けて割と簡単にヒョイッと乗ることができた。
が、時子とエイルは無理だろう。
まずは時子に手を貸し、引き上げてやる。
そして同様にエイルも。
本当は格好よく2人を抱えて飛び乗りたいところだが……無理してもいいことはない。
俺たち3人だけかと思ったが、放電師と電磁加速砲の2人も俺以上に軽々と、手も使わずに飛び乗ってきた。
これが本職と一般人の差か……
青白くてモヤシみたいな見た目なのに。
光剣の人が運転手で、助手席に副総裁が乗り込んだ。
「全員乗ったな。動くから気をつけろ」
すると、エンジンも掛けずに動き始めた。
もしかして電気自動車?!
エンジン音もせず、モーター音も聞こえてこない。
タイヤが路面を噛む音だけ。
とにかく静かだ。
もしかして町が静かなのって、こういう理由?
町中を進むと、やはりそれなりに人が歩いている。
車も多くはないが走っている。
エイルの町より交通量が多いかも。
そして走っている車はみんな静かだ。
全部電気自動車?
「キョロキョロするな」
「すみません」
「ったく。観光に連れてきたわけじゃないんだぞ」
ボソッと言わないでください。
そうですよね。
目的は魔物退治。観光じゃない。
……ん?
違う違う。
魔物退治はあくまでオマケ。
目的はエイルのお父さんを見つけることだ!
そう、その為に周りを見ていたんだ。
エイルは一点を見つめて動かない。
その先に居るのか?
「このまま第5ブロックに入る。そこに魔物対策本部が設営されている。それまで大人しくしているんだ」
第5ブロック……確か壊滅したところだったな。
そこに対策本部があるのか。
ドローンの映像でも見ているか。
次回、トンボは絶滅していませんでした(違います




