第59話 戦力確認
俺はエイルの護衛だしな。
先陣を切って行きますか。
「我々が先に行こう」
「うわっ!」
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません」
ビックリしたー。
目の前に青白い人が現れたら驚くに決まっているだろうが。
病人より青白いのに元気そうだ。
ドローンで見た人たちと一緒か。
病気で青白いわけではないというのが確定したな。
やはり太陽光を浴びていないからだろう。
「脱いだんですか?」
「ああ。もう防護服は必要無いからな」
やっぱり防護服だったのか。
となると、毒素から身を守るため?
或いはきつい日差しから?
というか、みんなオジさんばっかりだ。
でも俺よりキッチリ鍛えられた身体をしている。
そして黒のスーツをビシッと着こなしていて格好いい。
……暑くないのかな。
そんな中、1人は完全におじいさんだ。
この人が副総裁?
他の人と比べると、あまり鍛えられている感じがしない。
服装は立派だけど、ちょっと小太りかな。
「副総裁は下がっていてください」
「すまんな」
あ、やっぱりそうなのか。
てことは、残りの3人は身辺警護ってヤツかな。
なんかリレーのバトンみたいなものを取り出したぞ。
なんだあれ。
おお! 光剣だ!
凄いな。
よし、俺も黒埜を構えておくか。
「ん? なんだそれは」
「刀ですけど」
「ただの刃物で魔物と戦うつもりか?」
またこのパターンか。
レプリカでも持っていた方がいちいち突っ込まれなくていいかも知れない。
「いけませんか」
「これを使え」
そう言って予備……かな。光剣を1本渡された。
……ま、いいけど。
えーと、スイッチは何処だ?
「どうした」
「スイッチは何処でしょう?」
「スイッチ? そんなものはない」
「電力を流せばいいんだ」
「電力を流す??」
あれか。魔力を込めるの電力版か?
そうだな。魔力は無いけど、電力? ならあるぞ。
人間は微弱な電気で動いているんだからな。
ミトコンドリアさん、出番ですよ。
あ、でも映画みたいに主導権を取らないでくださいね。
それじゃ、やっちゃってくださいっ!
「……どうやって流すんですか?」
「そんなことも知らないのか?」
「お前、電力持ちじゃないのか。電力の妖精と契約してるんだろ」
その呼び方は提示してなかったぞ。
「ふむ……確かに電力持ちのようだな」
「分かるんですか!」
「ああ」
やった!
これで電力の流し方が分かれば使えるように――
「だがお前の発電機関は未発達なようだ。使い物にならん」
――ならないみたい。
ダメじゃん。
え、でもバッテリー搭載ですよ。
……アッという間に空になって死んじゃうかな。
「大丈夫です。俺には黒埜がありますから」
「……ふぅー。みんな、覚悟はいいな」
「上に行くと決まったときに、遺書は書いてあります」
「そうだったな」
「我が身に変えても、副総裁はお守りします」
もしかして失礼なこと言っていないか?
でも光剣を持っているのは1人だけだぞ。
「お2人は武器を持っていないんですか?」
「ああ。俺は放電師だからな」
「放電師?」
「んー、魔術師? みたいなものだ」
「そうですか」
あれか。魔力じゃなくて電力で、魔法じゃなくて電法を使うってことか?
……電法ってなんだ。
「俺は電磁加速砲が武器なんだ」
「電磁加速砲?! あんな巨大な装置を使うんですか?」
「巨大な装置? っはっはっはー。それはいつの時代の話だ」
いつのって……
持ち運べるような電磁加速砲なんて開発されたのか。
異世界だから当然なのか。
光剣があるくらいだ。あっても不思議じゃない。
「で、お兄さんがただの剣として」
ただの剣じゃないぞ!
失礼だな。
「お嬢さん方はなにかあるのかい?」
「私はこの単発式詠唱銃よ」
「ほう」
「マジックアイテムかなにかか?」
「オモチャみたいだな」
「私は携帯です」
「なんだそれは」
「携帯型電話機か?」
「そんなんで戦えるのかよ」
「任せてください」
「ふむ……みんな、腹をくくれよ」
「所詮は地上民の言うことだ。当てにはならん」
「3人で力を合わせて切り抜けましょう」
「ああ。なんとしても副総裁をお守りするんだ」
やっぱり失礼なこと言っているよね? ね!
そもそもタイムがまだなにも言っていないんだけど。
これは怒ってもいいよね? ね!
……まあいい。
タイムはなんか知らんけど、肩に座りながら鼻歌歌い始めてご機嫌だし。
お前ついさっきまでムッとしてなかったか?
わけ分からん。
「よし、開けるぞ」
「ああ」
完全に主導権を取られたぞ。
俺たちは戦力外ってことか?
いいけどさ。
戦わなくて済むし。
「ここは……」
「第3ブロックか?」
「そのようだな」
「ふう。いきなり戦闘にはならずに済んだか」
「ということは、この隔壁の向こうは……」
「第4みたいだ」
「第4と第5の隔壁の穴は塞がったのか?」
「……いえ、まだのようです」
あ、放電師を名乗ったヤツの手のひらに映像が映し出されたぞ。
あの穴はドローンが通った穴だな。
「クソッ、土木課はなにをやっているんだ」
「昼夜問わず作業しているようですが、やはり汚染が酷く作業が進まないようですね」
〝戻ったのか?〟
「「「総裁!」」」
お、映像が切り替わったぞ。
この人が総裁か。
貫禄があるな。
副総裁より若い? そう見えるだけ?
それでも白ひげのおじいさんだけど。
〝戻ってこられたということは、地上民が力を貸したということか〟
「それが……」
「村の外から来たという者たちを押しつけられました」
今のは絶対失礼だよね? ね!
〝村の外からだと?!〟
「なんでも機嫌を損ねると村ごと地下世界をも消し飛ばせる力の持ち主だとか……」
〝それは……頼もしいな〟
頼もしいのか。
危険人物とかじゃないんだ。
「はぁ……」
絶対信じてないよね。
〝これで我々も助かるというものだ。よくやってくれた〟
「いえ、当たり前のことをしただけです」
「我らはこれから殲滅作戦に合流します」
〝そうか。健闘を祈る〟
「「「はっ」」」
映像が消えると全員がため息を吐き、肩を落とした。
さっき誇らしげに〝当たり前のことをしただけ〟って言っていたのに、その落差はなんなの。
そんなに俺らが信用できないなら素直にそう言えばいいだろ。
こっちを見ながらため息をつかれたら、こっちもやりづらいぞ。
というか、今〝殲滅作戦に合流する〟とか言わなかったか?
それってもしかして俺らも一緒にってこと?
「移動を開始する。付いてこい」
やっぱりそうなのか……
ま、約束だからなー。
「はい」
次回は不正が横行します




