第55話 元は同じ
「お客人、困ります。離れへお戻りください」
「村長、話がある」
お手伝いさんの制止を振り切り、村長が居る部屋に突入した。
中には村長しか居なかった。
アニカ、中に居るんじゃなかったのか?
「お客人、静かにされよ」
村長は背中を向け、正座をしてなにか書き物をしているようだ。
書道?
「村長、話がある」
「静かにされよと云うに……何用かの」
そう言いながらも、書き物を止めない。
「俺たちはこれから地下へ行こうと思う。許可を貰いたい」
「駄目だ」
「何故ですか」
「お客人こそ、何故許可を欲する」
「何故って、立入禁止だからです」
「っはっはっは。異な事を云う。既に中へ入ったのであろう」
バレてるし。
心琴さんが報告したのかな。
「ご存じでしたか」
「今更許可を得てなんとする。今のように強行すればよろかう。私らにはお客人を止められる力は無い。そうであろう」
「いえ、そんなことは……」
「よい。何故力ずくで行かぬ」
「それを良しとしないからです。立入禁止区域の先に入ったことは謝ります。ですがカメラだけで、人は立ち入っていません」
「それが許されるとでも?」
「その先に居る可能性が高いのならば、なんとしてでも調べます。そしてその可能性は地上より地下の方が高いんです」
「なのに力ずくでは行かぬと……そう云うのだな」
「えー、僕は雇われの身なので、最終的にはエイルに従うことになるかと」
「わっはっはっはっは! そうか、雇われの身か。ということは、今は雇い主の意に反した行動をしていると?」
「……かも知れません」
「反しているわ」
「……彼女はなんと?」
「〝意に沿っている〟と言っています」
「モナカくん!」
「ふむ。怒っているように聞こえるがの」
「気のせいです」
「そうか気のせいか。っふっふっふっふ。面白いヤツよの」
そう言うと、村長は漸く俺たちの方を向いた。
「一を連れて行け。それが条件だ」
「ありがとうございます」
「よい。その代わり」
まだあるのか。
「一が死んだら、お前が心琴を娶れ。よいな」
「はあ?!」
「なに、通い婿で構わん。子を生した後ならば出ていってもよい。それが嫌なら一を生かして戻ればよい。よいな」
「分かったわ」
「エイル?!」
「む、今のは分かったぞ。雇い主の許可は出た。文句あるまい」
くっ……あるっての!
「ありません……」
「っふっふっふ、よい返事だ。一! 一は何処におる」
「まだお戻りではありません」
「仕方のないヤツだ。お客人、一と合流してから行かれるのだぞ」
「話はまだあります」
「む?」
「〝アングラ〟とはなんですか?」
「……お客人には関係のないことだ」
触れられたくない話なのか、再び背中を向けて書き物を始めてしまった。
「朝ここに来た人たちは何処から来たんですか?」
「はて、朝にお客人など居たかの」
「これから下に行くんです。しらばっくれても意味が無いですよね」
「……」
無視かよ。
その沈黙に意味はあるのか?
『マスター、村長の前に掛かっている巻物の裏に通路があるかも。不自然に風でめくれたよ』
『分かった』
そんなのよく気付いたな。
「エイル殿、何を――」
村長が言い切る前にエイルが巻物をめくり上げた。
そこには普通に壁があった。
しかしエイルが壁を押すと開いた。
扉になっているのか。
「この先に朝来た人たちを隠しているのね」
なるほど。
それなら出て行っていないというアニカの証言とも一致する。
あ、翻訳しなきゃ。
「そんなことはしていない」
「あら、今回は〝そんな者は居ない〟と否定されないんですね」
「ふむ。〝そんな者は居ない〟」
言い直すのかよ。
今更だろ。
「もう一度聞くわ。〝アングラ〟ってなに?」
すると村長は腕組みをして黙り込んでしまった。
あくまで教えないつもりか。
「往生際が悪いわよ。答えなさい」
「お前たち、席を外せ」
「「「かしこまりました。失礼します」」」
人払いをしないと話せないことなのか。
お手伝いさんが全員部屋から出ていく。
エイルが苛立ちを隠せず、太ももを指で叩いている。
お手伝いさんの足音が聞こえなくなると、やっと重い口を開いた。
「私らのご先祖がここに移住してきたのは、5千年前と云われておる」
いきなりご先祖の話が始まったぞ。
というか、また5千年前かよ。
「そのとき、環境に適応できた者たちを〝地上民〟、できなかった者たちを〝地下民〟と云うようになった。地下民たちは地下という閉ざされた空間に逃げ、そこで生活をしておる」
「地下では生活できるの?」
「移住前の環境を作ったと云われておる。そしてお互い不可侵を約束した。今朝の者たちはそれを反故にした。彼らの存在を明るみに出すわけにはいかぬ。故に捕らえたのだ」
「村の人たちは彼らの存在を知らないの?」
「知らぬ。故に追い返すわけにもゆかぬ」
「そんなことまで話してよかったの?」
「下手に騒がれて彼らの存在が明るみになるよりはマシだ」
「私たちが話さない保証はないのよ」
「せぬよ、そのようなこと。仮にしたところで、誰1人耳を貸す者はおらぬ」
痛いところを突くな。
確かに俺たちの言うことなんて、誰も信じないだろう。
「一さんなら信じるんじゃないかしら」
「問題ない」
「モナカくん、行くわよ」
「彼らに会って、なんとする」
「地下に連れ帰すわ。私たちと一緒なら、怪しまれないんじゃないかしら」
「……ふむ。なるほど。三者に利がある……ということか」
え、そうなの?
「いささか私らの利が少ない気もするが……よかろう。厄介ごとは厄介者に押しつけるが良し。好きにするがよい。どのみち私らにお客人を止める力は無い」
「ありがとうございます」
「1つ聞いてもよいか」
「なんでしょう」
「あの飛行船の武装で魔物を倒すことは可能か?」
「村ごと消し飛ばしてもよければ、可能です」
「っはっはっは。そうか村ごとなら可能なのか。っふっふ、本当に面白いお客人だ」
そして俺たちは隠し通路の先へと進んでいった。
次回、モナカは下僕になります
……え、最初から?




