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第54話 まだ言えない

 水鏡(みずかがみ)で見える立入禁止区域の先……そこには地下都市が広がっている。

 龍魚(リューギョ)たちは広い遊び場くらいにしか思っていないみたい。

 飛び回っているだけでとても偵察と言えるようなものじゃない。

 観光させに行かせたんじゃないんだけどなー。

 でもお陰で街並みがよく分かる。

 今まで見たことがないような温かみの少ない街だ。

 なにでできてるんだろう?

 少なくとも木じゃないよね。

 石? かな。

 凄く硬そうで冷たそうだ。

 太陽が見えないから町全体も薄暗い。

 人たちに活気はあるのに、色白で青白くて不健康そうだ。

 まるで病人が元気に動き回っているように見える。

 いきなり倒れたりしないよね。

 でもそれ以外はあんまり違いがないのかな。

 むしろこの村より活気があるかも。

 こんな世界が村の下に広がってるなんて……

 でも村長(むらおさ)のところに来た人たちと同じ格好の人は居ないなぁ。

 ここから来たんじゃないのかも。

 あれ、随分高い壁……かな。

 うわ、もしかして天井まで続いてない?

 しかも端っこが見えないや。

 それに壁の付近には殆ど人が居ないぞ。

 しかもこの人たち、壁でなにしてるんだろ。

 ああ、壁に開いた穴を塞いでるんだ。

 穴の向こう側はなにがあるのかな。

 うーん、更に薄暗くなったぞ。

 よく見えないや。

 ……なんか、静かだな。

 建物も壊れてる?

 穴を塞いでいる音だけが辺りに響いてる……

 誰も居ないのかな。

 ん? 今なんか動いた?

 暗くてよく見えないや。

 水の音?

 なにかを砕く音も混ざってる。

 なんだろう。

 あ、人だ。人がなにかして……違う。人じゃない。

 あれは魔物? がなにかしてるんだ。


〝うわぁ、気持ち悪ーい〟


 あっ……

 もう、偵察なんだからちゃんと見ててよ。

 最後にチラッとだけなにかを食べてるように見えた。

 魔物もご飯食べるんだ。

 なにを食べてたんだろ。


〝あっちにも居るー〟

〝こっちにもー〟


 ホントだ。

 なにかを食べてたり、フラフラしたりしてる。


〝気持ち悪ーい〟

〝もう還るー!〟

〝還りたーい〟


 あーもー気持ち悪がってないでちゃんと偵察してよ。

 逃げ回ってばかりじゃ全然分かんないよ。

 あれってホントに魔物だったのかな。

 って、ホントに還っちゃった!

 そんなにイヤだったの?


「「「ただいま」」」

「荷物、取ってくるわね」

「あ……お帰りなさい」


 そっか。だから還っちゃったのか。


「エイル、村長(むらおさ)のところに乗り込むぞ」

「えっ?!」

「〝え〟じゃなくて。いいから早く取ってこい。アニカ、まだお客さんは帰っていないよな」

「うん。お客さんは帰ってないと思うけど」


 鎌鼬(ワールウィンド)からはなにも連絡が無いまま還っちゃったからね。


「なにかあったのかい?」

「ああ。魔物が出てきたんだ」

「魔物?! じゃあ地下に居たのはやっぱり魔物だったんだ」

「知ってたのか」

龍魚(リューギョ)に立入禁止の先を探らせてたんだ。でも魔物を見たら〝気持ち悪ーい〟って言って還っちゃった」

「そ、そうか。還ったのか……」

「うん、ちょっと前にね」

「ちょっと前か……」

「それで、どうするつもりなんだい?」

「本当は騒ぎに紛れて下に行くつもりだったんだけど、いろいろと確認したくてな」

「いろいろ?」

「ああ。それにお父さんが下に居る可能性が高いからな」

「そうなんだ。見つかるといいね」

「魔物が出たんだ。早く見つけて助け出さないと……」

「パパ、行っちゃうの?」

「ごめんな。危ないから鈴は連れて行ってあげられないんだ。だから、ナーム叔母さんとお留守番していてな」

「兄様、わたくしもお留守番なのでございますか?!」

「当たり前だ。そもそも出歩くのを許可されているのは俺と時子とエイルだけだ。そこまで無視するわけにはいかないだろ。大体鈴もアニカも3人とも自分を守る手段を持っていないだろ」

「兄様?!」

「でもここに居れば精霊が守ってくれる。そうだよな」


 トキコさんがボクから離れるからってことだよね。


「うん。そうだね」

「うう、どういうことでございますか?」

「今は気にするな。アニカ、鈴のこと……頼んだぞ」

「わたくしのことは――」

「却下だ」

「兄様?!」

「あっはははは。精霊が嫌がらなかったら、守ってもらえるよ」

「精霊様! わたくしのこともよろしくお願いするのでございます……精霊様? 精霊様っ! 精霊様ぁぁぁぁぁっ!」

「静かにしろ。嫌われるぞ」

「ひぃぃぃぃっ」

「あはははは」


 相変わらずだなぁ。


「ご主人様、召喚できるようになったの?」

「あ、はい。制限はありますけど」

「制限……」

「あまり気にしないでください。大したことではありませんので」

「そう……」


 さすがに本人にはまだ言えないかな。

 でもなんで精霊は還れるのに、本人は還れないんだろう。

 やっぱり人だから?

 そもそも還り方を知らないから?

 ボクが呼びだしてしまったばかりに、ご迷惑をおかけします。

 謝っても、謝りきれません。

 一刻も早く還してあげるのが、最大の謝罪でしょう。

 イフリータに還り方を聞いたら、〝自分の家へ還るだけなのじゃ〟と言われてしまった。

 〝迷子でもない限り、子供でも簡単なのじゃ〟とも。

 迷子……か。

 迷子なら、その道を知ってる人に連れてってもらえれば……

 それはモナカくん? それともセンパイ?


「気をつけてね」

「ああ。アニカもな」

次回は昔々のことじゃったー

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