第50話 まだ動く
しっかしこんなガタガタ震えているのに、本当に大丈夫なのか?
とはいえタイムが押してきたんだから、期待してみるか。
「頼んだぞ」
「さあ来い、魔物ども!」
……なんだこの変わり様は。
怯えたニワトリのような感じだったのに、今は百戦錬磨の達人に見える。
変わりすぎだろ。
「やあぁぁぁぁぁ!」
「ぼああああああっ!」
魔物が叫んだ!
まあ口らしきものが付いているんだ。
声を出せても不思議はないか。
「いーやー!! こっち来ないでっ! 絶! 絶! 絶!」
あ、一瞬で勇ましさがなくなった。
あーあ、泣き叫びながら結界張っているぞ。
結果的に目的を果たしているわけか。
というか、3匹とも足止めしたらダメだろ。
仕方ないなあ。結界ごと斬れるか?
試しに黒埜を投げつけてみた。
[武器投擲]アプリのお陰で綺麗にまっすぐ飛んでいく。
ついでに黒埜を追いかけるように俺も投げ飛ばされる。
そして黒埜は結界をすり抜け、魔物を貫いた。
お、大丈夫っぽい?
そのまま柄に蹴りを入れ、深々と突き刺す。
「針千本、円舞!」
黒埜が魔物の体内で針の玉になり、回転してズタズタにする。
相変わらずエグいぞ、タイム。
ミンチになった上半身を時子の火球が焼き尽くす。
残った下半身が……あ、今度は2足歩行だったか。
個体でバラバラだな。
とにかく残った下半身を倒すために、再び黒埜を抜刀する。
が、斬り付ける前に隣の魔物と合体しやがった。
そういうのもアリなのか。
おお! なんかケンタウロスみたいになったぞ。
……ヤケに馬の胴の部分が短く感じる。
ケンタウロスというよりは、ただの4本脚だな。
かなり不格好だけど、あれで歩けるのか?
と思ったが、タイムの結界に阻まれてこっちにこれないままでいる。
なんか犬の散歩でポールにリードが引っかかって前に進めない! みたいになっている。
あんなんグルッと回ればいいだけなのに……
知能があるんだかないんだか、分からないヤツだ。
「なんだこりゃ!」
心琴さんが1匹目を倒して2匹目に取りかかっていた。
なにがあった?
あっちの魔物も結界に引っかかって動けないのは一緒らしい……ん?
あ! 結界に阻まれて魔物に攻撃できていないんだ。
あれ? 俺の攻撃は通ったよな。
黒埜だから通ったってことか?
そういうことだと厄介だぞ。
「結界師、よくやった。もう解放していいぞ」
「はいっ! 自分に掛かれば、この程度朝飯前です!」
泣いていた子供が一瞬で泣き止んだぞ。
よく分からん子だ。
「ひぃぃ! また来たぁ!」
そしてまた半泣きになる……と。
忙しいな。
新手は結界師に任せるとして、俺は四つ足を相手にしよう。
っと、想像以上に足が速いぞ。先手を取られてしまった。
殴りかかってきたのを黒埜でガード……なに!
切れ味がよすぎて受け止めずに斬り裂いただと?!
勢いそのままでパンチが襲い掛かってくる。
ヤバい、殴られる。
とっさに身体をひねってギリギリ避けるが、そのまま背中を捕まれてしまった。
捕まれたといっても服だけだ。
逆らわずに身体を回転させて、黒埜でそのまま腕を斬り飛ばす。
が、甘かった。
切ったところで死なないヤツだ。
斬った腕がヘビのようになって絡みついてきた。
くっ、身動きが取れない。
「ぐぁぁぁっ」
「殿! 八百万!」
「あ、バカッ!」
サムライが飛び出してきて絡みついた魔物を細切れにし、摩擦熱で灰になった。
さすが本家八百万。
「助かった」
「なにやってるの! あーあ、稼働可能時間が5分も減っちゃったよ」
「申し訳ないでありんす」
「いや、今のは俺が悪い。時子のところに戻るぞ」
一旦退いて体勢を整える。
片腕を失っ……てないな。
太さが半分になっただけか。
なんか、鞭みたいな形に変化したぞ。
攻撃力、上がってない?
「大丈夫?」
「動ける時間がちょっと減っただけだ。問題ない」
戦闘時間は残り16分ってとこか。
あんまり手を離して戦えないな。
それでもやるしかない。
次回、ちょっと大きいのが行きます




