第49話 新しい存在
魔物が腕を突き出しながら無防備に突っ込んでくる。
狙いがあるとかそういう感じじゃない。
勢いに任せて突っ込んできている感じだ。
さっと横にかわして肘の関節部分……と思われるところを斬り付ける。
殆ど抵抗なく振りきれ、同時に時子が蹴り飛ばした。
やるな。
追い打ちとばかりに[火矢]を何本も腕に叩き込む。
凄い連射だ。
あんなに速射できたっけ。
あれが新しい使い方なのか。
斬り飛ばした腕がアッという間に消し炭になる。
「すげえ」
「なんだ今のは!」
「時子の魔法だよ」
「魔法だあ?! あのモザイク画がか?」
そうだな。
俺たちはもう見慣れていて当たり前だけど、初めて見た人は面食らうよな。
ドット絵の魔法なんて。
「気にするな。そういうもんだ」
「無駄口叩いてないで、ドンドン行くよ」
よし、次だ。
って思ったら、俺を投げ飛ばしやがった。
またこのパターンっすか。
確か長く持たないんだっけ。
一気に行くぞ。
黒埜の一撃を腕でガードしようとか、愚策だな。
腕どころか身体も纏めて一刀両断だ。
そのまま回転斬りで胴を薙ぐ。
熟練度が低い割にはよく斬れる。
魔獣の時は首を切りに行って受け止められちまったからな。
そして時子は俺を踏み台にして魔物の上半身を連撃で蹴り飛ばし、今度は[焼滅]を遠慮なく叩き込んだ。
火力高っ!
もうさ、斬り刻まないで直接燃やしてもよくね?
っと、時子の手を取り、飛び退いて距離を取る。
予想どおり下半身が襲い掛かってきていた。
生命力強っ! だからなんでその状態で動けるんだよ。
「モナカ、もっと細かく刻んでよ」
「え、十分だろ。対処できているんだから」
「効率悪いの! [焼滅]は暫く使えないから、当てにしないで」
「分かった分かった」
んじゃあの下半身……3本脚でこっちに向かって走ってきてるよ。
こっちが見えているのか?
「[剛力]はまだ持つか?」
「[強化延長]使ってるから気にしないで」
なんだそりゃ。
なんでもありだなー。
俺もそういうアプリほしい。
でも高いんだよなー。
最近買ったのといえば、両手剣を片手でも扱えるようになるヤツくらいだし。
ないことを嘆いても仕方ない。
やるっきゃないか。
突進してくるなら話が早い。
合わせて斬り刻むだけだ。
が、バカ正直すぎて普通にかわされてしまった。
妙に知能高いな。
ということで、今度は時子を投げ飛ばす!
「はぁぁぁぁ!」
分かっていたといわんばかりにそのまま踵落としをかませ、動きを封じる。
そして脚を掴むと振り回して俺の方に投げて寄越した。
分かってらっしゃる。
「八百万!」
今回はレベル2の1秒に80回斬り付ける方だ。
サムライみたいに800万回とか無理っ!
それでも秒間80回は腕への負担も大きい。
だからといって投げつけられてくるヤツを悠長に斬るわけにもいかない。
0.2秒でキャンセルして負担を減らした。
……あんまりキツくない?
この右手だからかな。
そこに火連弾が飛んできた。
細かく刻んだからか、アッという間に燃え上がった。
なるほど。
確かに効率がいい。
「よっしゃ!」
「マスター、次来るよ」
もう来るのかよ。
「じゃ、今度は心琴さんの腕前を見せてもらおうかな」
「けっ。しゃーねーな。よぉく見ておけ!」
というのは建前で、少しでもバッテリーを温存したいんだよね。
鈴ちゃんのお陰で一晩でかなり充電できたみたいだけど、それでもあと22分くらいが限界だ。
どのくらい続くか分からないんだから、慎重にいきたい。
心琴さんの腕前はというと、確実に俺より上だろう。
俺みたいに大雑把ではなく、基礎ができていて動きがしなやかだ。
無駄がない。
でも武器の違いか、俺みたいに一刀両断とはいかない。
何度も斬り付けてダメージを与えている。
普通の剣と違って焼き斬っているからか、傷が塞がるとかはしていない。
焼くことで再生を妨害しているってことか。
戦い方が全然違う。
これが剣士……
「マスター、次は連続してくるよ」
「数は?」
「3」
多いな。
魔物相手だ。手数が欲しい。
「タイム、行けるか?」
「いつでも行けるでありんす」
「サムライはダメ! バッテリー食い過ぎるんだから」
「いつもいつも主人格ばっかりズルいでありんす。拙者も殿と戦いたいでありんす」
「それはみんな一緒。分かってるから」
「うう、無念でありんす」
「足止めでいいんだから、結界師でいいの!」
「ええっ、自分ですか?! そんなぁ」
「いいからサポートしてきて」
「うう、怖いよぉ」
なんかまた新しい人格? が出てきたな。
大丈夫か?
まあタイムが押してきたんだ。
期待しよう。
次回は2体目と戦います




