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第48話 誰でも忘れることはある

「マスター、来るよ。まずは1体」


 まずは……か。

 つまり後ろに何体も控えているということだ。

 さっさと倒すぞ。


「んじゃま、お手並み拝見っと」


 チッ、体よく押しつけられてしまった。

 まいっか。小手調べには丁度いい。

 あのときの魔物と比べたら小さい小さい。

 人1人分の大きさしかないからな。

 ……本当に元人間なのか?


『マスター、あれはもう人間じゃないからね』

『分かっている。やるぞ』

『タイムも出る?』

『エイルを守ってくれ』

『分かった』

「場所は?」

「多分2時の方向15.6メートル。印付けるね」


 細かいな。でも分かり易い。

 映像で見る限り、なにかがあるようには見えない。

 巧妙に隠してあるのか?


「カウント!」

「えっと、8、7、6……」


 本当ならナームコの時みたいに網でも仕掛けておけば楽なんだけど、そんな余裕は無い。

 なので、飛び出してくることを前提に、カウントに合わせて斬り付けてやる。


「3、2、あっマスター、止まって!」

「なにっ」


 もうダッシュ斬りのモーションに入ってるから無理っ!

 その瞬間、印が付いているところを中心に、地面が数メートルに渡って弾け飛んだ。


「きゃあ!」


 とっさに黒埜(くろの)を投げ捨て、[バックステップ]に合わせて時子を抱きかかえて回避した。

 あっぶなっ。タイムがアプリ(バックステップ)で強制回避してくれなかったら一緒に吹き飛んでいたぞ。


「礼は言わねぇぞ」

「分かってる」

「悪い時子。判断を見誤った」

「ううん。助けてくれてありがとう」

「来るぞ!」


 魔物がエネルギー弾のようなものを撃ち出してきたのを、今度は自力で回避した。


「はっ。自慢の武器を捨てていいのか? 代わってやってもいいんだぜ」

「大丈夫だ、問題ない」


 投げ捨てた黒埜(くろの)が消え、新しい黒埜(くろの)が右手に戻ってくる。

 ふっ、目を丸くして驚いてやがる。


「お前、なんでもありかよ」

「いや、できることしかできないぞ」

「言ってろ」

「モナカ、私のことは気にしないで自由に動いて」

「大丈夫なのか? 脱臼しない?」

「……前回を忘れたの」

「あ、ああ。そうだったな」


 やっぱりだ。

 時子はあのときの魔物戦を思い出す度におかしくなる。

 今も声がちょっと震えていた。

 レイモンドさんのことがショックだったのか、それとも他になにかあるのかは分からない。

 思い出させるようなことは避けないと。


「よし、遠慮なく行くぞ。遅れるな」

「こっちの台詞!」


 よかった。声が戻っている。

 それに魔物が相手だ。気にしてやれるほど余裕が無い。

 それこそ前回と同等なら気後れした時点で負け確だ。

 まだ俺1人じゃ魔物を倒せない。

 だから、時子との連係が必須だ。

 行くぞ!


 魔物はエネルギー弾を連発できないのか、直接攻撃を仕掛けてきた。

 よく見ると既に人の見た目をしていない。

 身体は凸凹。顔はあるのかないのかよく分からないほど崩れている。腕も不自然に曲がっているし、足も3本生えている。

 服も着ているというよりは取り込まれている感じだ。

 遠慮なくやれる。

 右手の力を解放して思いっきり斬り付けてみるか?

 いや、でも抑えることは慣れたけど、解放することは全く慣れていない。

 やり過ぎて時子を傷つけるわけにもいかない。

 アニカに付き添って山に入ったときオオネズミ相手に1回試したけど、勢い余って風圧で地面ごとえぐれたからな。

 危うくアニカを2次元にするところだった。

 そこまで力を入れたつもりはなかったんだけどな。


「大丈夫だよ」

「タイム?」

「あのときのデータから感覚を上手く伝えられるようになったと思うから」

「そうなのか?」

「サンプルが少ないから微調節は必要だけどね」

「分かった。そこは任せる」


 よし、なら試しにオオネズミの時と同じくらい……は怖いな。

 村に巨大なクレーターを作ってしまったら洒落にならない。

 普段どおりでいいか。

次回は、みんな覚えていますか?

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