第44話 訪問者
朝、フブキの散歩ができないから庭で戯れていると、本家の方がなにやら騒がしくなっている。
なにかあったのだろうか。
「心琴さん、なにかあったんですか?」
彼女はずっとここで警戒に当たっていたらしい。
一応仮眠は取れたから心配をするなと言われた。
「お客人には関係無ぇ事だ」
いや、魔物騒動があって、この騒ぎだぞ。
無関係とは思えないんだけど。
『タイム、どうなんだ?』
『うん、何人か人が来たんだ』
『人が?』
『でもこの村だと見ないような服装なんだよ』
『見ないような? 俺らみたいな感じなのか?』
『それとも違うかな。ほら、ここは和服のようなワンピースのような感じでしょ。マスターたちは洋服に近いかな。でもあの人たちはなんていうか……防護服って言うと大袈裟だけど、それに近い感じだよ。全身防御って感じの服。あ! スズメバチの巣を取りに来た人の格好に似てるの。顔のところは網じゃなくてプラスチックだったけど』
それを防護服っていうんじゃないのか?
っていうか、プラスチック? 石油製品?!
『物々しいな。俺たちみたいに外から来たのか?』
『言語的には勇者語……古代語だっけ、そっちに近いかな。だから外じゃなくて中だと思う』
『中?!』
『うん。多分例の立入禁止区域の先じゃないかな』
『あの先……』
『代表が村長と話し合ってるみたい。部屋の中だから内容は分からないけど、確か〝アングラ〟とか呼ばれてたかな』
『〝アングラ〟?』
『うん。だから余所者ってわけじゃなさそう』
『勇者語ね……エイル、〝アングラ〟って分かるか?』
『聞いたことないわ』
『そっか。心琴さんに聞いてみるか』
『止めなさい。バカなの!』
『聞いた方が早いだろ』
『〝アングラ〟を何処で聞いたって逆に問い詰められるのがオチよ』
『あ、そっか』
『少しは考えなさい』
『すまん。タイム、立入禁止の先を見てきてくれないか』
『いいの?』
『そうしないとエイルがまた我慢できずに――』
『〝また〟?』
『えーできずに……突っ走りそうだ』
『ふんっ』
危ない危ない。
そんなつもりはなかったのに、なんで〝また〟とか言ったんだか。
あー怖かった。
でも〝突っ走る〟は〝また〟であってるよな。うん。
「皆さん、いらっしゃいますか」
ふすまの向こうから声が聞こえてきた。
一さんだ。
「はい。います」
「すみません。本家の方が立て込んでいまして、朝食を持ってきました。入ってもいいですか?」
「あ、どうぞ」
お手伝いさんが中に入り、布団を押し入れに片付けてくれた。
布団が片付くと、朝ご飯を中に運び入れてくれた。
勿論、2人分だ。
「ふーん、こういうのを食べていたのね」
「あ、お魚だ。ここにはお魚が居るんですね」
「はい。あなた方のところには居ないのですか?」
「俺は見たことないな」
「私も無いわね」
「ボクは食べたことあります」
「アニカはあるのか?!」
「うん、実家でね」
そういえば実家は金持ちなんだっけ。
この世界唯一の精霊召喚術師の一族。
その中でもトップの力を持つ。
そんなアニカよりも強い思いで〝還りたい〟……か。
「鈴も食べたい!」
「ごめんな。鈴は食べられないんだ」
「やーだー、パパと同じのが食ーべーたーいー」
「娘、わがままを言うな」
「はい、ごめんなさい」
くっ、なんでナームコの言うことは素直に聞くんだ。
反抗期ってヤツか?
「食べ終わりましたら、村を案内します。今日は工業地帯に行きましょう」
「大丈夫なんですか?」
「……なにがですか?」
「取り込み中なのでは?」
「……なんのことでしょう」
さっき自分で立て込んでいるって言ってたのに誤魔化すの?
「はぁ……」
本家から遠ざけたいとかかな。
「立入禁止区域を案内してください」
この込み入ったときにエイルはなにを言い出すんだ。
「それは……」
「〝なんでもする〟って言ったわよね」
あ、ちゃんと聞こえていたんだ。
「ああ。すみません。それはできません」
「騙したのね!」
「騙しただなんてとんでもない。それは僕ではできないことですから」
相変わらずこのことになると冷静さが無くなるな。
理由でも聞いておくか。
「どうして立入禁止なのか、教えてもらえますか」
「先日も申しましたが、魔物が逃げ込んでいるからです」
「それだけですか?」
「そうです」
「心琴さんが居るんだから、関係ないでしょ」
「エイル、落ち着け。わざわざ危険なところに行く必要は無い。行くなら最後だ。すみません。こいつの言うことは気にしないでください」
「モナカくん!」
『だから落ち着けって。ドローンの偵察結果を待て。それからでも遅くはないだろ。行かないとは言っていない』
『タイムさん、どうですか?』
『急かすな!』
「分かりました。村長の許可が下りましたらご案内します。それでよろしいですか」
「お願いします。エイルも、それでいいな」
「……分かったわよ」
ふう、なんとか我慢させたぞ。
でもいつまでもつか……
「待たせたな」
「ううん、大丈夫」
「先に食べててもよかったのに」
「そんな度胸無いよ。それに1人で食べても美味しくないし」
「鈴たちも居ただろ」
俺は時子と一緒に食べられるから嬉しいけど。
「……はぁ、そうだね」
「っはは。食べようか。いただきます」
「いただきます」
俺と時子は用意してもらった朝ご飯だけど、みんなは違う。
まさか庭先で調理をするわけにもいかず、調理場を借りることもできず、保存食を食べている。
鈴が食べたがるわけだ。
ごめんな。
次回は一服します




