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第41話 今更だろ

 どうしてこうなった。

 とにかく脱衣所に移動してエイルの服を脱がす。


「自分で脱げるからっ」

「いいから大人しくしてろ。今更恥ずかしがるな」

「恥ずかしがってなんか……」

「なら顔を赤くするな」

「な、なに言ってるのよ! バカッ」

「ほら、足を上げろ」

「っっっっ!」


 服を脱がされるなんて、身体を洗われることより恥ずかしくないだろ。

 どういう感覚なんだ。

 時子が風呂場に入り、携帯(ケータイ)を使った。

 脱衣所でお湯を出すわけにもいかないからな。


「はい」

「ありがとう」


 シャワーのようにお湯が出ている携帯(ケータイ)をエイルが受け取る。

 まるで携帯(ケータイ)がシャワーヘッドのようだ。

 ホースは付いていないけど。

 前から不思議に思っていたんだけど、時子の携帯(ケータイ)って防水じゃないんだよな。

 あれは平気なのか?


「それじゃ、私は着替えを取ってくるから」

「ああ、頼んだ」

「時子さん、洗い用のタオルも持ってきて」

「分かったわ」


 俺も一緒に入るべく、服を脱ぐ。

 濡れた服を洗わないといけないしな。

 濡れた服を持って風呂場に入る。


携帯(ケータイ)貸して」

「あ、うん」


 服を桶に入れて洗い始めた。


「自分でやるからいいよっ」

「洗うって約束しただろ」

「し、下着は約束してない」

「身体は平気なのになんで下着は恥ずかしいんだよ」

「当たり前でしょっ、バカッ」

「いいから大人しくしていろ。タイム、洗いにくいから携帯(ケータイ)持ってて」

「え、タイムが?」

「そのくらい手伝えよ」

「エイルさん、いいですか?」


 なんでエイルに聞くんだよ。

 普段は肩に乗っている癖に、さっきから中に引っ込んでいるのは何故だ。


勿論(もちろん)です」

「しょうがないなぁ。あ、マスター! 下着はデリケートなんだから、もっと丁寧に扱わないとダメだよ」

「ああ、悪い」

「濯ぐだけでいいよ。洗うのは後でもいいんだから」

「そうか? 分かった」


 汚れを流し、軽く絞る。

 ギュッと絞ろうとしたら、タイムに怒られた。

 そうだよな。

 洗うだけじゃなくて、絞るのも丁寧に扱わないとダメだ。


「タオル持ってきたよ」


 扉の隙間から時子の腕がニュッと伸びてくる。


「ありがとう。これ、よろしく」


 タオルを受け取り、すすぎ終わった服を渡す。

 そしていよいよ身体を洗うことにする。

 まずはお互いの身体を軽く流しておく。

 身体にも付いているからな。

 なにが……とはあえて言わない。

 タイムに流してもらっている間にタオルを泡立……てておけるはずもない。

 備え付けのタオルとセッケンは使えないから、エイルのタオルを使うわけだが……当然俺に使える代物ではない。

 もうさー、本当に俺が洗う必要あるのか?

 とにかく裏技だ。

 タオルをエイルの身体に軽く押しつけて揉む。

 よし、泡だった。


「じゃ、洗うぞー」


 アニカでずっと洗わされ続けていたから慣れたものだ。

 一部サイズ違いはあるものの、それだってあの狭いシャワー室でいつも押しつけられていたから触り慣れている。

 今更なんだということも無くなった。

 なにより相手はエイルだし。


「……ええ」


 歯切れが悪い。

 今更やっぱり別のお願いにする……とか言い出さないよな。

 腕や足、背中やお腹とかはアニカより筋肉質だが問題はない。

 ……俺より筋肉質じゃないか?

 とにかくいつもどおり洗うだけ。

 問題になってくるのは何処とは言わないが、ごく一部だ。

 しかしサイズが違うだけで、こうも洗いにくいとは思わなかった。

 いつもは平面をササッと下から撫でれば終わるのに、突起物がぽよぽよしていて実に洗いにくい。

 どうしてここは他のところと違って筋肉質にならず、柔らかいままなんだ。


「……本当に慣れているわね」

「アニカにやたらと言われたからな。あいつ元男のくせに細かいんだよ」

「男の子だからこそ、興味が湧いて詳しくなるんじゃないの?」

「そういうものか? 興味は湧くだろうけど、所詮自分の身体だから雑になるんじゃないか?」

「モナカくんはそうなの?」

「俺は今も昔も男だ」


 しかし……エイルのは結構重たいんだな。

 アニカの場合は下から持ち上げるようにーとか言われても、持ち上げるものが無かった。

 でもこれは……ズシリとくるぞ。

 こんなのがぶら下がっていたら肩がこるっていうのも頷ける。

 それにタオルを使わず泡で洗えっていうけど、ちょっとでも油断すると手のひらからヌルンって逃げていくんだよ。

 アニカのは1度も逃げたことないのに……

 んー中々同じようには洗えない。


「やっぱり、興味があるの?」

「そうだなー。アニカより重くて大変そうだし、大きい分手のひらからこぼれちゃって洗いにくくてさー」

「っっっっバカッ!」

「っはははははは、悪い悪い。別に遊んでいたわけじゃないんだ。よし、流すぞ」

「……はぁ」

「なんだよ」

「なんでもないわ。ただ、つまんないなと思っただけ」

「なにがだ」

「んー、もうちょっとなにかあるかと思ったんだけど、平然と洗うんだもの。いっそ遊んでくれた方が……ってね。私って魅力無いのかな……なーんて」

「お前は今更なにを言っているんだ」

「べぇぇぇっっつにぃぃぃー」


 こいつ、こんなキャラだったっけ。


「普段から俺の身体を隅から隅まで懇切丁寧に洗っていただろ。その間にどれだけお互いの身体が触れ合ったと思っているんだ」

「もうずっと前の話でしょ」

「1年以上やっていたことだろ。()めてから半年も経っていないし。気にするほどのことか?」

「あっそ」

「なんだよ。機嫌悪いな」

「そんなことありませんー」

「だったら上がるぞ」

「まだよ」

「なんだよ。髪も洗えってか」

「違うわ。今度は私が洗ってあげる」

「はあ?!」

「理由はなんであれ、私が汚したんだから当たり前でしょ。責任を取らせなさい」

「別にいいよ。汚くないし」

「なっ……汚いわよっ」

「お湯でパパッと流せば十分だ」

「いいから洗わせなさいよっ。気にするほどのことじゃないんでしょ!」

「分かった分かった。気の済むまで隅から隅まで洗ってくれ」


 約束に〝洗わせろ〟は含まれていないんだけどな。

 いつものことだし、エイルだし、気にしてもしょうがない。

次回はモナカが洗われます

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