第3話 奇襲
外の景色は次第に自然豊かになってきた。
動物も居る?
魔物……ではなさそうだ。
魔獣か?
でも魔獣が居た場所は灰に覆われた大地だった。
草木は生えていない。
なら、やっぱり普通の動物なのか。
聞いていた話と大分違う。
「まだこんなところが残ってたんだ」
「驚きなのよ」
「これならお父さんが生きていても不思議はないな」
段々木が増えてきたかと思うと、前方に森が見えてきた。
迂回するしかないか。
とはいえ、見える限り端から端まで生い茂っているぞ。
結界の中でも見たことのない風景だ。
壮観だな。
なんて思っていると、アッという間に森に突っ込んでいった。
木々をなぎ倒し、一直線に進む。
「きゃっ!」
「わあ!」
「待て待て待て! ストップ! ストーップ! 止まれ止まれ止まれ!」
「了解」
「タイム、なにやってんの!」
「ふえ?!」
「鈴のナビ頼んだだろ。何処通らせているんだよ」
森に突っ込んでいくとは思わなかったぞ。
「で、でも、迂回路がないんだよ」
「どういうことだ?」
「えっと、周辺地図を表示するね」
「マップ、あるんだ」
「その……地図データ、無断で買いました。ごめんなさい」
あー、そういえば世界地図とかいう地図アプリがあったな。
データさえ買えば詳細な地図が見られるようになるヤツだ。
屋外にしか対応していないけど、十分すぎる。
「いや、構わないよ。タイムが必要だと思ったから買ったんだろ」
そもそも財布の紐はタイムが握っているんだから、気にしなくていいのに。
それに相談無しで買うくらいだ。
大した金額でもないんだろう。
どれどれ……なるほど、確かに森の中心に街があるような感じだ。
いや、どちらかというと、街を中心に森ができた感じか?
とにかく、だからといって突っ切っていくのはどうだろうか。
「鈴、上は通れないのか?」
「高度を上げることは、敵勢力に発見される危険度が高くなります」
敵勢力って誰のことだよ。
魔物か?
「構わない。木をなぎ倒すよりはマシだ」
「了解」
〝兄様、それは――〟
「11260号は平気です」
〝……そうか〟
なんだなんだ、2人でなに納得し合っているんだよ。
「ナームコ、なにか問題でもあるのか?」
〝いいえ、わたくしの勘違いでございます〟
勘違い……ね。
あくまで内緒なのか。
そんなやり取りをしていると、船がゆっくりと上昇していた。
木々に覆われていた視界が徐々に晴れ、森の上に出る。
そしてゆっくりと船が進み始めた。
今までと比べるとかなりゆっくりだが、それでもフブキが走るよりは速い。
所々に背の高い木があるが、それを避けるように進んでいく。
モニター越しだとよく分からないが、船底が木に擦れているみたいだ。
もしかして、これ以上高く飛べないのか?
〝兄様、ご心配なされずともよろしいのでございます〟
「ナームコ、分かっていたのなら何故止めなかった」
〝申し訳ございません。でございますが、承知で兄様の仰ることに従ったのは、スズ様ご自身の意思なのでございます。そのご決断をわたくし如きが止めるなどという烏滸がましいことが出来ようはずがございません〟
そうか、あのときのやり取りはそういうことだったのか。
鈴ちゃんを見ると、苦しそうな様子は見えない。
本当に大丈夫なのか……
「前方から接近する飛行物体あり」
「なに?!」
時子の声が船内に響く。
接近する飛行物体?
一体なにが。
「接触まで、3・2・1・0」
突然のことに誰もなにも出来なかった。
ただモニターを見つめ、赤い球体がぶつかってくるのを見ていることしかできなかった。
ぶつかった……んだよな。
の割になにも起こっていない?
「第2波来ます。数……えーと、5」
「回避するのよ!」
「了解」
狙いがかなり正確だ。
確実にこの船を狙ってきているのは確かだろう。
なら誰が?
全てを回避しきれなかったらしく、モニターの端に爆発らしきものが見えた。
……が、やはり爆音も衝撃も感じられない。
当たっていないのか?
「被害はどうなのよ?」
「ありません。シールド損耗率は無視できます」
シールドで完全に防いだってことか。
避けるのとシールドに任せるのはどっちの方が負担が低いんだろう。
『タイム』
『突っ込んだ方が低いよ』
『お、おう。エイル!』
『聞こえてるのよ』
理解が早くて助かる。
とはいえ、だ。
「一旦着陸して身を隠そう」
「了解」
「第3波、来ます!」
スッと森の中へと降りていく船。
その上空を飛行物体が通り過ぎていく。
降りるときに木を倒してしまったのは仕方がない。
「第4波のよ?」
「……今のところ、来ていません」
時子のヤツ、さっきからノリノリだな。
あんな言い方、普段しないぞ。
まさか、楽しんでいるのか?
……いや、顔は真剣そのものだな。
緊張しているだけか。
「なに?」
「いや……緊張しているのか?」
「う……しょうがないでしょ、初めてなんだから。本物なんか見たことないし。アニメを真似てるだけよ」
「そ、そっか」
アニメのマネね。
確かにあんな感じだったかも知れない。
「どこから……いや、誰が撃ってきたんだ?」
「状況からして街の住民なのよ」
「街があるのか?!」
「地図に載ってるのよ」
地図……世界地図か。
「確かに街があるのは見たけど、廃墟じゃないのか?」
「廃墟じゃないのよ、攻撃してきたのよ」
「なるほど。だからっていきなり撃ってくるのか?」
「うちが知るわけないのよ」
ごもっとも。
「えーと、こういうときは白旗を掲げてゆっくり近づけばいいのか?」
「そういう文化が残っているのよ、怪しいのよ。少なくとも結界の中のよ、残ってないのよ」
それでも知っているってことは、また勇者小説の知識ってことか。
「じゃあどうするんだ?」
「うちに聞かないのよ」
「船長はエイルだろ。方針を決めてくれ」
「……時子、レーダーに人影は無いのよ?」
「え、人影?! えっと……なんの反応も無いわ」
「何処から攻撃が来たのよ?」
「ええ?! えーと、えーと……こ、この辺だったかな」
レーダーのモニターを指さしても、分かんないって。
「ここって何処なのよ?」
「ふええっ?!」
「タイム、世界地図に反映できるか?」
「分かった。鈴ちゃん、マップデータ送るから統合と反映をお願い」
「了解。マージ開始します……マージ完了。推定射撃地点、マークしました」
……今、鈴ちゃんに丸投げした?
まあ船のシステムに統合させただけってことにしておこう。
「その地点に人は居るのよ?」
「生命反応無し。魔力反応無し」
「残留魔力も無いのよ?」
「えーと……あ、これか…………なにも感知できません」
「今のよ、魔法じゃないってことなのよ?」
言われてみれば、火球に似ていた気もする。
大きさが桁違いだけど。
でも魔法じゃないんだよな。
ならなんだっていうんだ?
「タイム、ドローンは飛ばせないのか?」
「船の中からだと無理だよ」
「なら外に出るぞ」
「危ないよ!」
「外に出るだけだ。出歩かないよ。シールドの内側に居れば安全だろうし。あ、それだとドローンも飛ばないのか」
「そうだね」
「なら外側に出ればいい。何匹飛ばせる?」
「ナースとタイムの分で2匹だよ」
「なら1匹は船周辺の警戒をさせておけばいいだろ。危なくなったらシールドの中に逃げ込めばいいんだし」
「う、うん」
「よし、ちょっと行ってくる」
「気をつけるのよ。アニカ、通信で話しかけてみるのよ」
「ええっ?!」
アニカ、頑張れ。
さあ手厚い歓迎の始まりだ(手荒い歓迎ともいう)
次回はドローンを飛ばすよ




